高校二年生編

新学期そして新一年生

 入学式も無事に終え数日経ったある日、私は朝のHR前に生徒会室で仕事をしていた。




「早崎君、ちょっとここ見てくれる?」


「何?委・・・三浦君」


「・・・言いづらいなら委員長でも良いよ?」


「いや、さすがにもう委員長じゃ無いんだからさ。まあ頑張って慣れるようにするよ」


「それならそれで良いけど、僕あまり気にしないから無理はしなくて良いからね」


「ありがとう・・・そうだ!なんだったらこの際『副会長』と呼ぼうか?」




 私はふと思い付き、ニヤリと笑いながら委員長改め三浦を見る。


 すると三浦は一瞬目を瞬かせた後、すぐに苦笑を浮かべ私を見てきた。




「・・・そうなると、僕は早崎君を『生徒会長』と呼ぶね」


「うっ!」


「お!三浦が早崎の事生徒会長と呼ぶなら、俺もそう呼ぼうかな?」


「おい!日下部君!」


「なら僕も生徒会長と呼ぶね」


「こ、駒井君まで・・・」




 日下部が三浦の言葉に乗って、ニヤニヤとしながら近付いてきて言い、駒井も自分の席から楽しそうに微笑み一緒になって言ってきたのだ。




「・・・三浦君、ごめんなさい。もう言いません」


「良いよ。こちらこそ意地悪言ってごめん。早崎君は、生徒会長と呼ばれるの苦手だったもんね」


「そうなんだよ・・・」


「なぁんだ、結局呼ばないのか・・・残念!」


「・・・日下部君、書記の仕事増やすからね!」


「やべ!やぶ蛇だった!」




 まだ茶化そうとしてくる日下部をギロリと睨むと、日下部は慌てて自分の席に戻っていった。


 そしてチラリと駒井の方を見ると、元々何も無かったかのように黙々と仕事をしていたのだ。


 私はその様子に、一つため息を吐き三浦から書類を受け取って内容を確認し始めたのだった。


 二年生に進級した事で、二年生の生徒会メンバーには役職がそれぞれ付いたのだ。


 私は不本意ながら生徒会長となり、三浦には強制的に副会長になって貰った。


 そして日下部は書記、駒井には会計を受け持って貰ったのだ。


 ただまだ入学式を終えたばかりなので、一年生の生徒会メンバーは入っていない。


 なのでこの生徒会室には、私達四人しかいないはずであった。 しかし・・・ある一角から、複数の含み笑いが聞こえてきたのだ。


 私は、その含み笑いが聞こえてきた方をギロリと睨む。




「・・・先輩方、何で今日もここにいるんですか?」




 そこには、生徒会室内に設置してあった応接用のソファにゆったりと座り、優雅にお茶を飲みながらこちらを楽しそうに見ている高円寺達四人がいたのだ。


 三年生に進級した高円寺達は、生徒会メンバーから外れた為今は紺色の制服を着ている。


 ちなみに高円寺達には、白い制服が一番よく似合っていると思っていたのだが、紺色の制服も意外とよく似合うんだと思ってしまった。


 しかしもう生徒会メンバーで無い高円寺達なのだが、何故か連日この生徒会室に入り浸っているのだ。


 さすがにいつも四人揃っている訳ではないが、大概誰か一人はこの生徒会室に来るのだった。


 そうして今日も、当たり前のように生徒会室に来て寛ぎ始めたので、私は呆れつつそれを無視し仕事を始めたのだが、クスクスと笑い声が聞こえてきた為我慢出来ず声を掛けてしまったのだ。




「早崎君、そんな邪険にしなくても良いのでは?」


「そうだよ~!僕達、響君が心配で来てるんだよ~?」


「そうだぞ!早崎はまだ生徒会に入って間もないからな、俺達がサポートしなくてはと思っているんだ!」


「・・・まあ、そう言う訳だからごめんね」




 桐林、榊原、藤堂、高円寺の順番にそんな事を言ってきた。




「・・・そんな心配不要です。特に問題無く仕事出来てますし、引き継ぎもちゃんとやったので聞く事も何も無いです」


「だけど、まだ四人だけだし大変だと思うよ?」


「高円寺先輩の心配も分かりますが、今の所私が速度上げれば皆普通に仕事出来ますし、もうすぐしたら一年生の学力と運動能力の結果が出るので、そこから生徒会メンバーを探すつもりですので大丈夫です!」




 そうキッパリ答えると、高円寺達は苦笑を浮かべ何も言わなくなる。


 ただ私は今までの経験から、きっと懲りずにまた普通に来るんだろうなと、秘かに心の中で諦めていたのだった。






 朝の生徒会の仕事を終えた私は、書類を提出する為一度職員室に寄り、もうすぐ始まる朝のHRに間に合うよう近道であるこの時間は人気の無い中庭を、早足で通り自分の教室に向かっていたのだ。




「・・・おい!お前!」


「えっ?」




 もうすぐ構内に着こうかとした時、いきなり後ろから声を掛けられまさか他に人がいるとは思わず、私は驚きの声を上げながら後ろを振り返った。


 するとそこには、真新しい紺色の制服を着た明らかに一年生だと思われる小柄な男子生徒が、私を睨み付けながら立っていたのだ。


 だけど私は、その男子生徒の顔を何処かで見たことがあるような気がして首を捻る。


 だがその男子生徒はそんな私の様子に気が付かず、睨み付けたまま私に近付いてきた。


 しかしさらに近付いた事で、男子生徒が私より背が低い事が分かり、その小柄さに思わず心の中で可愛いと思ってしまったのだ。




「おい!何ニヤニヤ見てるんだ!!それよりもお前、早崎 響だな?」


「え?あ、うん。そうだよ。よく僕の名前知ってたね?」


「そんなの・・・あんな入学式でのお前を見たら、忘れる訳無いだろう!」




 そう言いながら、何かを思い出したのか顔が少し赤くなっている。だがその様子も可愛いと思ってしまい、そしてそのあまりの可愛さに、私を先輩として扱わない態度も許せてしまった。




「それに・・・兄様も、お前の話ばかりするから覚えちまったんだよ!」


「兄様?」


「そうだ!その兄様にお前、勝負で勝ったらしいな!」


「・・・勝負で勝った?」


「兄様が楽しそうに、電話で教えてくれたんだ!・・・だけど、俺はそんな事信じないからな!どうせ何か卑怯な手を使って勝ったんだろ!そうで無ければ、兄様がお前なんかに負ける筈無い!!」


「はぁ・・・」




 全く話が見えずさらに勝手に目の敵され、戸惑いながら男子生徒を見つめたのだ。


 しかし、怒りながら見上げてくるその顔をじっと見つめていた時、頭の奥である人物の顔が浮かびその顔と目の前の男子生徒の顔が重なった。


 その瞬間、私はある結論に至りポンと手の平に握り拳を打つ。




「あ!藤堂先輩だ!」


「俺が何だ?」




 私が思わずその考えを口に出すと、急に後ろから声が聞こえ肩をビクッと跳ねさせながら恐る恐る後ろを見る。


 するとそこには、今まさに考えていた人物である藤堂が、不思議そうに私を見下ろしてきていたのだ。




「兄様!!」


「ん?おお健斗、お前ここにいたのか」




 突然現れた藤堂に、男子生徒は驚きの声を上げながら藤堂を兄と呼んだのだ。




「あ~やっぱり藤堂先輩の弟さんだったか~」


「ああ、そう言えば早崎には言って無かったな。こいつは藤堂 健斗と言って、今年入学してきた俺の弟だ」




 そう言って藤堂・・・藤堂兄は藤堂弟の隣に立ち、藤堂弟の頭をくしゃりと撫でながら紹介してくれた。


 そしてその頭を撫でられた藤堂弟は、恥ずかしそうにしながらもよく見ると目が嬉しそうだったのだ。




なるほど、お兄さん大好きなんだね!




 それにしても二人が並ぶと、その顔立ちがよく似ている事が分かる。


 ただハッキリ違う所は背の高さだったので、藤堂弟は藤堂兄をそのまま小さくした感じであった。




「そう言えば健斗、お前早崎に挨拶したか?」


「うっ!」


「やっぱりな~。ほら、今からで良いから早崎に挨拶しな」


「・・・藤堂 健斗だ」


「健斗・・・」




 渋々私に名前を名乗った藤堂弟を、藤堂兄が呆れた表情で見る。




「早崎すまないな。俺にはそうでも無いんだが、どうも俺以外の人には態度があまり良くないんだ」


「べつに僕は気にして無いですよ。・・・え~と、もう知ってると思うけど僕の名前は早崎 響です。よろしくね!」


「・・・よ、よろしく」




 私はニッコリと笑顔を向けながら藤堂弟に挨拶すると、藤堂弟は何故か顔を赤く染めながら視線を反らし、ぶっきら棒に挨拶を返してくれた。




「そう言えば、藤堂先輩は何でここに?」


「ああそうだ健斗、お前のクラスに行ったらお前の友人から、お前がトイレに行ったきり帰って来ないと心配してたぞ?」


「・・・・」


「・・・どうせその様子だと、トイレに行ったは良いけど帰り道が分からなくなったんだろう?」


「・・・っ!」




 藤堂兄の言葉に、藤堂弟は恥ずかしそうに俯いてしまったのだ。




ああだからこの時間に、一人でこんな所にいたんだ。




 ほとんどの生徒が朝のHRを受ける為、もう教室にいる筈なのにと思っていたが藤堂兄の言葉で、漸く納得する事が出来た。




「ほら、俺が教室まで案内してやるから。・・・早崎、忙しいのに弟の相手をして貰ってすまなかったな。それじゃ俺達行くわ」




 そう言って藤堂兄は藤堂弟の背中に手をやり、二人して校内に向かって歩き出す。


 しかし数歩歩いた所で、ふと藤堂弟が立ち止まりクルリとまだ赤い顔だけこちらに向けて私を睨み付けてきた。




「・・・俺は絶対、お前の事認めないからな!!」


「こら健斗!」




 大声で宣言してきた藤堂弟に、藤堂兄は頭を軽く小突き叱るがそれも藤堂弟には嬉しい事らしく、俯きながら小突かれた部分を撫でて嬉しそうにしているのが私には見えたのだ。




しかし私に対してのあの態度・・・あれは多分、私に嫉妬してるんだね。本当にお兄さん大好きなんだな~!・・・可愛い!!あんな弟欲しい!!!




 そう思いながら、再び私に背を向けて歩き出していく二人の背中を、微笑ましく見守っていたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る