第34話 くじらのゆめ②
二人の男神と羊と牡牛が早速エリダヌスに向かうと、天上の神様は残る二人の女神に言いました。
「アンドロメダにカシオペア。お前たちは、動物たちが川に近づかないように遠ざけておくれ」
「ご承知いたしましたわ」
「お任せくださいませ」
そう言うや否や、アンドロメダは直ぐにエリダヌス川のほとりに住む動物たちを集めました。そしてカシオペアは、一匹の小さな魚を呼びました。この魚は、くじらの吹く潮を見るのが大好きでした。揺りかごの中で小さな星の光のようにキラキラと瞬く水しぶきは、魚の眼にはそれはもう美しく映ったのです。でも、くじらが眠らなくなってから、あまり潮を吹かなくなってしまったので魚は少し残念に思っていたのです。
「ああ、女神様。僕はもう、くじら君の潮吹きは見られなくなってしまうのですか?」
「いいえ、お魚さん。そんな事はありませんよ。どうかご安心くださいな」
不安そうに背鰭を震わせる魚に、アンドロメダは優しく言いました。二人と二匹が乗ったペルセウスの馬がエリダヌス川のほとりに着くと、牡牛は真っ先に飛び降りて一目散に川の中で泳いでいるくじらに駆け寄ります。
「ああ、くじら君!」
「やあ、牡牛くん。なんだい、藪から棒に」
「今日、僕が天上の神様の所に君が眠れるように相談したんだ。そしたら、神様が君が眠れるように取り計らってくれるというんだ」
「そうなのかい? でも、本当にいいのかなあ」
くじらは眉を下げていいました。するとそこへオリオンがやってきました。オリオンは水を操る力を持っていましたので、くじらを川の水ごと別の場所に運んで避難させます。
それを見届けた後、今度はペルセウスが凄まじい力で川をドンドン深く、そして広くしていきます。一時間もかからないうちに、エリダヌスは二倍以上の広さと深さになりました。オリオンはくじらを川の水ごとそっと戻します。
「ふーっ。やっぱり川の中だと安心するねぇ」
「はーい、くじら君。今度は僕の出番だよ。目を閉じてらくーにしててね」
「やあ、羊君。とにかく、よろしく頼むよ」
広くなった川の中に戻されたくじらは、川の中でぐるりと体を捻って見たり、ざぶんと大きく撥ねてみたり。それでも川の水が溢れないので、くじらはとても満足そうです。するとそこへ、羊が川のほとりにやってきました。
羊は角に引っかけてあったトライアングルを頭を振って器用に鳴らします。チリリン、チーンと優しい音にくじらの瞼はどんどん重くなり、やがてついに完全に眠ってしまいました。
「やあ、眠ったぞ。やっと眠ってくれた」
牡牛君は大喜びでそこら中を駆け回ります。くじらの様子を見守っていた他の動物たち――鳩や兎やおおいぬやこいぬも大喜びです。そして、川の中に戻された魚は、時折吹くくじらの潮を、久しぶりに見ることが出来たのです。
こうして、くじらはようやく眠ることが出来たのでした。川のベッドに揺られながら気持ちよく眠るくじらは、牡牛や羊や他の動物たちと揺りかごの中で遊ぶ夢を見続けるのでした。
冬の夜空を御覧なさい。
大きなエリダヌス座の上に、大きく体を伸ばしたくじら座があります。そのくじらに背を向けるように、おうし座があるのが分かるでしょう。今も二人は仲良く追いかけっこを続けているのです。くじら座の真上にはおひつじ座がありますね。羊は、今もくじらを寝かしつけようと三角のトライアングルを鳴らし続けています。
ほら、くじら座の西にはうお座があります。きっと、今でもくじらが吹く潮を楽しんでいるのでしょう。
川の向こうには兎や鳩が、仲良く遊んでいます。オリオンは今日もおおいぬやこいぬを従えて冬の夜空を駆け回っています。
では、アンドロメダにカシオペア、ペルセウスはどこに居るでしょう?
ペルセウスとアンドロメダは、二人仲良く並んでくじらを見守っています。そしてペルセウスは北極星の近くで一年中夜空で彼らを見守っているのです。
おしまい
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