事実確認
学園祭も無事に終わり、出し物の人気投票で一位を取る事が出来た私達のクラスは大いに喜んだ。
そして私もその一位を取った事で、例の特別料理が食べられる事に皆と一緒に喜び浮かれていたのだった。
そんな気持ちのまま学園祭の後片付けをクラスの皆と行い、すっかり元の状態になったのを確認した私達は、夕陽が射し込んでくる教室を後にする。
私はカルと一緒に寮へ帰る為廊下を歩いていると、廊下の向こうから響がちょっと複雑そうな表情でこちらに歩いてきたのだ。
「あ、詩音!丁度良い所に!今詩音を、呼びに向かっていた所だったんだ」
「私を?」
「うん!・・・実は、高円寺先輩達から呼び出しを受けちゃってさ~」
「呼び出しって!?響・・・あんた何かやらかしたの?」
「う~ん、僕がと言うか・・・僕達がだと思うよ?だって、先輩達に詩音と一緒に来るようにって言われてるからさ」
「私も!?何で!?」
「・・・さぁ?まあ、と言う訳だから、カルすまないけど・・・」
「オレも一緒に行く!!」
「え?カル?」
「そう言うと思ったよ。べつに僕と詩音の二人だけで来るようにとは言われてないし・・・なんとなくカルも関係ありそうな気がするからさ」
真剣な表情で一緒に行くと言ったカルに、響は何か思い当たる節があるのか、苦笑混じりにカルの同行を許可した。
しかし私にはさっぱり意味が分からず、困惑した表情で二人を見ていたのだ。
そして高円寺達が指定した教室に向かう途中、一人廊下を歩いていた三浦と出会し、何故か響はその三浦まで誘って結局四人で指定場所まで向かう事になった。
その向かっている最中響は、相変わらず複雑そうな顔をしカルは険しい表情でずっと黙り込んでいて、私と三浦は全く訳が分からないと言った表情をしていたのだ。
そうして指定された教室に着いた私は、そこが視聴覚室である事に気が付く。
益々分からないと思いながらも、扉を開けて先に中に入っていった響に続き、私もその視聴覚室に入っていったのだ。
視聴覚室内は何故か全ての窓に暗幕カーテンが引かれ、外から中が全く見えないようにされている。
だけど電気は点けてあるので、教室の中は明るかった。
私はその教室内の様子にキョロキョロしていると、教壇の近くに立って集まっていた高円寺達が私達に視線を向けてきたのだ。
「やあ早崎君、わざわざ来て貰ってすまないね。・・・しかし、詩音さんは頼んであったが、カルロス君と三浦君は・・・」
「僕が一緒に来るよう頼んだんです。なんとなく関係ありそうな気がしたので・・・」
「・・・・・早崎君は、呼ばれた理由が分かっているのか?」
「まあ、なんとなく勘ですけどね。あ、三浦君、そこの扉ちゃんと閉めてね」
「あ、うん」
高円寺の怪訝な表情での問いかけに、響は苦笑を浮かべて答え一番最後に入ってきた三浦に、扉を閉めるように指示を出す。
この只ならぬ雰囲気に戸惑いながらも、私達は高円寺達の近くまで行ったのだった。
「さて・・・俺はまどろっこしいのは嫌いだ。だから単刀直入に聞くが・・・早崎君は前・・の早崎君と別人だな?」
「・・・・」
「えっ?」
桐林が掛けていた眼鏡を右手の中指で真ん中を押し上げると、鋭い眼光で響を見て問い掛ける。
その予想外の問い掛けに響は笑顔のまま無言を貫き、代わりに私が驚きの声を上げてしまった。
「言い方を変えよう。前までの早崎君は君では無く・・・詩音さんでは無いのか?」
「っ!!」
桐林のその言葉に、私は思わず息を飲み動揺を見せてしまったのだ。
そんな私の様子を桐林は見逃さず、その眼光がキラリと光ったように見えた。
「・・・どうなんだ?」
「うん。そうですよ」
「なっ!響!!」
「詩音、もう言い逃れは無理だと思うよ?それに・・・ここには先輩方しかいないし、音が外に漏れない視聴覚室でさらに外から見えないように暗幕カーテンまで引いてくれてるって言う事は、学園側にも他の生徒にも知らせるつもりが無いって事じゃ無いんですか?」
「・・・ああそうだ。俺達はただ、真実を知りたいだけなんだ」
「豊先輩・・・」
「だから、君の口から詳しい説明を聞きたい」
「高円寺先輩・・・」
高円寺が、真剣な表情で私に近付いてきたのだ。
私は一瞬逡巡した後、一度大きくため息を吐きそして真剣な表情で高円寺達を見回し、ゆっくり説明し始めたのだった。
「なるほど・・・そう言う理由だったのか」
「はい・・・騙していてどうもすみませんでした!」
高円寺の言葉に、私は勢いよく頭を下げて謝罪の意を示す。
チラリと横を見ると響がそのまま突っ立ていたので、私は慌てて響の頭に手をやり、響にも頭を下げさせたのだった。
「・・・もう良いよ。特に誰かに害があった訳でも無いし、我々も真実が知りたかっただけだから・・・もう頭を上げてくれないか?」
高円寺の優しい声音に、私は申し訳無い気持ちのままゆっくりと頭を上げ、それと一緒に響の頭に置いていた手を離す。
「そう言えば・・・どうして僕と詩音が入れ替わっていたのに気が付いたんですか?」
「ああそれは・・・」
「最初に俺が気付いたんだ」
響の疑問に高円寺が答えようとしたが、それよりも早く桐林が話に割って入ってきた。
「豊先輩が?」
「・・・早崎君・・・いや、響君と言った方が分かりやすいな。響君は妹の詩音さんのうなじにホクロがある事を知っているか?」
「・・・あ~そう言えばそんなのありましたね」
「え?そうなの?」
「うん。小さい時、一緒にお風呂入った時に見たよ」
「知らなかった・・・でも、そのホクロが何か?」
「では次に詩音さんに聞くが、響君のうなじにホクロはあったか?」
「・・・無いですね」
桐林に聞かれ、私はつい最近見た響のうなじを思い出すが、ホクロ一つ無い綺麗なうなじだった筈だと思ったのだ。
「あ~なるほど、詩音が僕の振りをしてる時にそのホクロ見たんですね」
「そう言う事だ」
「そっか、まあ詩音本人も気が付いていなかった、僕との違い部分を見られていたのなら仕方がないね」
苦笑しながら私を見てくる響を見て、まさかそんな所からバレるとは思ってもいなかった私はガックリとうなだれる。
「まあそれでも俺は、まだそのホクロを見ただけでは確信を持てていなかったんだが、雅也の証言で確信が持てたんだ」
「高円寺先輩の?」
桐林の言葉に、私は顔を上げて高円寺の方を向く。
すると高円寺は、私の視線を受けて困ったような表情をしたのだ。
「私も、今の響君は違うと言ったんだ」
「どうして?」
「・・・君達の歌声だよ」
「歌声?」
「詩音さん・・・君の歌声は、類を見ない程の素晴らしい歌声なんだ。確かに響君もとても上手いが、君はそれ以上なんだよ」
「そ、そうですか?」
「そうだよ。そして・・・私は君が響君の振りをしていた時、君の歌声を直接聞いていたんだ」
「え?一体何処で!?私、人前で歌った事無いですよ!?」
「・・・裏山の湖で」
「・・・・・ええ!!高円寺先輩、あそこに来ていたんですか!?」
「黙っていてすまない」
「もしかして・・・何度も?」
「・・・ああ。ちなみに一度そこにいるカルロス君に、隠れて見ていた事を気が付かれていたようだがな」
「ほ、本当なのカル?」
「・・・本当だよ」
高円寺の衝撃の言葉に私は驚き、隣にいるカルを伺い見るとカルは少し困った表情を私に向けてきた。
「そ、それじゃあもしかして、今回の学園祭の劇で歌った事が・・・」
「ああ、君達の入れ替わりに気が付いた切っ掛けだったね」
「そ、そんな~!!」
「あ~ちなみに俺は、詩音さんが学園祭で皇と剣道対決したのを見た辺りから、なんとなく変だな~とは思っていたんだ」
「え?健司先輩?それどう言う事ですか!?」
「う~ん、どうも太刀筋が、前に詩音さんが響の振りをして剣道の試合をした時と全く一緒だったんだよ」
「太刀筋が?」
「そう。太刀筋はどうしても一人一人微妙に違ってくるんだが・・・詩音さんの場合、前の響君と全く一緒だった事に違和感を感じていたんだよ」
「・・・多分、そんな事気が付くの健司先輩だけだと思います」
「そうか?」
「そうです」
藤堂のあっけらかんとした様子に、私は只々呆れるばかりであったのだ。
「あ!僕も僕も!なんとなく詩音ちゃんと、前の響君が同一人物じゃ無いかな~と思っていたんだよね~!」
「ええ!!誠先輩も!?」
「うん!だって・・・僕、女の子大好きだもん!!」
「そ、そうですか・・・」
榊原の全くよく分からない理由に、私は乾いた笑いを溢す。
「そう言えば豊先輩、ちょっと気になっていたんですが、何処で詩音のうなじのホクロ見たんですか?うなじのホクロなんて簡単に見えないと思うんですが?」
「ああそれは、去年の年末で行った温泉旅館で・・・」
響がふとある事に気付き、何気無く桐林に問い掛ける。
そしてその響の問い掛けに桐林は答えようとして、ハッと何かに気が付き、口許を手で押さえて視線を宙にさ迷わせた。
その顔をよく見ると、うっすら赤く染まっているように見える。
「豊先輩?どうかしたんですか?」
「・・・っ!」
私はその様子が気になり、桐林に近付いて顔を伺い見た。
すると私が近付いた事で、何故か桐林が狼狽し私から少し距離を取られてしまったのだ。
その行動に私はちょっとショックを受け、悲しい表情になってしまう。
「す、すまない。君を傷付けるつもりは無かったんだ。ただ・・・君のうなじを初めて見た時の状況を思い出して・・・」
「私のうなじを見た状況?」
「・・・はぁ~あの、一緒に温泉入ってしまった時だ!」
「っっ!!」
桐林の自棄糞気味に言った言葉に、私はあの温泉での出来事を思い出し、あっという間に顔が熱くなって恥ずかしくなり俯いてしまった。
「・・・あの時の事は、本当にすまないと思っている」
「い、いえ、あれは事故みたいな物でしたし・・・出来れば忘れて頂きたいです」
「・・・・」
私が俯きながらお願いするが、何故か桐林はそれに答えようとしてくれなかったのだ。
その事にどうしたんだろうと思い、私は桐林の顔を見る為顔を上げようとした時、突然私の両手がぎゅと握られたのだった。
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