そでふりあい

零-コボレ-

そでふりあい

よる、ゆだる、なつのよる。

この歳でヨーヨーを手に提げている、そんな事実に気が付いてちょっと恥ずかしくなった。やっている最中は熱気で気づかないけど、よく考えてみればなかなかである。でも嫌いじゃない。光に透ける半透明の青い球体は、なかにほんのすこしだけ水をとどめている。

すこし先をゆくあなたをとてとてと追いかける。そでが一瞬、ふり合う。浴衣ってのは歩きにくい。足をいろいろ気にしなくちゃいけないのがめんどくさい。人が着ているのを見たら「かわいい綺麗素敵」で済むのだけれど。

わたしがみているからかもしれないけれど、あなたは浴衣が似合う人だなぁとつくづく思う。なんで今が洋服の時代なんだ、きっと和装は全部に合うんじゃあないか、全部見てみたい。着せ替え人形になってほしいなって叶いもしないし言えもしない願いをそっと指先で抱く。

ななめまえを歩くあなたの手にはスーパーボール。きれいだよね、って訊かれた。スーパーボールを通して見た世界って変に色がついて面白いよ、なんていわれた。だからわたしもいっしょになってスーパーボールから世界を見た。黄緑色で気泡が入ったそれはなんだかあなたみたいだった。

いつもわたしの知らないことを教えてくれて、世界を塗り替えてくれる。自分だけじゃ知りえなかった世界を教えてくれる。

今、あなたはちゃんとここでわたしのすこし前を歩いているのに、なんでかあなたがここにいないみたいな錯覚を起こす。

いつでもあなたはわたしの先を行く。帰るときも、歩くときも。

物理的な意味だけじゃなくても、常にあなたはわたしの前を行く。わたしが走って走って、やっとあなたの隣に並びかけたかな、なんて思ったときにはあなたはもっと先を行っている。どんだけわたしが頑張ろうがあなたはするり、と逃げていくのだ。今日逃してしまった金魚すくいの金魚みたい。いつかわたしはあなたを掬い損ねすぎて穴が開いてしまうんじゃないか、そんな変な危惧をした。

あなたが歩く。わたしが必死についていく。

そでがまた、ふりあう。

袖振り合うも多生の縁という。袖が触れ合うようなちょっとした出会いも、前世からの因縁によっておこる、という意味らしい。

もしそうならば、何回も袖が触れ合っているってことは前世でどんな因縁があったのですか、かみさまおしえてください。

・・・そんな意味じゃないって、わかってはいるけれど。

それでも、なにかあなたとわたしを繋ぐ運命的なものがあったなら。

なんて、御伽噺みたいな空想は、きっとこのなつのよるの熱気のせい。

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そでふりあい 零-コボレ- @koboresumomo

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