展望室パーティー

「「「「お坊ちゃま、お嬢様いらっしゃいませ!」」」」




 そう高円寺達は声を揃えて言い、そして胸と腰に手を添えて恭しくお辞儀し私達を迎え入れた。


 ウェイターの姿であるが、その動作は優雅でクラスの皆はその姿にうっとりする。


 斯く言う私も、その姿を少し格好いいと思ってしまったのだった。


 そうしてクラスの皆は高円寺達の案内の下、皆期待に満ちた顔でパーティー会場である展望室に続々と入っていく。


 そして私もその波に混じり、高円寺達にバレないようコソコソと会場に入っていったのだ。


 だがしかし突然目の前に、四本の手がスッと差し出された。




「「「「詩音お嬢様、ご案内致します」」」」


「うぎゃ!」




 私の行く手を遮るように立ち、高円寺達四人が私に手を差し出して微笑みを浮かべていたのだ。




確かに見付からないようにするのは、ハッキリ言って無理だと分かってはいたけど・・・出来れば今日ぐらいは見逃して欲しかったな~。




 そう心の中で嘆いていると、突然高円寺達と私の間にカルが割り込んできて、私を背中に隠してきた。




「詩音に近付くな!」




 そう鋭い声でカルは言い、高円寺達を睨み付ける。


 そして高円寺達も、そんなカルを不機嫌な表情で睨み返していたのだ。


 その一触即発な雰囲気に、私はカルの後で深くため息を吐きスッとカルの後ろから抜け出してその横に並んで立つ。


 そして私は高円寺達を鋭く見据え、ハッキリと言い放った。




「先輩方!今日は私に構わないで下さい!」


「え~!詩音ちゃ~ん、どうして~?」


「誠先輩、そんな悲しそうな顔しても駄目ですからね!そもそも先輩方の今日の立場は何ですか?」


「・・・接待役だな」


「豊先輩そうです!今日は私の『クラスの』接待役ですよね?『私だけの』接待役では無い筈ですよね?」


「・・・確かにそうだな」


「健司先輩、認めて貰えたのなら理解して頂けましたよね?だから今日は、私に構わず皆を接待して上げて下さい!」


「し、しかし・・・」


「高円寺先輩!今回は反論受け付けません!ちゃんと自分に与えられた仕事をして下さい!もし出来ないようでしたら・・・今後一切、先輩方とは口を聞きません!!」


「「「「なっ!」」」」


「良・い・で・す・ね?」




 私が目をつり上げ腰に両手を当てて高円寺達にそう言うと、高円寺達は渋々ながら頷いてくれたのだ。


 それを満足気に見た私は、次に隣にいるカルに顔を向ける。




「それから、カルも今日は私に構わないでね!」


「え!!」




 優越感を露に高円寺達を見ていたカルは、私の言葉に驚き目を見開いて私を見てきた。




「ど、どうしてオレまで?」


「それは、先輩方だけだと不公平だから」


「で、でも!オレは接待役じゃ無いよ?」


「・・・この機会に、もう少しクラスの皆と親睦深めてきたら?」


「だけど!!」


「もー!反論は受け付けないから!もし私ばかり構うようなら、カルとも口聞かないからね!!」


「うっ!」




 まだ不満そうなカルをその場に残し、私は後で事の成行を楽しそうな表情で見ていた響と呆れた表情で見ていた三浦の下に向かう。




「さあ、特別料理食べに行こう!」




 そう言って私は二人の腕を取り、さっさと会場内に入っていったのだった。






 今回のパーティーは立食形式となっている。ただ1クラス分規模のパーティーなので、料理の種類はそれほど多くは無いがその分質にこだわっているそうだ。


 私は取り皿を手に持ち、ワクワクした表情でテーブルに並んだ色鮮やかな料理に目を輝かせていた。




「美味しそ~う!!どれから食べようかな~?」


「料理は逃げないし、ゆっくり食べなよ」




 三浦がクスクスと笑いながら、私と同じように取り皿を手に取る。


 ちなみに私と一緒に会場へ入った響だが、いつの間にか側からいなくなり、気が付いたらクラスの女子に囲まれて楽しそうにしていたのだった。


 私はそんな響に呆れながらも、もう気にしない事に決めて早速料理を取り皿に乗せ始めたのだ。


 そしてある程度興味がある物をお皿に乗せた私は、次に一番食べたい物があるコーナーまで向かった。


 そこはシェフ達が目の前でお肉やオムレツを焼いてくれるコーナーで、私はその両方お願いしたのだ。


 私の注文を笑顔で受けてくれたシェフ達は、コンロの火でフライパンを温め、そしてそこに美味しそうな牛肉やオムレツ用の卵を入れて手早く調理してくれた。


 そしてあっという間に、ジューシーに焼けた牛肉とふわふわのオムレツが出来上がり、私はそれをお礼を言って受け取る。


 さすがにこれ以上は持てないので、まずこの皿に乗った美味しそうなご馳走を食べる事にし、三浦と一緒にテーブルだけが置かれている場所に移動した。






「う~ん!美味しい!!」


「うん!本当に美味しいね!特にこのオムレツ、外は焦げ目なく綺麗な表面でさらに中がトロトロの半熟だから、口の中であっという間に無くなるよ!」


「本当にそうだよね!よし!もう一回作って貰おう!」




 私はそう言いすっかり空になった皿を手に持ち、再び料理のコーナーに向かおうとしたのだ。




「あの・・・詩音さん」


「え?」




 突然後ろから声を掛けられ私は驚いて振り向く。


 するとそこには、クラスメイトの男子が一人もじもじしながら立っていたのだ。




「うん?私に何か用?」


「え~と・・・せっかくこんな機会だし、良かったら僕と・・・」


「僕と?」


「・・・・・ひっ!」


「???」




 最初顔を赤らめながら話し出してきた男子生徒だったが、何故か急に別の方に視線を向け、そして小さな悲鳴を上げると次第に顔が青ざめていってしまった。


 私はそれを不思議に思いながら、その視線の先を追ってすぐに理解する。


 その視線の先にはクラスの皆に囲われながらも、すごい形相でこちら・・・正確には、この男子生徒を睨み付けている高円寺達四人とカルがいたのだ。




「ご、ごめん!僕もう向こう行くね!!」


「え?べつにあの人達の事なんて気にしなくても・・・」


「ま、また今度!」




 私が呆れた表情を高円寺達に向けていたら、話し掛けてきた男子生徒は慌てて離れていってしまった。しかし離れる途中、三浦の側で立ち止まり三浦に小声で話し掛ける。




「・・・三浦君、何で君は睨まれないの?」


「う~ん、僕が無害な男友達だからかな?」


「・・・なんだよそれ」




 三浦が苦笑混じりに男子生徒に答えると、その答えを聞いた男子生徒はあまり納得して無い表情のまま去って行ったのだ。




「それにしても、何の用事だったんだろう?」


「・・・・・相変わらず、こう言う事は鈍いね」


「へっ?三浦君、何か言った?」


「ううん。何でもないよ。さあ、料理取りに行くんだよね?行こう!」


「あ、待って三浦君!」




 男子生徒の用事は気にはなったが、今はとりあえず料理を食べる事に集中しようと思い、先を行く三浦の後を慌てて追い掛けたのだった。






 デザートまで一通り食べた私は、もう一巡しようかと思案していると、私に付き合ってほぼ一緒の物を食べていた三浦が、さすがに食べ過ぎで気持ちが悪いと言ってトイレに行ってしまったのだ。


 私はそのヨロヨロとトイレに向かう三浦の後ろ姿を見送りつつ、付き合わせて悪かったかなと少し罪悪感が沸いたのだった。


 しかし確かにまだ食べれるとは言え、さすがに食べ過ぎだったかもと思い、三浦が戻るまで少し休憩しようと夜景が見える窓際に移動する。


 そして窓際に着くと、私は眼下に広がる光景を眺めた。




うわ~!校舎に設置されている照明や学園内の外灯が、至る所で輝いていて綺麗~!!・・・あれ?よくよく考えたら私、展望室来たの初めてだった!確かに私の部屋も上層階で眺めは良かったけど、展望室から見る景色はさらに凄いんだね!!




 そう感激しながら、眼下の光景に魅入っていたのだ。


 すると私は照明に照らされていないながらも、その存在感が分かる裏山に目が行った。




そう言えば・・・あそこで気持ちよく歌ってる姿を、高円寺先輩に見られていたんだよね?・・・それも、何度も。




 そう考えると何だか急に恥ずかしくなり、顔が熱くなってきてしまったのだ。


 私は慌ててその顔の熱を冷まそうと、手をパタパタ振って小さな風を顔に当てていた。


 すると突然目の前に、シャンパングラスに入った綺麗な色のジュースが現れたのだ。




「え?」


「お嬢様、ジュースをどうぞ」


「こ、高円寺先輩!?ど、どうして?」


「・・・君が暑そうにしていたから、冷たいジュースでもと思ったんだ。・・・これぐらいは許して貰えないか?」




 そう苦笑気味に言いながら高円寺が、さらにグラスを私に差し出してきたので、私は動揺しながらもそのグラスを受け取った。




「あ、ありがとうございます・・・」


「どう致しまして」




 私が受け取った事にホッとしたのか、高円寺は私に微笑んでくる。


 しかし私はその顔を見ていられず、再び視線を窓の外に向けた。




ビ、ビックリした!!まさか何気に高円寺先輩の事を考えていたら、その本人が現れるとは思っていなかったよ!!




 そう思いながらなんとか早鐘を打つ心臓を抑えようと、グラスを持った手とは反対の手で胸を押さえていたのだ。


 しかしそこで高円寺がまだ近くに立っている事に気が付き、私はそっと高円寺の方を伺い見る。


 その高円寺はと言うと、何故かじっと窓の外を見ていたのだ。




「・・・あの裏山・・・あそこで初めて君が歌っている姿を見て・・・私は恋に落ちたんだと思う」


「・・・っ!!」




 その高円寺の言葉に、私は治まり掛けていた動悸が再び激しくなりだし、そしてどんどん顔が熱くなってきて思わず俯いてしまう。




「確かに最初君を見た時は、私の容姿に全く反応を示さない変わった子だなと思っていただけだったが、それが切っ掛けで君に興味が湧き、そして君を知る毎にどんどん気になっていったんだ」


「そ、そうなんですか・・・」


「だがあの裏山の湖で、動物達と戯れながら歌う君の姿が一番衝撃を受け、それからずっと頭から離れられなくなっていた。そしてその姿を何故か他の誰にも教えたく無いと思い、さらに君に言うともうその姿を見る事が出来なくなるのではと思い、ずっと黙って見ていたんだ。・・・すまない」


「い、いえ、もう過ぎてしまった事なので・・・」




 高円寺の謝罪に応えながらも、私はまだ顔を上げる事が出来ないでいたのだ。




「・・・詩音さん、どこか具合でも?」


「だ、大丈夫です!ちょっと食べ過ぎただけなので、ここで一人で休んでれば治ります!それよりも、接客の仕事して下さい!」


「しかし・・・」


「あ~!雅也ずる~い!!約束破って抜け駆けしてる~!!」




 突然榊原の声が聞こえ、チラリとその声のした方を見ると、榊原が頬を膨らませてこちらに近付いて来ようとしている姿が見えた。




「高円寺先輩・・・」


「・・・分かった。あまり無理しないようにね」


「・・・はい。ジュースありがとうございました」




 そうして高円寺はまだ心配そうに私を見ながらも、榊原の下まで歩いていき、そして榊原に何か言って説得したのか不満顔の榊原と一緒に再びクラスの皆の下に去って行ったのだ。


 私はその姿を見送った後、もう一度窓の外に視線を向け手に持っていたジュースのグラスを一気に煽って中身を飲み干す。


 しかし冷たい飲み物を飲んだのに、一向に顔の火照りは治まってくれず、私は三浦が帰ってくるまで暫くその場で、この激しい動機と顔の熱を抑えるのに苦労したのだった。

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