モテキ継続中?

 あの高円寺達から告白を受けた翌日から、私の日常は慌ただしくなった。


 せっかく詩音に戻り平穏を取り戻したと思ったのに、響の振りをしていた時のよう・・・いや、それ以上に面倒な事になっているのだ。






 ある日の昼時・・・。




「あ!詩音ちゃ~ん!今からお昼?良かったら僕と一緒に食べに行かな~い?奢ってあげるからからさ~!」


「え?いえ、奢って頂く理由が無いので・・・」


「僕が奢りたいの!男なら、好きな女の子に奢ってあげたいと思うのは普通だよ~?」


「す、好きな女の子って!!」


「勿論、詩音ちゃんの事だよ?」


「っ!!」




 榊原の言葉に私は、一気に顔へ熱が集まったのだった。






 さらに別の日の放課後・・・。




「詩音さん、良ければ俺と経営学について話さないか?」


「な、何で経営学!?」


「将来、俺の会社の経営に関わる可能性があるだろうからな」


「私が!?何で豊先輩の会社に関わる事になるんですか!?」


「詩音さんには・・・俺の妻になって貰う予定だからだ」


「なっ!?」




 私は桐林の言葉に、驚愕の表情で固まってしまったのだ。






 またある日の放課後・・・。




「よう!詩音さん!これからちょと俺と一試合しないか?」


「・・・嫌です」


「まあまあそう言わんとさ!今日は・・・こいつも一緒なんだぜ!」


「え?」




 私がキョトンとしていると、藤堂兄の後ろから藤堂弟がひよっこりと顔を出してきた。




「詩音姉様!」


「け、健斗君!!」


「俺・・・詩音姉様と兄様の試合見たいです!それから・・・良かったら、俺とも手合わせ願いたいのですが?」


「そ、それは・・・」


「それに・・・詩音姉様、兄様と婚約されるんですよね?」


「・・・・・は?」


「おいおい健斗・・・まだ気が早いだろう。俺はそうなったら良いなと言っただけだぞ?」


「そうなんですか?でも俺は・・・詩音姉様が兄様と結婚して、俺の本当の姉様になってくれたら嬉しいです!」


「うっ!!」




 藤堂弟がとても期待するキラキラした目で私を見てきて、思わず言葉に詰まってしまう。


 するとその横に立っていた藤堂兄が、ニヤニヤした表情で私を見ている事に気付き、その表情を見てこれはわざと藤堂弟を連れてきたなと、頬を引きつらせながら藤堂兄に冷たい視線を送ったのだ。






 そうして藤堂兄弟からなんとか逃れた私は、ため息を溢し肩を落としながら寮への道を歩いていたその時・・・。




「詩音み~つけた!」


「うわぁ!」




 いきなり後ろから、カルが抱きしめて来たのだ。




「ちょ!カル!!」


「う~ん!やっぱり詩音の抱き心地最高だ!」




 そう言いながらカルは、私の頭に頬をグリグリ押し付けてくる。




「いい加減に離して!」


「嫌だ!」


「・・・何でそんなにいつも抱き付いてくるの?」


「そんなの・・・好きだからに決まってるじゃないか!」


「っ!」


「好きな子に触れたいと思うのは、おかしな事じゃ無いと思うよ?」


「カ、カル・・・」




 カルはそう言って、さらに抱きしめる力を強めて来たのだった。






 そんな皆の好意を受ける毎日に、私は戸惑いながらも辟易していたある日・・・。


 私は先生に頼まれて、顔の前まで高く積み上がっている資料の本を、両手で支え持ちながら図書館に向かって廊下を歩いていた。


 視界がよく見えない事に難儀しながらも、人にぶつからないように気を付けながら廊下を進む。


 すると突然、視界が広がり持っていた本の重みも軽くなった。




「え?」


「女の子がこんな重い物持って・・・少し私が持とう」


「こ、高円寺先輩!?」


「本当は全部持ってあげたいが・・・君の事だからそれは嫌なんだろう?」


「勿論です!と言うか、全部私が持ちますから返して下さい!」


「・・・図書館に向かえば良いのかな?」


「ちょ!高円寺先輩!私の話聞いてください!」




 しかし私の訴えなど聞いてくれず、高円寺は私よりも多くの本を手に持ちどんどん先に歩いて行ってしまう。私は慌ててその後を追ったのだ。






「・・・ありがとうございました」


「気にしなくて良いよ。もし今度もこんな事があったら、私に言ってくれれば手伝うよ」


「い、いえ!高円寺先輩に手伝って頂かなくても、私一人で充分出来ますので!」


「・・・好きな人の手伝いをしたい、私の気持ちも察して欲しいな」


「っ!そ、それは・・・」




 高円寺の甘い微笑みに、私は動悸が激しくなり高円寺の顔を見ていられなくて思わず俯いてしまう。


 すると高円寺は、俯いた私の頬に手で触れてきた。




「詩音さん・・・」




 その甘い声音に、さらに心臓が早鐘を打ち始めていたその時。




「あ!高円寺、ここにいたのか」




 突然高円寺を呼ぶ別の声が聞こえ、私と高円寺はその声の聞こえた方を見る。


 するとそこには、多分三年生の男子生徒だと思われる人が、何かの書類片手にこちらに歩いて来ていたのだ。




「・・・どうかしたのか?」


「あ~邪魔してすまない・・・だが、ちょっと至急見て確認して欲しいものがあるんだ」


「何だ?」


「これなんだが・・・」




 男子生徒はチラリと私の方を見てからすまなそうに高円寺を見て、持っていた書類を高円寺に手渡し受け取った高円寺はそれを難しい表情でじっと見る。


 そして書類から目を離した高円寺は、私の方を名残惜しそうに見ながら口を開く。




「詩音さん・・・すまない。ちょっとこの書類の事で調べに行かないといけなくなったから、ここで失礼させて貰うよ」


「あ、そうなんですか。分かりました。手伝って頂きありがとうございました!」


「・・・出来れば、もう少し残念そうにして欲しかった」


「え?何か言われましたか?」


「・・・いや。じゃ詩音さんまたね」




 高円寺は苦笑し私に一度手を振ってから、その男子生徒と一緒に去って行ってしまったのだった。


 私は高円寺が去った事でホッと息を吐き、どうも最近高円寺と一緒にいると落ち着かなくなる自分に戸惑っていたのだ。




「・・・ねえ、あれ見ました?」


「ええ見ましたわ!あの高円寺様に、重い本を持たせるなんて何を考えているのかしら!」


「いくら顔が良いからって・・・幼馴染みのカルロス様だけに飽きたらず、榊原様や藤堂様それに桐林様にまで手を出されるなんて!あまつさえ高円寺様にまで色目を使うなんて!!」


「全然お似合いになりませんわよね!」


「ええ!」




 私の後ろの方で、そんな事をコソコソ話す二人の女生徒達の声が聞こえてくる。そしてその声に、私は密かにため息を吐いたのだ。




またか・・・。




 高円寺達が人目もはばからず私に構ってくるので、時々こう言った人達が現れるのだった。


 確かに響の振りをしていた時も高円寺達に構われていたが、やはり同性と異性では見方が変わってくるようで、今ではすっかり高円寺達のファンからこんな陰口を叩かれる事が暫しあるのだ。




・・・はぁ~好きでこんな状態になってるわけじゃ無いんだけどな~。出来れば変わって欲しいくらいなんだけど・・・と言うか、コソコソしないで堂々と私に文句言ってこれば良いに・・・。




 そう心の中でもう一度ため息を吐くと、話をしていた女生徒達の方を向く。


 すると私が振り向いた事で女生徒達は驚いた顔をしたが、すぐ私に挑むような目で睨み付けてきたのだった。


 私はその様子に苦笑いを浮かべながら、どうしたものかと思案していると、響のあるアドバイスが頭を過る。




・・・やっぱり、あれやるしか無いのか。




 そううんざりしながらも、私は一度目を閉じ深呼吸をしてから、再び目を開け二人の女生徒達に満面の笑顔を見せた。


 その瞬間、女生徒達は驚愕に目を見開き頬を赤く染めてポーと私を見つめてきたのだ。




「・・・よく見ましたら、どなた共とてもお似合いですわ」


「・・・そうですわよね」




 そんな呟きが聞こえてきて、私はガックリとうなだれる。




やっぱりこうなった・・・。




 どうも陰口を叩いてくる女生徒が増えてうんざりしていた時、響からその人達に満面の笑顔を向ければ一発で解決するよと言われ、とりあえずそのアドバイス通り陰口を叩いてきた人達に満面の笑顔を向けていたのだが、結果としては皆この目の前の女生徒達と同じ反応になってしまっていたのだ。




一体何でこんな反応されるんだろう・・・。




 そう思い乾いた笑いが溢れながらも、私はまだ惚けた表情でいる女生徒達をその場に残し去って行ったのだった。






 そんな日々を過ごし、最近陰口を言ってくる女生徒が減ってきたなと不思議に思っていたある日、今日は学園祭の人気投票で獲得した学生寮展望室でのパーティーの日がやって来たのだ。


 私は最近の鬱憤を晴らす意味で、パーティーに出る料理を心行くまで堪能する気満々で、パーティー会場の集合場所に指定されてる展望室入口にクラスの皆と一緒に待機する事にした。


 今日の私の服装は、スカート丈が膝までのピンク色のシンプルなパーティードレスを着ている。


 そして私は沢山食べるつもりでいたので、なるべくお腹回りがキツくならない服装を選んでいたのだ。


 しかし周りを見ると、皆結構気合いの入った服装をしていたので、気楽なパーティーの筈なのに何でだろうとその様子を不思議に思っていたのだった。


 すると私に気が付いた、礼服をそれぞれ着た響と三浦そしてカルが私の下にやって来たのだ。




「詩音~!そのドレスよく似合ってるね!でも・・・ちょっとシンプル過ぎない?それに・・・お腹回りの部分がゆるゆるのような・・・」


「うるさい響!私はこれで良いの!」


「・・・あ~料理か」


「三浦君~?何か文句でも?」


「ううん!むしろ詩音さんらしいと思っただけだよ」




 そう言いながら、三浦は呆れた表情を私に向けてきたのだった。




「・・・オレは可愛いと思うけど?」


「あ、ありがとう・・・」




 カルが笑顔で誉めてくれたので、私はその言葉に頬を熱くして俯く。


 すると開場の合図が聞こえ、私は気を取り直し顔を上げて入口を見た。


 するとゆっくりと扉が開き、その先を見たクラスメイトから黄色い声と感嘆の呟きが聞こえてきたのだ。


 私はどんな凄い事になっているのかと気になり、ワクワクしながら会場内を覗き込み、そして唖然となった。


 何故ならそこにはウェイターの格好をした高円寺達四人が、私達を出迎えるように勢揃いで並び立っていたのだ。


 そこで私は、このパーティーに高円寺達四人が接待役として参加する事を思い出したのだった。

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