古代史観改ざんメソッド
有村雄治という短髪ずんぐりむっくり男は、日頃は比較的穏やかな性格だが、ふとしたきっかけで妙なスイッチが入りアツくなるようである。意外に正義感が強いのか。
四人のうち、彼だけ出身高校が異なるためまだ三ヶ月の付き合いしかないが、最近漸く彼の性質が見えてきた。
「雄治の言う通りやね」
と、黒木敬太郎が言う。
「初代神武天皇の即位は、戦前には紀元前六六〇年っち言われちょったとよね。戦後、『そりゃ歴史的におかしい』ってことで否定された。そこまではまあ解かるっちゃけど、必要以上に大和朝廷の歴史を短く見せたいがため、教科書から神武天皇の名を消し、朝廷ではなく『ヤマト政権』と表記を変更した」
彼はグラスの中身を、ぐいと一気に飲み干すと、
「それがつまり、『まず思惑ありき』って話やね。レジュメの『三つの可能性』のうち、三番目ありきで古代史観を構築している……っちゅうことやね」
と、彼の推測を語った。
「じゃっどじゃっど~」
と同意する有村雄治が、少々興奮気味である。
戦後、占領軍GHQによる「戦争犯罪プログラム(WGIP)」戦略の片棒を担ぎ、歴史学者が皇国史観の否定を図った。
我が国の歴史は極めて長い。
そのため何と紀元前にまで遡り、根っこから歴史観を改ざんするという「暴挙」をやらかしたのだ、と彼は鼻息荒く主張するのである。――
「教科書を見ても、そン痕跡が色々あっとよ」
「どういうこと?」
「例えば、戦前まではずっと千年以上『大和朝廷』っち呼んじょった。さっき言うたように、今ン教科書は「ヤマト政権」ち書いちょっじゃろ!? こイだけでん、立派な印象操作じゃっとよね」
「何で?」
「『大和朝廷』じゃったら、立派な国家ちイメージじゃろ!? 『ヤマト政権』ち表記やったら、どげんや? まだまだ何とン知れん、弱小勢力んごたるじゃろ!?」
「あ、そうか……」
「邪馬台国の記述にしても、同じじゃろね。魏志倭人伝の記述からすりゃ、邪馬台国も立派な国家じゃっどん、教科書には『邪馬台国連合』なんち書かれちょる。イメージ的に、屁とン知れん弱小国の寄せ集めんごたるじゃろ!?」
「う~ん……。言われてみれば、そうかも」
「学者はそげんして、『古代日本には、国家と呼べるような政権は存在しなかった』っち印象操作しちょっとよ。ウソとは言い切れんどん、ギリギリの『改ざん』やろな。神武天皇も架空の人物扱いしっせ、教科書には名前も出さん」
「……」
「で、八世紀初頭『日本という国名を、対外的に正式に名乗った辺りを、国家日本の成立と見做す』とか言うちょる学者もおっとよね」
「へぇ~~~~。それは幾らなんでも、やり過ぎの気がする……。さすがに八世紀ってことはないよね」
「じゃろ? 古くかイ存在する大和朝廷やら邪馬台国を『国家とは呼べないレベルだった』ち矮小化しっせ、我が国における国家成立の時期を、ちっとでん後ろに後ろにずらす。そイが学会の思惑に基づく『古代史観改ざんメソッド』じゃっとよ」
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