第51話 見えない攻防
イベントは町中で行われる。
町中と言っても住民や参加しないプレイヤーがいる中でやるわけではない。
現在居る町と全く同じマップに転送されるのだ。もちろんこのマップには住民や、参加していないプレイヤーは、いない。
「と言うことで始まりました第一回イベント。注目の選手や面白いスキルなど色々解説していくぜー。
「同じくGMの高梨です。ちなみにこちらの音声はイベント参加者には届きませんのでご了承ください。モンスターを倒した事による、プレイヤーのレベルアップなどは行われませんが、スキル入手、スキルレベルアップは行われます。その他詳しくは公式HPに書いてあります。興味のある方はご確認ください」
誰も居なくなった噴水広場にいくつか巨大なディスプレイが現れGMと名乗った男女が映っている。ちなみに山田が男、高梨が女である。他のディスプレイには、選手がモンスター相手に戦っている姿が映し出されている。
「まずはルールの再確認だ。モンスターを倒すことによって、そのモンスターに応じたポイントが手に入るぞ。そしてプレイヤーをキルすれば、そのプレイヤーの持っていたポイントの半分を奪うことが出来るぞ!」
「ちなみにモンスターの場合もプレイヤーの場合も、ラストアタックの人がポイントゲットです。ラストアタックだけ奪うのも一つの手ですよ」
「さてまず注目の選手は強力なパワータイプ、
「大きな大剣を二本持って一撃でモンスターを屠っていき、一気に大量の得点を稼いでいますね」
コウが大剣を一降りするだけでモンスターがポリゴンとなって消えていく。
このまま行けば大量得点間違いないだろう。
「お次の注目選手はルカさんですね。ステータスAGIとSTRに大きく振って【風属性魔法】を使い縦横無尽にフィールドを駆け回り、もの凄い高速攻撃でモンスターを倒して行ってますね」
「ちなみに空中を移動しているのは【空歩】のスキルだな。空中に足場を作って移動するスキルだぜ」
【空歩】のスキルは以前リューヤとフライビルフィッシュを倒しに行った時に入手した物だ。
【風属性魔法】を使ってAGIを上げ、手数を使ってモンスターを倒している。
「後はミキ選手なんかも凄いぜ。魔法の腕は勿論のこと【棒術】もすばらしい腕前だぜ」
「強力な魔法で複数の敵をまとめて倒していますね。【棒術】を使い、魔物の攻撃を弾いたり受け流したりもしていますね」
リューヤが渡した棒は少々重いがそれに見合うだけのSTRがある。しかし、それなりの技がなければあの様なことは出来ない。
「あの指輪が杖の代わりをしてるみたいだな! そういえばルカ選手もあの指輪付けていたな。指輪の制作者は同じようだな」
「よく見たらあの指輪、
そう言うと高梨のアバターが画面の中から消えた。
「おっと、高梨がログを探りに行ってしまったな。こうなったら俺一人で解説するしかないな」
画面が切り替わり、山田の横に半透明のパネルが出てきた。
「これが現在のポイントと順位だぜ!」
パネルには出場している選手の名前と獲得ポイントそして順位が表示されている。
ポイントと順位は常に変動しているようだ。
現在は先ほど言っていたコウ、ルカ、ミキに加え、ナツメとフェルスがトップ10に入っている。
このイベントはリアルで13時から15時までの2時間。ゲーム内時間では8時間とかなり長い。もちろん8時間戦い続けることの出来るプレイヤーなどいない。故にどのタイミングで休憩を取るかも大事になってくる。
◇
「一先ずこれくらいにしとくか」
コウは近くに居た一匹のモンスターを切り捨てながらつぶやき、近くの建物の陰に身を潜めて座る。
現在イベントが始まってから30分が経過した所だ。
30分というとリューヤがモルドと刀で戦った時と同じ時間だが、その程度の時間
モルドとの戦いは一瞬でも気を抜けば、それで負けになる。そういう戦いだ。
だが一撃で倒せるモンスターとの戦いは、やめようと思えばすぐやめることが出来る。そういう気持ちの違いでコウは30分も戦いを続けることが出来た。もしコウがリューヤと同じような技術を持っていたとしても、残念ながらモルドと打ち合える時間は10分も持たないだろう。
一応すぐに動けるように余力を残してるとは言え、コウはやはりアイツにはかなわないなと呟きながら立ち上がり、大剣を振り上げる。
そしてそこには上から奇襲を掛けようとしたプレイヤーが居た。
プレイヤーのHPがなくなり動かなくなる。HPが0になったプレイヤーは1分はその場に残るのだ。
この場所ももう使えないなと休憩する場所を変えるコウ。
これは簡単に言えばバトルロイヤルである。出会ったモンスターはもちろんプレイヤーも敵なのだから。休んだ瞬間に奇襲を掛けられることなど当たり前に行われる。恐らく一度も死なずに済むのは運の良い者とそれなりの強者に絞られるだろう。
コウは順位表を見ながら眉をひそめた。
「リューヤの名前が載ってない?」
◇
ルカは早めに休憩を取り、現在ポイントをもう一度稼ぎ始めた所だ。
「コウ兄は恐らく少しの余力を残して休むはず、なら恐らくコウ兄が休むのは始まってから20~30分後位。その時が稼ぎ時」
モンスターが大量に涌くとは言え、プレイヤーが一気に狩ってしまったらその数は減少するだろう。つまり狩るのに最適な時間は最初から大量に涌いているイベント開始直後と、一気に大量に狩る人が休む時間の二つだ。
ルカの知っている中で一気に大量に狩ることが出来る人はそこまで多くない。その中でも一番多く狩るであろうリューヤは、はっきり言って、ずっと戦い続けることが出来るんじゃ無いかと言うくらいの規格外なので除外。
次に多く狩るであろうミキとコウだが、ミキの動きは予測出来ないが、脳筋のコウなら何となく予想は出来る。
よってコウが休むであろうこの時間帯に動き始めたのである。
もちろんそれだけが理由ではない。もしコウと狩りの時間がかち合ってしまい、万が一町中で会うことになれば恐らく戦うことになるだろう。
だがその場合、勝っても負けても被害は甚大だ。だが片方が休憩を取っている時、もしくは復帰したばかりの段階なら、恐らく片方は逃げに入るだろう。それを追って深手を負うほどバカなことはしないはずだ。
問題はそんなことお構いなしに全て壊してくる
◇
ミキは10分ごとに休憩を取るようにしていた。
いくらマジックリングのMP回復速度上昇があるとは言え、一応純粋な魔法職であるミキにはMPの回復が追いつかないのである。
それでも戦おうと思えば30分ほどは連続で戦えるが、そうなるとプレイヤーに狙われた時あっさり負けてしまう。MPの枯渇なんてしようものならただのカモだ。
なのでMPを常に半分以上残した状態で戦っている。
一応棒術もあるが、これは詠唱のための時間稼ぎや詰められた時の対処などに使うのが目的で、あまり敵を倒すようなことはしていない。
「そろそろ行きましょうか」
こまめに休憩を取るため戦闘への復帰が速いので、現場の状況を確認しやすいミキはいち速くそれに気づいた。
「何かが……飛んでる?」
何かがもの凄い速さで飛んでいるのだ。
飛ぶと言うと真っ先に思い浮かぶのはリューヤだが、今回【飛行】スキルは使えないはず。
いや、飛んでいると言うよりは降りているという方が正しいかもしれない。
町中の一際高い建物……冒険者ギルドから一直線に降りてきたその光はモンスターに当たると……
HPバーを吹き飛ばしてモンスターを貫きそのまま地面を抉った。
ギルドからモンスターまでの距離は約500メートル。その距離を1秒にも満たない速さで駆け抜けた光は、一撃でモンスターを屠ったのだ。
これは……狙われたら避けられない。
丁度あの位置からはここが見えていないはず。
こんな攻撃を出来る人は……知っている中では一人しか居ない。
ミキは物陰に隠れ、順位表を開きその人物を探した。
順位表を見てその人物が居ないことに一瞬眉をひそめるが、そんなことは後だと画面を下にスクロールさせてその人物を探す。
もう一度光が放たれモンスターがポリゴンとなって消える。
その瞬間探していた文字……リューヤのポイントが増えた。
「ほぼ確定ね」
ミキは冒険者ギルドの方角を見てあそこにだけは近づくまいと誓った。
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