勝敗決する

「三人共ちょっと待って!!」


「え?早崎君!」




 私の声に気付いた松原が、驚いた声を上げこちらを見てきた。


 他の二人もその声に気付き、同じく驚いた表情で私を見てくる。




「・・・ああ良かった。まだ三人共ピンズ付けてるね」


「そっか、早崎君この時間も頑張っているんだ」


「もうあまり時間が無いからね」




 そう苦笑を浮かべると、松原が同情の目を向けてきた。


 しかしそんな事を気にしている余裕など今は無いので、私は三人に真剣な表情でお願いする事にしたのだ。




「三人とは、なかなか時間が合わなくて話が出来なかったけど・・・お願い!そのピンズ、僕にくれないかな?」


「「「・・・・」」」




 そう三人に向かって必死にお願いしたのだが、三人はとても困った表情になりお互いを見合う。




あ、これは駄目なパターンだ・・・。




 今まで散々断られてきた雰囲気と全く同じだった為、私はガックリとうなだれる。




はぁ~この三人も駄目なのか・・・あれ?そう言えば、今まで貰う事が出来た時ってどんな状態だったかな?




 私はうなだれながら、今までなんとか貰う事が出来た状況を思い出していた。そうして思考を巡らせ、私はある事に気が付く。




・・・まあ明石君の場合は例外だったけど・・・・・よし!駄目元でやってみよう!!




 そう心の中で決意し、私は再び顔を上げ三人を見る。ただし、酷く落ち込んだ・・・まるで捨てられた子犬のような表情をして。




「「「・・・っ!!」」」


「・・・やっぱり・・・駄目かな?」




 さらに三人を上目使いで見て、駄目押しとばかりに目を潤ませてみる。


 すると三人は酷く動揺をし始め、胸を押さえながら三人でコソコソ話し出したのだ。そして三人で頷き合った後、それぞれ胸元のピンズを外し出した。




「早崎君・・・これ・・・」




 そうして松原の言葉と共に、三人は揃ってピンズを差し出してきたのだ。




「あ、ありが・・・」


「ねぇ、君達・・・」




 私が喜びに打ち震え、お礼を言いながらそのピンズを受け取ろうとしたその時、突然後ろから別の人物が声を掛けてきた。


 その聞き覚えのある声にゆっくり顔を振り向かせると、私のすぐ後ろに高円寺が微笑みながら立っていたのだ。




「高円寺先輩・・・」


「早崎君、お話し中にごめんね。どうしても彼女達に話しておきたい事があるから、先に話させて貰っても良いかな?すぐ終わるからさ」


「・・・まあ、すぐなら」


「ありがとう」




 私が渋々了承すると、高円寺はさらに笑みを深めお礼を言ってきた。


 しかしその笑顔を見た瞬間、私は凄く嫌な予感を感じたのだ。




「あ、あのやっぱり・・・」


「ねぇ、早崎君の白い制服姿見たくない?」


「「「あ!!!」」」


「へっ?」




 すぐ高円寺に訂正の言葉を言おうとしたが、それよりも早く高円寺が言葉を発した。


 その言葉を聞いた三人は、何かに気が付いたようにハッとした表情になる。しかし正直私は高円寺が言った言葉に、何の意味があるのかさっぱり分からなかったのだ。


 だが三人は真剣な表情で再びコソコソと話し始め、すぐに先程と同じように頷き合ってからこちらに向き直った。


 そうしてまた、三人揃ってピンズをこちらに差し出してきたのだ。




「「「高円寺先輩!こちらを受け取って下さい!!」」」


「えっ?ええーーー!!!」




 予想外の三人の発言に、私は驚きの声を上げたのだった。






 その後高円寺は、三人にお礼を言ってピンズを受け取る。私はその姿を、恨めしがりながら見てるしか無かった。


 そうして三人は、バツが悪そうな表情のままそそくさと去って行ったのだ。


 私はその姿を見送った後、ギロリと高円寺を睨み上げる。




「高円寺先輩・・・ズルいです」


「でも私は強制してないよ?」


「そ、それはそうですが・・・」


「それじゃ私はもう行くよ。頑張ってね」


「あ!ちょっ高円寺先輩!!」




 慌てて呼び止めるが、高円寺は笑顔のまま手を振って去っていってしまったのだ。


 それから私はなんとか気を取り直し、放課後までの残り時間ギリギリまでピンズ集めに奔走したのだった。






 制限時間の放課後となり、重い足取りで生徒会室に向かう。


 そうして目的地の生徒会室が見える位置までくると、そこには黒山の人集りが出来ている事に気が付く。


 私はそのワクワクした表情で、生徒会室を覗いている生徒達を見て、今すぐ回れ右をして逃げ出したい気持ちになったのだ。


 しかしさすがにそう言う訳にもいかず、仕方がなくさらに足取り重くして生徒会室に近付いていった。


 すると私に気付いた生徒達が、サッと道を開けてくれ生徒会室の入口までの道が出来てしまったのだ。


 もうそこまでされては後戻り出来ないので、私は腹をくくり生徒会室に入っていった。


 生徒会室に入ると、もうすでに生徒会メンバー全員が勢揃いしており、私は2つの籠が置かれている机の前に立っている、高円寺の隣に無言で並んだ。


 そして私が到着した事で、早速集めたピンズを数える事となった。


 私は気が重いながらも、渋々ピンズを入れた袋を机の上に置くと、隣からドサッと言う重量感のある音が聞こえてきたので、恐る恐る横を見る。


 するとそこには、パンパンに膨らんだ高円寺の袋が置かれていたのだ。


 私は唖然とその袋を見た後、もう一度自分のへにゃりと倒れている袋を見て、ガクッリとうなだれたのだった。






 正直もう数えなくても良いのではと思いながら、私と高円寺は籠に集めたピンズを一個づつ入れて全て数え、予想通り高円寺の圧勝と言う結果となったのだ。




「私の勝ちだね」


「・・・ソウデスネ」




 高円寺の爽やかな笑顔に、私は目を据わらせ棒読みで返事を返した。




「しかし早崎君、惜しかったね。これに勝てば、完全に君の勝利だったんだけどね」


「・・・・」


「だけど、勝負は勝負だから約束は守って貰うよ?」


「・・・分かってます。さすがにここでゴネたりしません。潔く約束守ります」


「そうか、ありがとう。・・・・・しかし今回の勝負、もし早崎君が例の笑顔を振り撒いていたら、多分私は勝てなかっただろうな・・・」


「えっ?すみません、ありがとうの後が小さくてよく聞き取れなかったのですが?」


「いや、気にしなくて良いよ。むしろ気付かれると、後々色々大変そうだからさ」


「???」




 高円寺の浮かべる苦笑に、私は小首を傾げて困惑したのだった。


 そうして高円寺との対決を終えた翌朝、私はベッドの上に置かれた真新しい白い制服を見つめ大きなため息を吐く。




「何でこうなった・・・」




 そう一人呟き、もう一度大きくため息を吐いてから制服に手を伸ばしたのだった。






 その後、白い制服姿で登校する私を見た女生徒から黄色い歓声を受け、男子生徒からは羨望の眼差しを受ける事となる。


 そして生徒会室で、私を待っていた生徒会メンバー達は揃って私の白い制服姿を誉めてくれたのだ。


 そうして私が生徒会に入った事で、一年生の生徒会メンバーが四人になった為、生徒会長を全校生徒の投票で決める事となった。


 せめて生徒会長にだけはなりたくないと切実に祈っていたのだが、その祈り虚しく投票の結果私が生徒会長に決まってしまったのだ。


 それも去年の高円寺と同じように、投票権の無い一年生の生徒会メンバーを除いた全校生徒全ての票が、何故か私に入れられていたのだった。


 その結果に私が頭を抱えていると、委員長がニコニコした笑顔でおめでとうと言ってきたので、その時私は委員長を副会長に指名し仕事を押し付けてやると心に誓ったのだ。


 そうしてその後、高円寺達と引継ぎをしたり三年生の卒業式の準備をしたりと慌ただしく日々が過ぎ、あっという間に三年生の卒業式、終業式、春休みを経て、私は二年生に進級したのだった。






 そして今日、新一年生の入学式が執り行われている。


 私は生徒会長として最初の挨拶をするべく、壇上に上がって演台の前に立ち、講堂内で椅子に座っている全校生徒を見渡した。


 その瞬間、辺りは騒然とし始めたのだ。特に新一年生の動揺は激しいものだった。


 ある者は惚けた表情でこちらを見つめ、ある者は驚きの表情で固まっている。


 そして二年生と三年生に至っては、ほぼ皆尊敬と憧れの眼差しを私に向けてきたのだ。


 暫し黙ってその様子を見ていたが、講堂内は依然として騒然としたまま皆全然落ち着いてくれ無かった。


 私はその状態にどうしたものかと途方に暮れていると、ふと委員長のある指示を思い出す。




そう言えば、委員長がこうなった時はあれをやるように言われてたな・・・でも、本当にあれやって意味あるんだろうか?




 そう半信半疑になりながら、私はまだざわつく生徒達を見回しマイクに顔を近付ける。




「静粛にして下さい」




 そう言って、私はニコリと微笑んでみせたのだ。その瞬間、一瞬にして講堂内がシーンと静まり返る。


 急に静かになった事に驚き、私はもう一度生徒達を見回すと、皆顔を赤らめ惚けた表情でこちらをボーと見つめてきていたのだ。


 私はその様子に頬を引きつらせていると、三年生の席で高円寺達四人が、ニヤニヤしながら私を見ている事に気付きげんなりする。


 そしてチラリと壇上脇のカーテンの所に、隠れるように立っていた委員長を見ると、少し顔を赤らめながらとても良い笑顔で私の方に親指を立てて見せてきていたのだ。




・・・グー!じゃなーーーーーーい!!!




 そう心の中で叫びながら、委員長に呆れた表情を向けたのだった。

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