リレー練習
生徒会の仕事を手伝うようになってから、数日が経ったある日の放課後。
今日もいつものように書類を次々捌いていると、日下部が何か思い出したかのように、作業の手を止めず私に尋ねてきた。
「そう言えば早崎、お前確か体育祭の学年別男女混合リレーに出場するんだよな?」
「まあね・・・正直出たくないけど・・・」
「ちなみに、俺もそれ出るからよろしくな!」
「まあ、日下部君は出るとは思ってたよ」
「それで、そのリレーのミーティングと練習を明日の放課後にやるから、忘れずにグランドまで来いよ!」
「・・・はい」
あんまり考えたくなくて、今までリレーの事など忘れていたのだが、日下部の言葉にその事実を思い出したのだ。
「三浦~そういう訳だから、明日の放課後俺達二人来れないから後よろしくな!」
「「え・・・」」
委員長はバサリと持っていた書類を床に落とし、絶望的な表情で私を見てきた。チラリと横を見ると、駒井も作業の手を止め委員長と同じ表情で私を見ていたのだ。
「・・・あ、明日の分まで頑張ってやるよ!日下部君もね!」
「お、おう!」
二人のあまりにもの様子に、私と日下部はそれから作業ペースを上げ、黙々と作業に取り組んだのであった。
次の日の放課後、私はジャージに着替えグランドに向かう。
グランドには、もう既に同じリレーに参加する一年生が集まっていたのだ。
このリレーは各クラス男女一人づつ参加する事になっており、各学年5クラスまであるので合計十人でリレーをしていく事となる。
私のクラスからは、私と女子で一番走りのタイムが速い足立 真由子が出る事になった。
「よし!これで全員集まったな!ではミーティングを始めるから、全員集合して座ってくれ」
どうやら日下部が中心的に話を進めるらしく、日下部の指示で立っている日下部の前に集合し地面に体操座りをして話を聞く事になったのだ。
「ではまず、それぞれの顔と名前を覚える為、一人づつ自己紹介をしていってくれ。まず俺からだな。俺の名前は日下部 達哉だ」
そうして日下部の自己紹介が終わった後、順番に自己紹介を全員したのだった。
「よし!これで全員終わったな。まあ、一遍には全員覚えられないだろうから、追々覚えていけば良いからな。では、これからミーティングを始める。まず今回のリレーで、一番強敵なのは二年生の先輩方である。勿論三年生の先輩方も強いだろうが、多分二年生の方が上だろう。そしてやはり、今年のリレーにも藤堂先輩は出場する。だが高円寺先輩は今年は出場されないそうなので、少し俺達にも可能性が出てきた」
そう日下部が熱く語るのを、皆真剣に聞いている。
「そして俺は生徒会と言う事で、二年生の先輩方が修学旅行に行く前に提出したリレーの順番を知る事が出来たのだが、予想通り藤堂先輩がアンカーを務めていた。その事を踏まえ、まず一年生のアンカーだけ先に決めようと思う」
なるほど・・・その決まったアンカーを基準に、他の人の順番を決めていくんだね。まあ、出来れば私は無難な真ん中辺りが良いな~。
そう私が心の中で思っていると、日下部はとんでもない事を言い出したのだ。
「俺の希望で、アンカーは早崎が良いと思うのだが異議ある奴はいるか?」
「異議有り!異議有り!」
私は大きな声を上げ、おもいっきり挙手をする。しかし、日下部はそんな私を無視し辺りを見回した。
「誰も異議無いようだな。なら賛成の奴は手を上げてくれ」
「おい!!」
さらに私の声を無視する日下部を睨むが、このまま手を上げたままだと賛成になってしまうので慌てて手を下ろす。しかし、その代わり私以外の全員が手を上げたのだった。
「よし!皆賛成だな。ではアンカーは早崎で決定とする」
「ちょっと待ってーーー!!」
「さっきからうるせぇな。何だよ早崎?不服か?」
「不服に決まってるだろ!そもそも何で僕なんだよ!この場合、どう考えてもアンカーは日下部君だろう!」
「ああ?お前俺の話し聞いてたか?二年生のアンカーが藤堂先輩なんだぞ?そりゃ、俺だって憧れの藤堂先輩と勝負したい気持ちは無くもないけど、これは俺個人の勝負では無く一年生全体の勝負なんだ!だから、勿論勝ちに行く構成にするだろう!」
「だったら、余計そこは日下部君だと思うんだけど!」
「早崎・・・お前本当に分かってないんだな」
「何が?」
日下部は何故か呆れた表情で私を見てくるが、その真意が分からず怪訝な表情で見返したのだ。
「お前あの藤堂先輩と、いつも追いかけっこで遊んでいるだろう?」
「遊んでない!!」
あれは勝手に、藤堂先輩が楽しんで追いかけてきてるだけで、私は全然楽しく無いんだから!!
「まあ、べつに遊んでる遊んでないはどっちでもこの際良いんだ。それよりも、あの藤堂先輩と追いかけっこで逃げ切っている事が重要なんだよ」
「あ・・・」
「やっと俺の言いたい事分かったか。今の段階で、藤堂先輩と勝負になるのはお前だけなんだよ」
「だ、だけどあれは・・・校内をジグザグに走り回っていたから逃げられただけで・・・」
「それでも、普通の奴は絶対逃げられないからな!」
「うっ!」
「それに言い逃れしようとしても、多分学園中がお前と藤堂先輩の追いかけっこを見ているはずだから無理だぞ?」
日下部のその言葉に、私はチラリと回りを見渡すと全員が私を見て頷いてきたのだ。
私はそれを見て頭を抱え唸り声を上げたのだった。
「まあ、これで分かっただろう?じゃあアンカーは早崎、お前で決定。これは絶対変わらないからな」
「・・・はい。頑張ります・・・」
その後これからの予定が話し合われ、そしてまず今日はそれぞれのタイムを測る事となったのだ。
本番と同様の100mを走る事になり、皆全力で走って好タイムを出していた。
そして、アンカーに決定している私もタイムを測る事となったので、私はちょっと手を抜いて皆より遅いタイムを出してみたのだ。
出来ればこれで、アンカーから外して貰えないかと期待しての事だったのだが、私の走りを見て日下部が目を据わらせながら近付いてきたかと思ったら、両手を拳骨に握り私の頭に両方からグリグリと押し当ててきたのだった。
「痛い!痛い!痛い!」
「は~や~ざ~き~!真面目にやれ!!あんな走り、藤堂先輩から逃げていた時と全然違うだろうが!!!」
「ご、ごめんなさい~!!」
あまりの痛みに涙目になりながら日下部に謝り、もう一度タイムを測り直されたのだ。
まあその時も、藤堂先輩から逃げた時の速度で走ってみたけど、実はまだ本気を出していなかったのだが、今度は日下部に気付かれず皆の中で一番良いタイムだったので、日下部は満足そうにしていたのだった。
そうして何度かタイムを皆で測り、リレーの順番が決まったのだ。
私のタイムの次に速い日下部が、二番目で走る事になりその他はルールで決まっている男女交互に配置された。
そうして、私の前に走りバトンを渡してくれるのが、同じクラスの足立さんに決定したのだ。
「は、早崎君!わ、私、ちゃんと早崎君にバトン渡せるよう頑張るね!!」
「うん!頼りにしてる。だけど・・・今からそんなに緊張してると、本番まで身が持たないよ?ほら、リラックスして可愛い笑顔を僕に見せて?」
「・・・っ!」
私はガチガチに緊張している足立にそう言い、リラックスして貰う為に笑顔を見せたのだが、何故か足立はさらに体を強張らせ顔を真っ赤にしその場で固まってしまったのだった。
その様子を不思議に思い、小首を傾げていると不意に肩に手が置かれ、そちらを見ると日下部が呆れた表情で私を見ていたのだ。
「早崎・・・頼むから、それ本番の時にやらないでくれよ」
「へっ?」
私はその言葉にさらに困惑し、足立と日下部を交互に見比べていたのだった。
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