第23話 ちんじゅのもりは

 いつから在ると分からぬ森に、鹿が一匹入り込む。

 求めるものは、僅かな水と木の皮と。

 鎮守の森は知っている。

 この鹿が、やがて我らの糧となる事を。


 いつから在ると分からぬ森に、蜂が一匹入り込む。

 求めるものは、巣となるクヌギの樹と樹液。

 鎮守の森は知っている。

 この蜂が、やがて我らの番人となる事を。


 いつから在ると分からぬ森に、子供が一人入り込む。

 求めるものは、冒険心と秘密の遊び場。

 鎮守の森は知っている。

 この子供が、やがて我らの仇敵となる事を。


 いつから在ると分からぬ森は、今日も静かに佇み眠る。

 求めるものは、静かな癒しと変わらぬ風景。

 鎮守の森は知っている。

 我らの見守るこの土地に、やがて灰色の建物が建つ事を。

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