第36話 南のボス

 PVPも終わり、ヤオスのペナルティが決まり、牢屋に転移した頃には野次馬も散っていったが……


「戦い足りないな」


 俺は不完全燃焼だった。モルドさんと戦ってからスライムキングと確か……ヤオスだっけ? と戦ったがどちらも弱すぎる。モルドさんとの戦いは楽しかったが、さっきの戦いはつまらない。ちょっと今からエルダーウルフの所にソロで行こうかな。


「おいリューヤ」


「ん? おうコウか。ルカとミキもこんな所で奇遇だな」


 声を掛けられ顔を向けると、そこにはコウとルカとミキの三人がいた。


「いや掲示板で騒ぎになってたから見に来たんだよ。まあおまえに心配なんて無用だったな」


「いやあれは相手が弱すぎただけだ。モルドさんクラスの奴だったらどうなってたか」


 アイツが弱くて良かった……いや、不完全燃焼である今の状況から考えると強い方が良かったのでは?


「あの人クラスのプレイヤーなんていねえよ。……いやリューヤはその部類だな」


「リュー兄って【体術】もそこそこ出来るんだね」


 ルカがそう言って俺の手元を見る。こんど【体術】用にガントレットかグローブでも作った方が良いな。あとAGIって単に身体の動きが速くなるだけじゃなくて、動体視力も上がるんだな。斧がよく見えた。


「まあな、一応スキルを教えてくれたのはモルドさんだしな。……と言うかリュー兄?」


「うん、掲示板でお兄ちゃんって言ったらコウ兄と間違われて、ややこしいからリュー兄って呼ぶことにしたの。後リアルの方も龍兄たつにいって呼ぶことにしたから」


「そうか、まあ特に問題ないから良いけど」


 今更呼び方が変わった所でリューヤの名前で呼ばれるのは2日目だ。リアルの方もはっきり言ってそんなに支障は無い。


「リューヤはこれからどうするの?」


 ルカが聞いてくる。


「そうだなソロでエルダーウルフでも行こうかと……いや、クラーケンに再挑戦もありだな」


 エマも待ってることだろうしな、モルドさんのおかげでレベルが上がったし、リベンジもしたいしな。


「クラーケン? そんなモンスターいたかしら?」


 そういえばクラーケンってボスモンスターじゃないんだよな。βの時は羽の生えたカジキだったらしい。確か名前はフライビルフィッシュだっけ? 飛ぶカジキってまんまだな。


「クエストのモンスターでな。海にいるんだけど1回手も足も出ずに負けてるんだ」


「リュー兄に勝つってそんな凶悪なモンスターがいるの」


 おい、俺に勝てる=凶悪みたいに言うなよ。


「でも海って船がないと行けないわよね。木工でもまだ船は出来るレベルじゃないって聞いたけど、どうやって行ったの? 歩いて行ける所なの? それともまさか泳いだの……いやでもリューヤなら」


 おいミキ、いくら俺でもそんなことはしない一体俺をなんだと思ってるんだ。


「いや、流石に泳いだりはしないよ。飛んでいったんだ」


「そういえばリューヤって翼あったな。戦ってる時以外見ないから忘れることがあるんだよな」


 確かに、コウのいうとおりだ。俺が翼を出してる時って、戦ってる時が多いんだよな。町ではあんまり目立ちたくないから、いつも仕舞ってるし。実際俺も忘れる時がある。


「そのクラーケンってどんなモンスターなの? 名前からしてタコかイカなのは分かるけど」


 ルカが聞きたそうにしてるがそんなに情報は無い。序盤で負けちゃったからな。


「大きいイカだったな。メイスがほとんど効かなかったから打撃に強いんだろうな。オマケに飛ぶと足を使って海の中に引きずり込まれた。飛ぶのは愚策中の愚策だな」


「いや、リュー兄以外に飛べる人って今のところいないからね」


「なあ、俺たちこれから狩り行くけどどうする?」


「いや俺はクラーケンに挑むことにするよ。クエスト進めないと行けないし。それと今日は0時までに寝ろよ。もし超えてもログインしてたら没収だからな。コウとミキも起こすの俺なんだからログインしてたらゲーム機は没収するからな。ちなみに没収の件は既に許可をもらっているからな。ログインしてたら次の土曜までギアは無いと思えよ」


 昨日、電話した時についでにといったら許可をもらえたので遠慮無く没収できる。

 ルカは出来ないのにコウとミキが出来るとなると絶対拗ねるだろうからな。ちなみに光輝と美月は毎朝俺が家に訪ねて起こしに行っている。おい光輝はともかく美月、お前は女だろ少しは恥じらいという物を持てよ。


 その後もう一度釘を刺してから三人と別れた。


「さて、じゃあクラーケンの所行きますか」


 と言うわけで、クラーケンと戦うために海へ向かう。


 やっぱ誰もいないな、一人くらい釣りに来ている人がいてもおかしくないと思うのだが?

 まあここにだって魔物が出ないと言う保証はないしな、魔物が出るなら住民がいないのもうなずけるし、釣りだって釣れる魚の使いどことが今のところ【料理】くらいだしな。

 趣味スキルって呼ばれてるし、戦闘にはまったく使わないからな。でもナツメとラルミィに美味しい物を食べさせるってのもありだな。今度魔物の肉で試してみようかな。でも火ってどうしよう。ナツメの【ファイヤーボール】で焼けるかな?


 翼を出して空を飛ぶ。


 このあたりだったかな? あ、なんか雰囲気が変わった気がする。多分ココだな。釣り糸を垂らしてみよう。


 お、この引きは当たりだな。


 海の中からクラーケンが出てくる。

 そして同時に海の中から岩が迫り上がる。

 このまま飛んでいると海に引きずり込まれるので、岩に降りる。


「【召喚サモン】ナツメ、ラルミィ」


 ナツメとラルミィを召喚し臨戦態勢に入る。


 今日は面白くない戦いが多かったので、こいつで鬱憤を晴らそう。あれ? 何か俺戦闘狂みたいになってないか? まあ気のせいだな。それに押しつけられて始めたこのOLFWも何気にはまってしまっている。これは召喚士を選んだことも原因の一つかな。今はナツメとラルミィがいることが当たり前のような感覚になっている。まだ初めて2日目なんだけどな。まあこっちでは4倍に速さで時間が進んでいるから、体感的にはもっと長い時間だが。


 それはともかく今はクラーケンだ。さあリベンジマッチだ。

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