第1章 夏至祭狂詩曲

1 コリンシアの想い1

コリンシア13歳


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 私が幼い頃、祖国で内乱が起こった。病のお祖父様に代わって国主代行を務めていた伯父様は行方不明となり、そのお手伝いをする事になっていた父様は捕えられた。混乱の最中、私と身重だった義母様は辛うじて国を脱出し、彼女の故郷に身を寄せた。

 お祖父様と伯父様の家族を人質に囚われながらも、優秀な父様の部下達と陰ながらの各国の支援のおかげで内乱は1年ほどで終息した。それは私達を命がけで守りながら旅を続け、そして内乱が終結するまで常に励ましてくれた騎士見習いの少年への恋心を育てるには十分な時間だった。




 大きな姿見にプラチナブロンドを結い上げ、青いドレスを着た少女が映っている。それが私、コリンシア・テレーゼ・ディア・タランテイル。13歳。

タランテラ現国主、エドワルド・クラウスの第1皇女で、5大公家の1つ、フォルビア家の次期当主が現在の私の身分。だけど……物心つくまで田舎で暮らした所為か、格式張ったものは苦手。

「お綺麗です、姫様」

 着替えを手伝ってくれた侍女頭のイリスが褒めてくれる。去年から準備してくれていたので達成感があるのだろうけど、でも……正直、ちょっと苦しい。

 内乱からこの国で一番大きなお祭りの夏至祭は、内乱でお爺様や伯父様だけでなく、たくさんの人が亡くなったから父様の命令で規模を小さくして行って来たの。それでも無くしてしまうのを止めたのは、自分の感情だけで街の人達の楽しみを奪っちゃいけないって思ったんだって。

 だけど、内乱からもう6年経って国も気持ちも落ち着いたから、今年から元にもどす事になったの。それとこの秋から私が礎の里に留学するから、飛竜レースと武術試合の上位成績者から護衛として同道させる竜騎士を選ぶ目的もあるんだって。

 初日の今日は飛竜レース。夜明けと同時に竜騎士達が飛び立っていくのを私は自分のお部屋の窓から見送った。その中には大好きなティムもいる。周囲の話では優勝候補の1人なんだって。

 もうじきお昼。そろそろ一番手が帰って来る時間。出立はともかく、帰着は皇家の者が揃って出迎えるのが伝統だから、私はゴールになっている本宮前広場へ行って、父様や母様と一緒に帰って来る竜騎士達を迎えるの。だけど、下の弟アルベルトはまだ赤ちゃんだからお留守番ね。

「ありがとう」

 私は侍女達を労うと、迎えに来た女官の案内に従って部屋を出た。南棟からの回廊の入口で既に着替えを済ませた母様が輿の側に立って待っていた。目が不自由なので北棟から出る時は輿を使うようにと母様を大事にしている父様に言われている。彼女が連れている小竜がいれば、彼が見ている物を見ることが出来るんだけど、無意識に力を使いすぎちゃって体に負担がかかっちゃうんだって。

「コリン、綺麗よ」

 母様に呼ばれて側に行くと、優しく撫でて抱擁してくれる。血は繋がっていないけど、優しい母様の事が大好き。この人に出会えて、母様になってくれて、本当に良かった。

「エルヴィンは?」

「もうすぐ来るわ。さっきまで遊んでいたから……」

 母様が苦笑する。今日の飛竜レースは楽しみにしていたはずだから、嫌で逃げたのではないと思う。単に乳兄弟達と遊んでいて時間を忘れていんじゃないかな。

「母様、お着替えできたよ」

 乳母に付き添われてエルヴィンが駆け寄ってくる。勢いよく走って来るので、側に控えて居た護衛の1人が途中で抱きとめた。誰にでも突進して抱きつくので、母様がよろけて転ぶのを未然に防いでくれたらしい。そのまま抱き上げられて連れて来られたエルヴィンは、母様の前に降ろされた。

「ちょっと待って」

 母様は屈んでエルヴィンの襟元のちょっとした乱れを手直しする。いつもやんちゃな弟は母様の前だけは大人しい。私が世話をする時とは大違いで何だか悔しい。

「では、参りましょうか」

 母様がエルヴィンを連れて輿に乗ると屈強な男達がその輿を持ち上げる。他にも兵士が控えているが、彼等はいざという時の護衛も兼ねていると父様から教えてもらっている。本宮内に危険はもう無いのだけれど、それでも万が一を忘れてはいけないのだと父様は言っていた。

 母様の輿に並んで歩くと、すれ違う文官や女官が脇に控えて頭を下げる。もうおなじみの光景だけど、誰もが母様に心から敬意を表してくれているのがとても嬉しい。

「まだ着いていないかな」

「大丈夫ですよ、姫様」

 エルヴィンを待って大分時間が過ぎてしまった。私は間違いなくティムが一番で帰って来ると信じているので、到着の瞬間を見逃してしまっていないか心配になっていた。そんな私に付き添いの文官が声をかけて安心させてくれた。



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