結構鋭いとこ突いてたなあ……
雄治は雨の中、車を運転しつつ、引っ越しの段取りを語り始めた。
あたしはこの後雄治の部屋で、荷物の梱包を全部済ませる。あたしが手伝えば、今日中に全部梱包が済むだろう、というのである。
で、それから電車で宮崎市に帰る。電車賃は勿論、雄治持ち。
雄治は明日、再びお父さんから車を借りて、荷物の運搬二往復。あたしはその間、雄治からお金を預かり生活用品の買い出しを行う。そうすれば明日中に、引越作業完了らしい。
雄治は明日の夜から、ゆっくり宮崎の新居に寝泊まり出来る。来週平日まで費やし、無理に父親の車を借りて荷物移動する必要がなくなる。
「いいよ。そのくらいの手伝いなら、紗耶香さんに任せなさい」
あたしは二つ返事で引き受けた。いやあ、なんて優しいイイ女なんでしょ。……
助手席でスマートフォンを取り出し、メモ帳アプリを起動する。雄治がハンドルを握りつつ、バス、トイレ用品やキッチン用品等を次々と口頭で挙げるのを、あたしがメモする。うん、大抵は百円ショップで揃いそう。――
大方メモし終わったところで、車は市街地を抜け、つづら折りの山道に差し掛かかった。雨足が少し強くなった気がした。
周囲にちらほらとアヤシい看板が目に付く。山道から少し奥まった所に、幾つかオトナのための謎の宿泊施設があるらしい。
初めて男子とふたりきりで車に乗るあたしとしては、つい、それらの看板を意識してしまう。あはははは(汗)
そこは雄治も同じらしい。不自然に会話が止まってしまった。車内に何とも表現し難い、若干ピンク色の雰囲気が漂う。そんな雰囲気を慌てて振り払うように、雄治はオーディオを操作し音楽をかけた。
低弦の鋭いイントロが鳴り響く。ん?、これってマーラーの二番じゃん。
「ほぉ~~。雄治ってマーラーを聴くんだ……」
「へ? 紗耶香もこン曲、知っちょっと!?」
「知ってるよ。マラ2の一楽章でしょ。大好きだよ」
「そイは意外やなあ……」
あたしは両親の影響で、子供の頃からクラシックが好き。それも軽い綺麗な曲より、重量級のフルオーケストラ曲が好み。どうやら雄治もそうらしく、中高とブラスバンドをやっていてトランペットを吹いていたらしい。
意外なところでふたりに共通の趣味があることを知る。
雄治はオーディオのボリュームを絞った。
「紗耶香は古代史に詳しいと?」
「いや、全然わかんないよ」
「そン割に、昨晩の書き込みなんか、結構鋭いとこ突いちょったなあ……」
「あ、そりゃもう卑弥呼様から教えてもらった事を、そのまんまメモっただけだから」
「う~ん……。じゃかイ、不思議やっとよねえ……。単なるオカルトやら妄想やち片付けられんとよ。古代史に詳しくねえと分からんような、重要な論点が幾つも含まれちょる。
「ふ~ん……」
そういうものなのか。――
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