天然スマイルキラー
あの後私は必死の抵抗をしたのだが、驚いていたお父様もお母様の案に藁にもすがる思いで乗っかってしまった為、私は渋々響の身代りとして男装する事になったのであった。
ただ、私としてはこの入学式までに響が見付かる事を切実に願っていたのだが、願い空しく響は見付からずこの入学式の日を迎えてしまったのだ。
受付の先輩は名前を聞いてから、新入生の名簿欄にチェックを入れていた。するとそこで何かに気付いたのか顔を上げて私の後ろや回りを見回す。
「あれ?早崎君、この名簿には今日君の双子の妹さんも入学するとなっているんだけど・・・一緒に来ていないのかい?」
「・・・ああ、妹の詩音はちょっと病気を患ってしまい、暫く休学させて貰うことになっているんです」
「休学?と言うことは例の特別休学システムを使って?」
「・・・はい、そうです。そんなに重い病気では無いので自宅療養でそのシステムを使わせて貰うよう、学校には既に許可を頂いています」
「そうなんだ・・・大変だね」
そう先輩が心配そうに私を見てきた。しかし私が実はその妹の方だとは言えず罪悪感で曖昧な表情になる。
ちなみに特別休学システムとは、どうしても通えない場合にのみ学校へ申請を出して休学させて貰う事なのだが、その条件として学校と同じレベルの勉強を休学中にする事となっている。
なので復学した時にはちゃんと勉強してたかどうか確認する為、非常に難しいテストを受けさせられるのだ。
それももしこれが合格点に達しないと復学させて貰えず、卒業まで復学出来ず休学のままだと最悪卒業の時に貰える証明書が発行されない事になっているのだ。
さらに、このシステムを受けられるのは跡継ぎにならない者のみと厳しい条件となっている。
一応私はその条件をクリアしていたし、響が見付かるまで代わりに授業を受けるので復学した時にそのテストを受けても問題ないと判断しているのだ。
ただ、響と入れ替わって響が授業に付いていけるかどうかと言うと・・・多分響の事だから大丈夫なような気がする。
「じゃあ、これが入学案内書とこれが構内の案内図だよ。入学式はもう少し後だし、荷物はもう寮に届いているから先に寮に行って荷物の整理をしておくと良いよ」
「ありがとうございます」
そうここは全寮制の学校なので全生徒は寮に住むことになっているのだ。私は案内図を見て寮の場所を確認する。
「・・・しかし早崎君・・・君、凄い美少年だから妹さんも凄い美少女なんだろうな」
「え?」
「え?って自覚ないのかい?君凄く綺麗な顔立ちをしてるからさ」
確かにあの両親の子供だから顔立ちが綺麗な事は多少自覚していたが、ずっと自分とそっくりな響の顔を見続けていたのであまり自分が美少年 (美少女)だと言う自覚が無かったのだ。
なので他の人からそう言われ凄く嬉しくなり、満面の笑顔を浮かべ先輩を見た。
「ありがとうございます!きっと妹もそれを聞くと喜ぶと思います!」
「・・・っ!」
私が笑顔でお礼を言うと、何故か先輩は顔を真っ赤に染めてボーと見てきた。
どうしたんだろうと不思議に先輩を見ているのだが、実はこんな事がしょっちゅうある。何故か私が笑顔を向けると、皆この先輩のように顔を真っ赤に染めボーと見てくるのだ。
しかし何でだろうと思っていると、そこで響が私に言ったある言葉を思い出す。
『この天然スマイルキラー!!』
その時も響は顔を真っ赤にさせながらそんな事を言ってきたなと思い出したが、何故そんな風に言われるのか全く心当たりが無かったのだった。
「あ、あの~先輩?大丈夫ですか?」
「へ?あ!だ、大丈夫だ」
呆けた表情でいた先輩が心配になり声を掛けると、先輩はハッとした後すぐに表情を改めぎこちない笑みを見せてくれる。
私はそんな先輩を心配しつつもう一度お礼を言ってその場を後にした。
ただ去り際に先輩が『俺はノーマルだ。俺はノーマルだ・・・』と、よく分からない事をぶつぶつ呪文のように呟いていたのはちょっと気になったけど・・・。
────学生寮前。
私はその建物を見ながらまた一人佇んでいた。
・・・ほ、本当にここが学生寮なの!?
もう一度案内図を確認しそしてその建物を見上げて唖然とする。
何故ならその学生寮は見ため殆ど高層マンションのようだったからだ。
その建物はツインタワーのような造りになっており、低層と高層の部分だけが繋がっている。
私が住んでいた所にある学校の寮はこんな形では無かった為、つくづくここは凄い学校なんだと自覚したのだ。
いつまでもここに突っ立っているわけにもいかないので、私は気合いを入れ入口の大きな自動ドアから中に入っていった。
中に入ると広々とした高級感溢れるエントラスが広がっており、まるで高級ホテルに来たような錯覚をさせられる。
私はキョロキョロと辺りを見回しフロントを見付けてそこに近付く。そこにはキッチリとスーツを着こなしたコンシェルジュの男女が立っていた。二人は私に気が付くと笑顔を向けて出迎えてくれる。
「おかえりなさいませ」
「あ、ただいまです」
男のコンシェルジュにそう言われ、初めて来たのに反射的に答えてしまった。
「今日ご入学の御方ですね?では御名前を頂戴しても宜しいでしょうか?」
「はい。早崎 響です。早崎楽器と言えば分かりますか?」
「・・・はい大丈夫です。早崎 響様ですね。ではこちらがお部屋のカードキーとこの学生寮の案内書になっております。御実家から送られてきてますお荷物は既にお部屋にお入れしてあります。それから妹様の詩音様の部屋も一応御用意させて頂いておりますが、学校側から休学の連絡を受けておりますのですが間違いございませんでしょうか?」
コンシェルジュの男の人は手元のパソコンを操作して確認をしている。
「ありがとうございます。妹の件は合っています」
「分かりました。詩音様がいつでも復学された時にお使い頂けますように、常に掃除はしっかりさせて頂きますのでご安心下さいませ」
「お願いします」
「では、軽くですが館内の御説明をさせて頂きます。この学生寮は外から見てもお分かりになりますように西館と東館に別れております。西館は男子寮、東館は女子寮となっており基本的にそれぞれの館に異性は立ち入り禁止となっております。ただしレストラン、談話室、展望室は男女共有スペースとなっております。そして一応門限が御座いまして、夜の11時となっておりますのでそれまでにお部屋にお戻り下さりますようお願い致します。ただしどうしても遅れる場合や外泊をされる場合は、事前に申請を出して頂き受理されれば何の問題もございません。御説明は以上で御座いますが何か御質問は御座いますでしょうか?」
「・・・いえ、大丈夫です」
「そうですか。もし分からないことが御座いましたら、何なりとお聞き下さいませ」
「はい。その時はお願いします!」
そう言って丁寧に説明してくれたコンシェルジュに笑顔を向けた。
するとコンシェルジュの男の人が顔を真っ赤に染めて固まってしまう。
そしてその隣を見ると、コンシェルジュの女の人も私の顔を見ながら顔を真っ赤に染めて固まっていたのだ。
またか・・・。
私はその様子にため息を吐いてもう声を掛けるのも面倒になり、軽く会釈をしてその場を去り自分の部屋がある西館のエレベーターに乗ったのだった。
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