作戦開始

 星が見えない夜だった。月も見えない。しかし、街は明るかった。ビルや上空に投影された広告やテレビ番組の映像、自動操縦によって綺麗に整列しながら進む自動車のライト等が、星よりも眩しいほどに世界を照らしていた。


 その上空を、数機のヘリが飛行していた。回転翼の音はとても静かで、黒く塗装された機体は、たとえ明るく照らされた夜でも、その薄闇に上手く紛れることが出来ていた。


 ヘリは一つの高層ビルの上空で停滞した。そしてヘリの入り口が開く。強い風が、涼の金髪を靡かせた。


「行くぞ」


 涼はそう言うと、ヘリから飛び降りた。草薙、雅、前司も続く。


 夜風が通り過ぎていく。都市の明かりに照らされる。着地点のビルの屋上が、徐々に大きく見えてくる。


 たん、とそれ程大きな音を立てることもなく、涼たちは着地した。風魔法と科学によって、衝撃を極限まで減らす靴を涼たちは履いていた。


 そして光学迷彩をオンにした。涼たちはお互いが完全に視認できなくなったことを確認すると、フェンスまでダッシュ。落下防止用フェンスを乗り越えて、ロープの付いたフックを掛け、そしてそのロープを握りながら落ちるように降下した。


 屋上から数階分降下すると、とある階の、とある部屋の窓の上で止まった。


「現在確実に誰もいない部屋。それがここらしい」


 逆さのままロープに吊られている状態で涼は言った。涼は人差し指を部屋の窓から覗かせる。人差し指の先端に小型のカメラが仕込まれていて、その映像をホログラムとして涼の目の前に投影された。


「クリア。奈々、手筈通り最初のセキュリティハックを。ばれるなよ」

――了解。


 窓枠上部が緑色に光っていた。しばらくすると、それが赤色に変わる。


――完了。

「よし」


 涼は手のひらを窓ガラスに押し当てた。すると、窓ガラスは途端に融解していく。およそ一人分くらいに四角く切り取ると、涼は懐からドローンを放り投げた。


 正方形で厚さ3センチ程度のドローンは、床に衝突する直前で宙に浮いた。ホバリングだ。そしてそのドローンは徐々に透明になっていき、視認できなくなる。このドローンも光学迷彩を搭載していた。


「奈々。次の仕事だ」

――ええ。


 すると、ドローンは勝手に動き出した。奈々が遠隔で操作しているのだ。


 ドローンは閉まっているドアに差し掛かった。するとドアノブがひとりでに動いて、さらにはドアが勝手に動いて開いた。このドローンは簡単な魔法も使える。

――廊下、クリア。

「よし。ゴー」


 涼たちは部屋に侵入した。


――マッピングナビ、起動します。

「オーケー」


 すると涼たちの視界には、建物の構造とドローンが見た映像と照らし合わせたガイド線が投影される。


――敵発見。スポットします。


 敵が歩いている映像が、赤い線の立体で投影された。涼たちはそういった情報を頼りに、進んでいく。


――最初のジャミングエリアです。

「よし。そこで待機。誤って引っ掛かるなよ。アラートが鳴っちまう」


 敵が登録したID以外の電子機器が通ると、機能不全を起こし、それを検知して警報が鳴る電波が階段とエレベーターに設置されていた。そういった妨害によって、ノウンのサーバー位置を完全に特定することが出来なかった。


「ここだな」


 涼はジャミングの原因となる機器を発見すると、デバイスを取り出す。そのデバイスからレーザーポインターのような赤い光が出た。その赤い光を対象の機器の入力端子に当てる。


「接続完了。奈々、ハックだ」

――了解。


 ハック中の電子機器は緑色のランプを点灯していた。しばらくするとそれが赤に変わる。


――完了です。60から40階までのジャミングが解除されました。

「よし、解除された全ての階を捜査だ」

――了解です。


 待機中の一つのヘリから、計20機のドローンが飛行し、先ほど涼が開けた窓からいっせいに侵入した。ドローンは光学迷彩をオンにし、涼たちのいる階段から各階の捜査を開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る