書記との対決
次の対戦相手である、藤堂との対決内容は剣道対決となった。
最初藤堂は、対決種目を運動であれば何でも私の好きな物を選んで良いと言われ、暫し考えた後私は剣道を選んだのだ。
しかしその事に藤堂はとても驚き、逆に動揺しながら私にもう一度確認してきた。
「は、早崎!?ほ、本当に剣道で良いのか?確か前・・・剣道はやった事無いとか言ってなかったか?」
「ああ~そんな事言ってましたね。・・・あれ、嘘です」
「嘘!?」
「はい、ごめんなさい。あの時出来ると言うと、色々面倒そうだと思ったので出来ないと言ったんです」
「め、面倒そうって・・・」
「だって藤堂先輩、もし僕が剣道出来るって言ったら絶対なんとしても剣道勝負しようと、さらにしつこく追い掛け回して来ましたよね?」
「うっ!ま、まあ確かにその通りだな・・・しかし、そんなに俺と剣道勝負を嫌がっていたのに、何故今回剣道勝負を選んだんだ?」
「それは・・・どうせ勝負するなら、藤堂先輩の一番得意としている剣道で勝てば、さすがに諦めて後々もう僕に勝負を仕掛けて来ないんじゃ無いかと思ったからです」
そう私が苦笑しながら答えると、藤堂は驚愕の表情で私を見てきた。
「早崎・・・お前、剣道で俺に勝てると思っているのか?」
「まあ、実際やってみなくては分からないですけど・・・正直、僕負けるつもりありませんので!」
「・・・面白い。益々勝負が楽しみだ!・・・よし!ならついでに約束してやる。万が一俺が負けた場合、もう二度と早崎に勝負をしろと付き纏わないと約束しよう。ただし・・・もし俺が勝った場合は生徒会に入って貰うのは勿論だが、同時に剣道部にも入って貰おう!」
「ええ!?」
「どうした?俺に勝つつもりでいるんだろ?それとも口だけか?」
「・・・良いですよ!その勝負受けて立ちます!!」
そう力強く言って私は拳を握りしめ、真剣な表情で藤堂を睨み付けるが、藤堂はそんな私をとても楽しそうに見てきたのだった。
────数日後の放課後。
私は剣道着を着てその上に防具を着けた状態で、体育館の床に静かに正座をしている。
そして目の前にはまだ被っていない面が置いてあり、私はじっとその面を見ながら深く深呼吸したのだ。
私は視線を面から外し正面に向けると、私と同じように正座しながら藤堂も面だけ床に置き、精神統一しているのか目を閉じて微動だにしていなかった。
次にチラリと体育館内を目だけで見回すと、藤堂を除いた生徒会メンバー全員が壁際に並んで立っているのが見える。
しかし生徒会メンバーがここにいる事は、特に不思議な事では無い。
私は生徒会メンバーから視線を外し、さらに周りを見ると何故か今この体育館の中には沢山の人達が集まっていたのだった。
その人々のざわめき声を聞きながら、私は小さくため息を吐く。
何でこんなに沢山人が・・・。
どうも私と生徒会との対決が噂で広まっていたらしく、放課後なのにこの体育館には沢山の生徒が詰め掛けていたのだ。
さらにその中には、一部の先生方の姿もチラホラ見えたので、正直頭が痛くなってきた。
私はもう一度深くため息を吐くと、気を取り直して面を手に取る。
そうしてしっかりと顔に面を取り付け終えると、主審が中央に進み出てきたので私は脇に置いていた竹刀を手に取り、ゆっくり立ち上がった。
それと同時に、藤堂も面を付け終わって竹刀を手に持ち立ち上がっていたのだ。
私達はまず主審の近くに行く前に、一度その場でそれぞれ礼をしてから開始位置に移動する。
そして試合開始前に一通りの決まりである動きをしてから、私達は竹刀を構え開始の合図を待った。
その開始の合図が掛かるまでの僅かな時間、観客達は誰一人声を発する事無くピーンと空気が張り詰めていたのだ。
私は竹刀を構えながらじっと藤堂を見ると、藤堂も真剣な表情でこちらをじっと見つめてきていた。
その藤堂から感じる気迫にゴクリと唾を飲み込み、私は無意識に竹刀を握る手を強めたのだ。
「では始め!」
「はぁぁーーーー!!!」
「やぁぁーーーー!!!」
主審の開始の合図と共に、藤堂と私はお互い声を出して距離を詰めたのだった。
一気に距離を詰めた私達は、お互いの竹刀をぶつけ合い暫しつばぜり合いを繰り広げる。
すると藤堂が一瞬ぐっと力を強くして押してきたので、私は敢えてその力を受けその反動で後ろに飛び退き、藤堂と間合いを開けた。
そんな私を藤堂は面を被りながら、ニヤリと笑いとても楽しそうな顔をする。
しかしすぐに真剣な表情に戻り、サッと私との距離を詰め竹刀を素早く振り被ってきたのだ。
周りからは『あっ』と言う声が上がっていた。多分誰が見ても、このまま藤堂の竹刀が私の頭に当たり一本取られると思ったのだろう。
「めーーーー!」
「胴ーーーーーー!!」
「勝負あり!!」
藤堂が大きく『面』と叫ぶ声に被せて、私は大きな声で『胴』と叫んだ。そしてその声のすぐ後に、主審が赤色の旗を上げながら勝負ありと叫んだのだった。
しかし藤堂を含め周りの人が、呆然とこちらを見つめてきていたのだ。
何故なら、私の頭に直撃していたであろう藤堂の竹刀は、空を切ったままその先に何も無く、その代わり藤堂の胴にはしっかりと私の竹刀が当たっていた。
実は藤堂の竹刀が頭に直撃する寸前、私はさっと身を翻して避けつつガラ空きとなっていた胴目掛けて竹刀を打ち付けていたのだ。
私は竹刀を藤堂の胴から離し開始位置に戻る。それを呆然と見ていた藤堂がハッと我に返り、すぐさま藤堂も開始位置に戻った。
私達が開始位置に戻ったのを確認した主審が、もう一度私の色である赤色の旗を上げこの勝負は私の勝ちだと宣言したのだ。
その瞬間、体育館内は割れんばかりの歓声が沸き起こる。
私達はその歓声を受けながらもう一度お互いに礼をし、そして再び竹刀を構え直した。
「え?これで勝負決まったんじゃないの?」
そう戸惑う声があちこちから聞こえてきたが、私と藤堂はその声を無視する。
実はこの勝負、三本勝負だったのだ。そしてその内二本取った方が勝ちとなる。
私達の真剣な様子に、段々勝負内容を察した観客達は静かに見守ってくれるようになったのだ。
ふと藤堂の顔を見ると、さっきまで真剣だがどこか楽しそうな表情をしていたその顔が、今はすっと表情を無くし本気になっている事が伺い知れた。
私はそのいつもと違う藤堂の様子に、背筋に冷たい物が流れたのを感じる。
そうして再び主審の開始の声と共に、私達は試合を開始したのだった。
やはり先程よりも数段打ち込みの速度が上り、そして藤堂から受ける竹刀の重みが格段に上がっていたのだ。
私はその打ち込みの強さに、歯を食いしばりながら耐えていたのだが、今までで一番強い打ち込みを受けて思わず体勢を崩してしまった。
そしてその隙を見逃さなかった藤堂は、さっと踏み込み竹刀を勢い良く打ち込んできたのだ。
「小手ーーーー!!」
「勝負あり!!」
藤堂の叫びと同時に私の腕に藤堂の竹刀が当たり、そして主審の勝負ありの声と共に、今度は藤堂の白色の旗が上がったのだった。
私は悔しさに唇を噛みしめながら、開始位置に戻り主審が白色の旗を上げるのを見てから礼をする。
そして両者同点となった為、この次の勝負で勝敗が決する事となった。
再び竹刀を構え直した私は、油断していたさっきの自分を悔い、そうして私も表情を無くし本気を出す事にしたのだ。
私達から漂うピリピリとした空気に、いつしか体育館内はシーンと静まり返っていたのだった。
そして主審が、最後の試合開始の合図をしたのだ。
私と藤堂はその合図と共にすぐに間合いを詰め、激しい竹刀の打ち合いを始める。
さすがに先程の事があったので、私は藤堂の竹刀を受けながらもなるべく力を受け流すように竹刀を動かしていた。
そうして暫く拮抗状態が続いていたのだが、とうとう藤堂が仕掛けてきたのだ。
藤堂が力強く私の竹刀を打ち上げ、その勢いで私が竹刀を持ったまま両手を上げる格好になる。そして藤堂はその隙を突き、思いっきり私の胴に向かって竹刀を振ってきたのだ。
しかし藤堂の竹刀が胴に当たる寸前、私は持っていた竹刀を翻しその間に割り込ませさらにその勢いにまま、藤堂の竹刀を力強く打ち上げる。
すると藤堂の手から竹刀が弾け飛び、竹刀が宙を待っている間に今度は私が藤堂に向かって竹刀を降り下ろす。
「面ーーーーーー!!」
「勝負あり!!」
私の竹刀が藤堂の頭に当たると同時に私は叫び、次に主審の声が上がる。
そうして私達の声が止むと同時に藤堂の竹刀が床に落ち、その乾いた音が静まり返った体育館内に響き渡ったのだった。
暫し呆然としていた藤堂は、無言で落ちた竹刀を拾い開始位置まで戻ったので私も開始位置に戻る。
主審は私達が揃って開始位置に戻ったのを見届け、そして赤色の旗を高々と上げた。
「勝者早崎!」
その瞬間、先程よりもさらに大きな歓声と共に沢山の拍手を受けたのだ。
私と藤堂はその歓声を受けながら、お互い一礼をして元の場所まで戻っていく。
そうして最初に座っていた位置まで戻ると、私は面と頭に巻いていたタオルを取り、自分で用意しておいたタオルで汗を拭いてペットボトルの水で喉を潤したのだ。
「早崎・・・」
漸くホッと一息ついた所で、後ろから藤堂の呼ぶ声が聞こえ私はゆっくりと振り返った。
すると振り返った先には、すでに面を取った藤堂が他の生徒会メンバーを引き連れすぐ側で立っていたのだ。
「藤堂先輩・・・」
「・・・・・お前凄いな!まさか本気を出した俺に勝つなんて、正直思わなかったぞ!本当に凄く楽しい試合だった!出来ればまたやりたいが・・・仕方がない、約束だからな。もう勝負しろと付き纏わない事を約束しよう」
「本当ですか!ありがとうございます!!」
藤堂がとても清々しい表情で、爽やかに笑って約束してくれたので、私は両手を上げて喜んだのだった。
「ただし・・・これからは、剣道部に勧誘していくつもりだから、そのつもりでな!」
「なっ!約束が!?」
「俺が負け場合は、勝負しろと付き纏わないと言う事しか約束してないが?」
そう言ってニヤリと笑う藤堂を見て、私は上げてた手を降ろしガックリと肩を落としたのだ。
「・・・それにしても豊や健司に勝つなんて、本当に響君凄いね~!」
「誠先輩・・・」
「だけど・・・次の対戦相手である僕には、そうそう簡単に勝てないと思うけどね~!」
そうして榊原は、私に向かって不適な笑みを向けてきたのだった。
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