二学期開始

「ちなみに~実はもっと凄いのが、次のページにあるんだよ~!」


「ほお~どれどれ?・・・・・っ!!」




 榊原の言葉に藤堂が面白そうにページを一枚めくり、そして目を見開いてその動きを止めた。




「・・・健司どうした?」




 藤堂の様子を高円寺が怪しみ声をかけるが、反応は全く無く怪訝な表情で桐林と一緒に開いていたページを覗き見る。




「なっ・・・・!!」


「っっ・・・・!!」




 すると、高円寺と桐林も藤堂と同じように目を見開いて固まってしまった。よく見ると、三人共うっすらと頬が染まっている。




「ね?凄いでしょ?」




 榊原のその言葉に、三人は無言で頷いていたのだ。


 私はそのただならぬ様子に、一体何が写っているのだろうと恐る恐る覗き見ると、そこには濡れた髪を片手で後ろに掻き上げ微笑んでいる私が写っていたのだった。




「え!?この時のも撮ってたんだ!!」


「うん。どうもハルさん、あの時ほとんど惚けていて意識ハッキリしてなかったらしいんだけど、突然訪れたシャッターチャンスに、無意識に体が反応して撮っていたらしいよ~。さすがプロだね~。まあ、ただそのせいでファインダー越しに、直接響君のあの表情見ちゃったからそのまま昏倒しちゃったんだけどね~」




・・・待て待て!何故私の表情を見て倒れるんだ!?それじゃ、あの時の昏倒騒ぎは私のせいだと?いや、そんなはずはない!私は普通にしていただけなんだけどーーーー!?




「ああ確かに。こんなの直接見たらそりゃ~倒れるよな」


「健司もそう思うよね~?実際現場では他にも倒れる人続出したんだよ~」


「そうだろうな・・・そう言えば誠は直接見なかったのか?」




 高円寺がふと疑問に思い榊原に聞く。すると榊原は、ポリポリと指で頬を掻きながら複雑な表情になる。




「あ~うん・・・見たよ。それも目の前で」


「それは凄いな!・・・誠は平気だったのか?」


「う~と、えっと・・・実は僕もほんの一瞬意識飛んだんだ。まあ、すぐに意識戻ったけどね。だけど暫く心臓バクバクで頬熱かったよ~」


「・・・仕事関係で、あらゆる美形を見慣れている誠でさえその反応・・・恐るべし『笑顔+色気』」




 そう桐林が告げると、他の三人も同時に頷いたのだった。




・・・なんか、その写真一枚で凄い言われようなんだけど!?・・・何故だ。




 私はその皆の反応に、納得がいかず頬を引きつらせながら、藤堂の手から写真集を奪い取りすぐに鞄にしまったのだった。




「そうそう、忘れてた~!実はハルさんから伝言頼まれていたんだった~!」


「伝言?」


「うん!えっと・・・『響ちゃんの事、あたし凄く気に入っちゃったから~是非あたしの専属モデルになって~!お・ね・が・い!』だって~」


「・・・・」




 榊原がハルの声真似をし、さらに動きもそれっぽく体をくねらせ最後にウインクしてきたので、正直私はそれを見て引いてしまう。だけど、そんな私の様子を気にもせず、さらに榊原は話を続ける。




「あ!あとその写真集、実は僕の両親も見たんだけど、それを見た二人が響君の事凄く気に入っちゃって~是非とも我ファッションブランドの専属モデルになって欲しいと、興奮気味に言われちゃったんだ~。・・・響君どうする?」


「どちらもお断りします!」




 私は間髪入れずキッパリと断ったのだ。




「そうだと思った~。大丈夫だよ。そう響君が言うと思ってたから、どっちも僕が断っておいたからね~」


「ありがとうございます!」


「・・・だけど、いつでもやりたくなったら言ってくれて良いからね~!」


「それは絶対無いです」




 そうして、私は生徒会メンバーにその場を辞する挨拶をし、微妙な表情でずっと私達のやり取りを黙って見ていた委員長と一緒に、校舎の中に入っていったのだった。






 その後始業式を経て二学期が始まった。


 一学期と変わらず(相変わらず生徒会入れコールは続いている・・・)な日々を過ごしている。


 そして中間試験がこの間あり、その結果はまた中間辺りの順位になっていたのでホッと胸を撫で下ろしていたのだが、その時結果を見に来ていた桐林が、私を呆れた表情で見てきたが完全無視してやった。


 ちなみに委員長は勿論1位であったが、なんと明石が今回5位になっていたのは驚いたのだ。


 委員長に聞いてみると、あれ以来明石からの苛めはパッタリと無くなったそうだ。そして、それから明石はよく図書室で勉強しているらしく、さらに時々委員長に勉強を教えて貰っているらしい。


 何が切っ掛けでそこまで変わったのか知らないが、変わろうと思えば人は変われるんだな~としみじみ委員長に言うと、何故か委員長は誰かを思いながら哀れんだ表情をしていたのだった。


 まあそんな事もあったが、無事中間試験の順位を戻せたのでこれで生徒会入れコールも無くなると思っていたのだが、全くそんな事も無く、結局生徒会メンバーに付きまとわれる日々を過ごす羽目になっているのだ。


 だが、今日からはそんな日々を過ごさなくて済むと思うと、思わず顔がにやけてしまう。


 何故なら、今日から二年生は海外に修学旅行に行っているのだ。


 まあ、この平穏な日々は二週間しか続かないが、それでもこの二週間を大事に過ごそうと思っている。


 そんな事を思いながら、今教室では放課後のHRの時間で、もうすぐある体育祭の出場種目決めを行っていた。


 この体育祭は、全員必ず最低でも一人二種目は出場しなければいけない決まりがあり、私は目立ちたく無いので団体競技の大綱引きと玉入れに出場するつもりであったのだ。




「え~と・・・では次は、学年別男女混合対抗リレーに出場して下さる方はいますか?」




 そう委員長が黒板を背に、教壇の前で司会をしながらクラスの皆を見回し聞いているが、誰一人手を上げる人がいなかった。


 何故ならこの対抗リレーは、一年生が二年生と三年生と同時に走って競い合うものなのだ。ハッキリ言って、まだ体の出来ていない一年生ではほぼ上級生に勝てるはずも無く、そんな惨めな思いをしたくないので毎年なかなか出場するメンバーが決まらない事で有名な種目である。正直何でこんな種目があるのか疑問に思う。ただ、どうも去年は一年生が勝ったらしい。まあ出場メンバーが、あの藤堂と高円寺だったらしいので納得した。




「う~ん・・・やっぱり誰もいないか。なら、僕から推薦します。僕は、早崎君を推薦しようと思うのですが皆さんどうでしょう?」


「ええーーーー!?」




 委員長のその発言に、思わず驚きの声を上げ椅子から立ち上がってしまったのだ。


 だけど委員長はそんな私を気にも止めず教室の中を見回すと、他の生徒達が次々と手を上げ賛成の声が広がったのだった。




「はい。賛成多数ですので早崎君に決定します。では早崎君お願いします!」


「え?いや!委員長!僕の意見を!!」


「早崎君ごめんね。この種目だけは毎年なかなか決まらないから、委員長が推薦で決めて良い決まりなんだ」


「そ、そんなーーー!!」




 私の嘆きの声は教室中に響渡り、委員長は申し訳なさそうに私を見てきていたのだ。






 その後次々と他の種目も決まり、私はさらに別のリレーに出場させられそうになったのを断固として拒否し、なんとか玉入れに出場させて貰える事になった。


 そうして全ての出場メンバーが決まり、HRが終わったので私は寮に帰る為とぼとぼと廊下を歩いていたのだ。正直今から体育祭の事を考えると憂鬱になる。




「あ!早崎君ちょっと待って!」


「委員長・・・」




 後ろから聞こえてきた、この憂鬱の原因を作った委員長を振り返りながらジト目で見た。




「は、早崎君・・・本当にごめん!でも、これは絶対早崎君が適任だと思ったからさ!その代わり、また今度カフェで何か奢るよ!」


「・・・またあのパフェでも良いんですか?」


「うっ!・・・でもあれは結局、早崎君も途中でギブアップしたじゃないか・・・」


「・・・・」




 二人で特大パフェをカフェで食べた時の事を思い出し、今は何も食べてないのに胸焼けを起こした。委員長を見ると、委員長もあの時の事を思い出したのかうんざりした表情をしている。




「・・・カフェで一番人気の、ハンバーガーセットで手を打つよ」


「・・・ありがとう」


「それで、僕を呼び止めたのはその事言いに?」


「ああ、それもそうなんだけど、ちょっと早崎君にお願いがあって呼び止めたんだ」


「お願い?」


「うん。ちょっと生徒会に来てくれないかな?」


「ええ!?委員長までそれ言ってくるの!!!」




 まさか委員長までも、私を直接生徒会に誘ってくるとは思わず、驚きの声を廊下に響かせたのだった。

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