副会長との対決

 まず最初に桐林と対決する事になった。


 対決内容は五教科テスト。その総合点で勝敗を決めるらしい。


 そしてそのテスト問題は、公平を期す為三年生に教えているそれぞれの教科担任に作って貰ったそうだ。


 どうやら事前に学園側へ話を通してあったらしく、学園公認の対決となってしまっていたのだった。


 私はその抜りの無い手際の良さに呆れながらも、指定された教室に桐林と一緒に向かう。


 ちなみに今日は、授業が午前中だけの日だったので昼食後、午後からの時間を使ってテスト対決する事になったのだ。


 私達は目的の教室に入ると、そこには席が二つだけそれぞれ離れて用意されていた。


 そして教壇の前には、ずらりと五人の先生が並んで私達を待っていたのだ。


 私はその光景に一瞬足が竦むが、すぐに気を取り直し席に向かう。


 とりあえず席はどちらでも好きな方で良いと言われたので、私は奥の席に座る事にしたのだ。そして桐林はもう片方の席に着席した。




「では、先生方お願いします」




 桐林が先生方に早速始めるよう促す。しかし何故か先生方は皆浮かない顔で、手に持っているテスト用紙と桐林の顔を何度も見ていたのだ。


 そうしてその中で一番年上だと思われる男の先生が、戸惑いながら桐林に声を掛けてきた。




「・・・桐林君。本当にこのテスト内容で良いのか?」


「何か問題でもありますか?」


「いや、テスト問題自体は皆しっかりと作れているのだが・・・本当に君の要望通りの、大学生に出すような問題で良いのか?」


「えっ!?」




 私はその言葉に、思わず目を瞠り驚きの声を出してしまう。




「き、桐林先輩!ど、どう言う事ですか!?」


「どう言う事かと聞かれてもその言葉の通りだ。多分高校レベルの問題では、俺と早崎君は全教科満点を出してしまい勝敗がつかない気がしたからな。それならばと思い、大学レベルの問題でテストを作って貰ったんだ」


「そ、それでもそれはやり過ぎなのでは?」


「そうか?俺としては、勝敗がつきやすいと思ったんだがな・・・ではそんなに言うのなら、この勝負止めるか?俺はべつにそれでも構わないが、もし止めるのならばそのまま自動的に生徒会に入る事になるが?」


「やります!!」


「そうか、それは残念だ」


「・・・全然残念そうに見えませんよ。それに目が笑ってます」


「くく、気のせいだ。ああ言っておくが、俺は先生方に大学レベルの問題でとはお願いしてあるが、どんな問題を出して来るかは全く知らないからな。勿論勉強もしていないから安心して良い」


「ああそれに関しては、僕全然心配してません。そんな事を、豊先輩は絶対やらないと信じてますから」


「そ、そうか・・・」




 何故か私の言葉に桐林は、言葉を詰まらせながらさっと顔を反らしたのだが、その時一瞬見えた横顔はうっすら赤く染まり、そしてなんだか嬉しそうな様子にも見えたのだった。


 私はそんな桐林を不思議に思いじっと見ていたのだが、桐林はぎこちなく眼鏡を掛け直すとゴッホンと一度咳払いをしてから、まだ戸惑っている先生方に視線を向けたのだ。




「・・・先生方、早崎君の了承も取れたので早速始めて下さい」


「・・・分かった」




 桐林の言葉に先程質問してきた先生が頷き、そうしてまず最初にやる教科のテスト用紙を配られ、漸くテストが開始したのだった。






 一教科一時間のテスト時間だったので、五教科全部終わったのは五時間後だったのだ。


 そして今私達は、別部屋で採点している先生方を待っている所である。


 私はその結果を待ちながら、机に突っぷしぐったりしていたのだ。




さ、さすがに大学レベルの問題は難しかった・・・。まあ一応先生方も気を使ってくれてたみたいで、よく問題を読むと高校生で習う勉強を応用すれば、解く事が出来る問題になっていたのは正直助かった。・・・しかし、最後に受けたテストの最終問題・・・あれ絶対引っ掛け問題だったよな~。終了時間間近に気が付いて、慌てて書き直したけど・・・大丈夫だったかな?




 ちょっと不安に思いながら、チラリと桐林の方を見ると余裕の表情で様子を見にきた高円寺達と話をしていた。


 私はその様子にさらに不安になりながら、もう一度机に突っぷし直す。


 するとその時、教室の扉が開く音と複数の足音がして、私はガバッと机から顔を上げ入ってきた先生方を見る。


 しかし教室に入ってきた先生方の表情は、どう言う訳か皆信じられない物でも見たかのような表情をしていたのだ。


 その先生方の様子に私は小首を傾げながら黙って見ていると、先生方は再び教壇の前に一列に並んだのだった。


 私は固唾を飲んで見守っていると、最初に桐林へ質問していた男の先生が一歩前に進み出て私と桐林を交互に見てくる。




「え~まず結果を言う前に、我々一同二人の学力の高さに大変驚いた。正直、採点ミスでは無いかと疑い何度も見直した程だった。・・・それ程の点数だったのだ」


「・・・それで、結果はどうだったんですか?ちゃんと勝敗ついたんですよね?」




 なかなか結果を言わない先生に、桐林が冷たい眼差しで結果を言うように促す。




「っ!・・・結論から言うと、ちゃんと勝敗はついた。そして勝ったのは・・・・・・早崎君だ」


「なっ!!」


「えっ?本当に?僕が勝ったんですか?」


「ああ、早崎君の方が桐林君より点数が上だった」


「そんな馬鹿な!俺は全ての問題を完璧に解いたんだ!最悪同点はあっても、俺が負ける筈など無い!!」




 桐林はあまりにも動揺し、先生に対しての言葉使いが変わっている事に気付かず声を荒げる。




「桐林君・・・残念だが事実だ。君と早崎君との点数の差は、僅か『一点』だったよ」


「一点?一体どこを・・・」




 そう言って桐林は、先生から私と桐林の分の答案用紙を受取り見比べ始めた。


 私も席を立ち、桐林の近くに寄ってその答案用紙を覗き見る。そして高円寺達も私と同じように覗き見ていた。




「す、凄~い!どの答案用紙も二人共全部丸が付いてる~!」




 そう言って榊原が驚きの声を上げる。




「ならどれが・・・あ!これじゃ無いのか?」




 藤堂がそう言いながら、一枚の答案用紙を指差す。


 そこには桐林の名前が記入され、そして一番最後の答案の所に丸では無い印が付いていたのだ。




「・・・ここが間違いだと?そんな筈は無い!ここは何度も読み返し、しっかり合っている事は確認した所だ!」




 私はその間違いだと指摘されている部分を見て、ある事に気が付く。




「あ!そこ!引っ掛け問題だった所だ!」


「・・・引っ掛け問題だと?」




 桐林は私の言葉に、すぐさま問題用紙を手に持ちその指摘された問題を何度も見返す。


 するとその問題用紙を持っていた手が、プルプルと震えだした。




「お、俺とした事が・・・まさかこんな引っ掛け問題に気が付かなかったとは!確かにここは、俺の解答では不正解だ!」


「豊先輩・・・」


「くっ!認めよう・・・俺の完敗だ。この勝負は早崎君、君の勝ちだ!」


「あ、ありがとうございます!」




 そうして私はなんとか桐林に勝つ事が出来、ホッと胸を撫で下ろす。




「まさか学力で豊に勝つとはな~。・・・それじゃ次は俺の番だ!やっと早崎と勝負出来るな!楽しみだ!」


「・・・藤堂先輩、お手柔らかにお願いします」


「いや!お互い真剣勝負だからな!」




 まだ落ち込んでいる桐林とは対照的に、藤堂がとても楽しそうな笑顔を私に向けてきていたのだった。

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