第52話 新武器

 時は戻って約一週間前。


「うわ!」


 魔石に魔力を流して魔法を発動させたが発動した瞬間目の前で爆発した。


「どうか、した?」


 エマが奥から顔を覗かせる。

 いや今はお店の奥を借りてる状態だからこっちが奥かな?


「いや、ちょっと魔法が爆発してな」


 この魔法は爆発するような物ではないのだが。


「爆発? 理由は?」


 理由と聞かれても問題があるとすれば、書いた魔法陣くらいしか思い浮かばない。


「うーん何だろう? もう一回、紙に【転写】して見てみるか」


 紙を取り出してアーツを使う。


「【転写】」


「ここと、ここ、足りない」


「あ、ホントだ。線が足りないな」


 紙を見てみるとエマが指摘した2箇所に有るはずの線がなかった。


「きちんと書かないと、魔法発動しない」


「そうだな……ん? 発動? ……なあ、これってさ、意図的に書き換えたらどうなるんだろうな」


 線が足りないと暴発する。それはつまり魔法陣が完成していないと言うことなのか? 今回は魔法が発動した。だがそれは狙った魔法ではなかった。

 もしあの魔法陣が完成形だとしたら? あの魔法陣は爆発するタイプの魔法として完成していたとしたら? 本当に失敗した魔法陣なら発動すらしないんじゃないだろうか。


 それから俺とエマは魔法陣を書いて書いて書きまくった。書いた数は優に1万枚を超えるだろう。幸いなのはエマがこういう作業を苦だと思っていないことだった。エマが居なかったら、魔法陣の法則に気付くのにはまだまだ時間が掛かっただろう。


 そう、魔法陣の法則に俺とエマは気付いたのだ。


 魔法にはいくつか法則性があった。


 まず魔法陣の真ん中はその魔法の属性を決める図形だった。

 これは簡単に分かった。多分10分もかかってない。

 次に射程だ。これは先ほどの属性の周りの図形が関係していた。

 その更に外周は魔法の威力。

 その次が効果範囲。

 その次がホーミング性能。

 最後に速度。


 このようになった。暴発した魔法陣は射程と範囲の部分の線が足りないせいで射程が短く、範囲は広がってしまい、目の前で爆発したのだ。


 だが今見るとこの魔法陣はひどいな。これ、もう少し効果範囲が広かったり射程が短かったら俺まで巻き込んでたぞ。


 ……巻き込む? 巻き込まれたらどうなるんだ?

 自分の放った魔法って当たったことないな。ちょっと試して見ようかな。


 ……はい、吹っ飛びました。もちろんダメージもしっかり貰っています。

 ただこれは色々使えるかも知れないな。


 まあ今はそれより先に作りたい物がある。それを作ってみよう。




 ◇




「これ、何?」


「俺の世界での武器だ。ここまで作るのは結構骨が折れたな」


 今、目の前にはミスリルで作った新武器があった。

 例によって手袋で作った。

 エマに新しい道具なんかも作って貰い、何とか完成形に持ってこれた。


 まあ簡単に言えばスナイパーライフルだ。

 流石にライフリングなんかは作れなかったが、撃つのは魔法なので問題ない。


 中には射程、威力、速度を最大まで上げた魔法陣を入れた魔石が入っている。もちろん魔石の入れ替えも可能だ。


 ちなみに射程、威力、効果範囲、ホーミング性能、速度、を最大に上げた魔法陣を作ってみたが、はっきり言って使えたもんじゃなかった。一回発動するのに俺の総魔力の20倍ほどの魔力がいるのだ。最大にするのは三つが現実的だった。四つ目から必要な魔力量が一気に跳ね上がる。


 ハンドガンなんかも用意した。こちらも魔法を各種作った。

 これでいちいち【クイックチェンジ】を挟まなくてもマガジンを変えるだけで打ち分けが可能になる。こっちの魔法陣もいろいろいじってある。初見でよけるのは難しいだろう。


 ……ちなみに無理と言わなかったのは、すでに最強の人モルドさんで実験済みだからである。

 いやまさか避けるとは思わなかったね。あ、ちゃんと周りに人がいないときに挑んだよ。ちなみにモルドさんにもアーティファクトを使われました。こっちが使うと相手側も使うようになるんだね。ちなみにどんな魔法陣が使われているかはさっぱり分からなかった。


 あと、他にもロンに連絡して足装備だけ変更して貰った。もちろん魔法道具アーティファクトにするためである。


 使いこなすのに中々時間を使ったがおかげでかなり速く動けるようになった。


 これで今度のイベントも何とかなるだろう。




 ◇




「只今戻りました」


 ログを確認してくると言って消えた高梨が戻ってきた。


「お、お帰り高梨ちゃん。どうだった?」


「リューヤ選手は居ますか?」


 戻ってくるなりいきなりそんなことを言ってくる高梨に少し驚きながら山田はリューヤの姿を探す。


「リューヤ選手? ちょっと待ってな……お、居たぞ、今はギルドの屋根に昇ってるな。こんな所で何してるんだ?」


「……恐らくですが狙撃です」


「狙撃? そういえば手になんか持って……ってあれって銃!! あんな物あったか?」


 あのフォルムは間違いなく銃だ、しかも銃身がかなり長い。スナイパーライフルとか言う奴だろうか? だがおかしい。山田は銃型の武器がこのゲームに無いことを知っている。ならばあれは何なのだろう?


「無いですよ。あればリューヤ選手が作成した物です。しかも魔法陣まで改変してしまうとは」


「魔法陣の改変って、確か専用のスキルが必要じゃなかったか?」


 魔法陣の改変には【魔法陣】と言う特殊なスキルが必要なはずだ。そのスキルはスキルソードでしか手に入れられないしそのスキルソードを手に入れた人がいるなんて話も聞いてない。


「はい、そのスキルを使っても何となくこうすれば良いと分かる程度の物なのですが、彼はスキルを持っていないにもかかわらず完全に法則を網羅してますね。今のところ使う事が出来るのが彼だけというのが唯一の救いでしょうか」


「ちなみにあれにはどういう魔法が使われてるんだ?」


 どういう魔法が使われているかだけでも知っておいた方が良いだろうと高梨に聞いてみる。


「あれには……射程、威力、速度を限界まで引き上げてますね。今のところあれに当たったらほぼ即死ですよ。盾を構えても恐らく3発も食らったら盾の耐久値がなくなります」


「……へ? ……それ何てチート?」


 控えめに言ってゲームバランスを思いっきりぶっ壊しに掛かっている威力に絶句した。


「まあ弱点もありますけど。魔力消費量が普通の魔法の3倍近いです。更に言えばホーミング性能がほぼ皆無ですので少しでもずれれば当たりません。と言うより何で彼は当てられるのかが謎なレベルですね」


「そんなに難しいのかい? 彼を見てるとそんなふうには見えないけど?」


 モニターに映っているリューヤは次々と魔物の胴体を打ち抜いている。


「山田さんって【魔力操作】って使えましたよね」


「ああ、使えるけどそれがどうかした?」


 山田は数少ない【魔力操作】を十全に使える人間だ。まあ高梨も同様に使えるのだが。


「ちょっと待ってくださいね………これですね使ってみてください」


 いつの間にか高梨の手にはリューヤが持っていたのと同じスナイパーライフルが握られていた。


「これって……コピーしたのか。まあ確かにちょっと興味はあったし、使ってみようか」


 目の前に的が現れた。距離は大体50メートル。リューヤが撃っているのは約500メートル、およそ10倍だ。これは少し俺のことをなめすぎじゃないかと魔力を込め引き金を引く。


 弾は大きく右にそれて飛んでいった。

 山田はすぐに斜角を修正してもう一度撃つ。

 今度は大きく左にそれた。


 結局山田が的に当てることが出来たのは5発を超えたあたりだった。


「このように50メートルでもこの難しさです、今回は動かない的で行いましたけど、実際は動く相手に当てることになりますから、どれだけ凄いことか分かりますね」


「うん、身にしみたぞ! しかも想像以上に魔力を持って行かれる。これを使うかと聞かれても俺は使わないだろうね。彼、リアルでは暗殺者かなんかじゃないの?」


「リアルのことを話すのは禁句ですよ」


「う……すまん」


「そういえばスキルやら何やらの解説を全くやっていませんでしたね」


「そういえばそうだな。リューヤ選手の作った魔法道具アーティファクトに気を取られすぎたな。さて今の順位はこうなっているぞ!!」


 再び順位表が二人の間に現れ二人の解説が続いていった。

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