僕と君

甲斐

僕と君

「さよならの前に覚えておきたい。君は一体何者だったの?」


 僕は僕だよ。君の友だちさ。


「それは知ってるよ。でも僕は、友だちである君の事を全然知らないんだ」


 そんな事はないだろう?


「そんな事あるさ。君はおにごっこが好きで、かくれんぼが嫌いで、ハンバーグが好きで、ピーマンが嫌いだ。そのくらいの事なら知ってるけど、他は分からない事だらけだ」


 例えば?


「1人が嫌いなのにどうして僕以外の人を見るとすぐにどこかへ行っちゃうのかも、どうしてふと気付いた時にはまた隣に居るのかも、どうして僕がひとりぼっちの時は必ず隣に居てくれるのかも、君の事が全然分からないんだ」


 それは僕が君の友だちだからだよ。"君がひとりぼっちの時でも寂しくないようにずっと側に居る"それが君の友だちである僕の役割だからね。


「じゃあ役割が無かったら君は僕の友だちじゃなかったのかい?」


 それは無いよ。ぼくは"ひとりぼっちは嫌だけど、上手く友だちを作れないきみの心"から生まれてきた存在なのだから。


ぼくが、ぼくを生み出した?」


 あぁそうさ。

 でもその役割ももうおしまい。

 きみはもうひとりぼっちなんかじゃない、ぼくがいなくても友だちを作れるんだよ。


ぼく1人じゃ友だちなんて作れないよ。今までぼくの友だちはぼく1人しか居なかったんだ。これからもぼくが居てくれないとぼくは……」


 大丈夫、きみなら出来るよ。きみにはもうぼくは必要ないんだ。

 きっときみぼくの事を忘れてしまうけど、きみは沢山の友だちを作れるから大丈夫。寂しくなんてないんだよ。


「そんな……忘れるなんて嫌だよ」


 だけど……だけどもし、願いが叶うのなら。

 いつかぼくを見つけてください。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕と君 甲斐 @KAiNECO

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ