生徒会室
「あ!ごめんごめん。言い間違えてた。本当はちょっと生徒会の仕事手伝って欲しいから、生徒会室まで一緒に来て欲しいんだった」
「・・・・」
そう言って委員長は照れながら頭を掻いて謝ってきたが、私はなんだかわざと言ってたように思えたのだった。
「・・・生徒会の仕事ですか?」
「うん。今高円寺先輩達、修学旅行に行ってるよね?それで、一年生の生徒会メンバーだけで仕事してるんだけど・・・今年は例年より人数少ないせいか仕事が全然回らないんだ」
「ああそう言えば、今年の一年生での生徒会メンバーは委員長含めてまだ三人しかいないんだよね?」
「そうなんだよ・・・本当は早崎君が入ってくれると四人になって助かるんだけどね」
「・・・僕を数に入れるのは諦めて下さい」
「はは、まあそう言うと思ってたけどね。ただ、今本当に大変なのは事実なんだ。それもこの時期は体育祭関係の仕事も合わさってるから、もう猫の手も借りたい状態なんだよ」
「はぁ~それで僕に、その猫の手になって欲しいんだ」
「そうなんだ!こんな事頼めるの友達の早崎君しかいないんだよ!お願い!手伝って!!」
委員長は両手を擦り合わせながら頭を下げ、必死に頼んできたのだ。
「・・・はぁ~仕方がないな~。友達が困っているのを放っておく訳にもいかないからね。良いよ、手伝って上げるよ」
「早崎君ありがとう!!」
私がそう言うと、委員長は嬉しそうな表情で顔を上げ私の手を握ってぶんぶんと握手してきたのだ。
それから私は、委員長と一緒に生徒会室に向かった。
その道すがら仕事の内容と、委員長以外の一年生の生徒会メンバーを教えてもらう。
今年の一年生の生徒会メンバー。
駒井 恭平
テストの順位が、いつも委員長と僅差で2位の成績の人らしく、委員長曰く穏和な性格だとか。
日下部 達哉
春に行った体力測定で、一年生の中で一番成績が良かった人物。テストの順位も生徒会に入れる程に上位だとか。委員長曰く、ちょっと口は悪いが兄貴肌で面倒見が良く親しみやすい人らしい。
二人共私達とは別のクラスだったので、私は顔を知らなかった。ただ、そこでふとある疑問が浮かんだ。
「・・・あれ?そう言えば、生徒会メンバーに女生徒入らないんだね?入れない決まりなの?」
「いや、そう言う訳でも無いんだけど・・・先輩方があれだから、女生徒が入るとちょと困る事が・・・」
そう委員長が困った顔で言葉を濁らせていたのを見て、私はあの四人に群がる黄色い歓声を思い出し、ああと納得して苦笑いを溢したのだった。
そうして委員長と話ながら廊下を歩いていると、漸く『生徒会室』と書かれたプレートの付いた部屋の前に着く。
委員長は取っ手に手を置くと、ガラガラと音をたてながら生徒会室の扉を開けた。
「ごめん!遅くなった!」
そう委員長が声を掛けながら中に入って行ったので、私もその後に続いて入っていく。
しかし、私は中に入って驚きに目を瞠った。
生徒会室の中は、一番奥に多分生徒会長用の大きな机があり、それに連なるようにコの字に一人一人専用の机が置かれているのだが、入口近くの右側三席には高々と沢山の紙の束が積み重なっていたのだ。
そこから何か凄い勢いで書いている音が聞こえるので、そこに人がいることは分かるのだが、その山のように積まれている紙の束で私からはその姿は全く見えなかった。
私がその異様な光景に呆然としていると、その紙の束の一角から怒声が響いてきたのだ。
「三浦!遅いぞ!」
「ごめんごめん日下部君。ちょっとHRが長引いちゃったからさ。それで、はい、僕のクラスの体育祭出場メンバー表持ってきたよ」
「それは自分でやれ!俺も駒井も今やってるので一杯いっぱいなんだ!」
「そう思ったから、助っ人連れてきたんだよ」
「ああ?助っ人?」
そう不審そうな声が聞こえたかと思うと、紙の束の間から怪訝な顔で日下部が顔を覗かせてきた。
「あ!早崎君だ!」
その声は、覗いてきた日下部から発せられたのでは無く、その隣の席から同じように顔を覗かせてきた男子生徒・・・駒井が驚いた表情で言ってきたのだ。
「・・・確かに早崎だ。あの先輩方がご執心の早崎が助っ人だと?」
「うん。僕がどうしてもと頼み込んでお願いしたんだ」
「・・・そいつ本当に使えるのか?確かに一度テストで1位を取ってたけど、その後すぐ順位落としてたじゃねえかよ。どうせあれはまぐれだったんだろ?そんな奴がこの生徒会の仕事を出来るとは到底思わないな。正直、足手まといになるだけだから帰って貰え!」
日下部は嫌そうな顔でそう言ってきたので、私はその言葉にカチンときた。
「日下部君、そんな事言わずに・・・」
「委員長!やるから、僕に仕事持ってきて!」
委員長が日下部を宥めようとする言葉を遮り、私はズカズカと空いてる席に勝手に座ると、目を据わらせながら委員長に要求する。
「おい!俺の言葉聞いてなかったのか!邪魔だから帰れと言ったんだ!」
「邪魔かどうかは後で判断しなよ。良いから日下部君は自分の仕事に集中したら?間に合わないんだろ?」
「くっ!俺は絶対教えてやらないからな!」
「べつに良いよ」
そう憎々しげに言ってきた日下部を無視し、困った表情の委員長を促して軽く仕事の内容を確認してから作業に取り掛かったのだった。
────一時間後。
「これ終わり!次!」
「は、はい!」
「あ~!ここ計算間違ってるよ!・・・ほら、直したから次気を付けてね!」
「す、すみません!」
あんなにうず高く積み上がっていた紙の束の書類が、もうほとんど処理済みの方に綺麗に仕分けされ、残りは目の前にある数束のみとなったのだ。
今は、私が作業している机の前をバタバタと駒井が走り回り、私の指示で書類を渡してくれていた。
どうも委員長の話では、この膨大な量の仕事の半分は毎日ある生徒会の仕事だとかで、あの四人はこれをあっという間に終わらせてしまうらしい。
・・・あの四人しょっちゅう私の所来てたけど、一応仕事してたんだ。
本当に凄い人達だったんだと、ちょっと感心したのだった。
そう思いながら、私は作業の手を止めず次々と書類を処理していく。
そんな私を少し離れた所で、処理済みの書類を胸に抱え持ち苦笑しながら見ている委員長と、その隣に呆然とこちらを見ている日下部が立っていた。
「おい・・・三浦。あいつ一体なんなんだ?」
「う~ん。ただの助っ人だよ」
「いや、ただの助っ人があんな凄い作業速度で出来ないだろう?それも、処理済みの書類は完璧に出来てるし・・・あれ、通常なら三日ぐらい掛かる仕事量だったぞ?」
「正直僕も、ここまで出来るとは思ってなかたんだけどね」
「あいつ、すげぇな・・・」
「これ見ちゃうと、先輩方が早崎君を生徒会に入れたがる気持ちが良く分かるよ」
「確かに・・・」
そう小声で二人が話していたが、私にはそれが聞こえてきたのでギロリと二人を睨む。
「こら!そこの二人!サボってないで仕事しろ!それに委員長!その手に持ってる書類早く先生の所に持っていってよ!先生帰っちゃうだろ!それから日下部君もぼっさとしてるなら、駒井君を手伝って書類分けやってくれよ!」
「はい!すぐ持っていくよ!」
「お、おう!駒井手伝うよ!」
私の声にビクリと肩を震わせた二人は、慌てて私の指示通りにそれぞれ動き出してくれた。
そうして、その後最後の一枚を処理し終えた私は大きく延びをして席を立つ。
「これで全部終わりだから後よろしく。もう僕先帰るね」
「早崎君ありがとう!」
「べつに気にしなくて良いよ。まあ、確かにこの量を三人では確かにキツかっただろうね」
「・・・その量をほぼ早崎君が、全部一人で終わらせたんだけどね」
「そうだっけ?集中してたから気が付かなかったよ。まあ、明日からは頑張ってね!」
「「「え?」」」
「え?って・・・何?」
委員長と話していたのに、なぜか私の言葉に三人は同時に驚きの声を上げた。私はその声に嫌な予感を感じる。
「早崎君・・・出来れば明日から暫く手伝って欲しいんだけど・・・」
「ええ!?」
「お願い!先輩方が修学旅行から帰ってくるまでの二週間だけで良いからさ!」
「だけど・・・」
「カフェで、ハンバーガーセットにプリンも付けるから!」
「うっ!」
「それなら、俺もお薦めのカレー奢るから頼む!」
「ううっ!!」
「あ!僕も、凄く美味しいケーキ奢りますのでお願いします!」
「うううっ!!!」
三人はそう言って頭を下げてきたのだ。
「早崎君!!」
「くぅ~!分かった!手伝うよ!ただし、本当に二週間だけだからね!」
「ありがとう!!」
委員長は私の言葉に嬉しそうに喜んでいた。他の二人もホッとした表情をしている。
私はその三人を見ながら、あの四人がいない平温な日々が結局忙しい日々になってしまったと、心の中で嘆いていたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます