第39話 マルトと発展

「はぁぁぁあっ」


バジッバシッバシッ


激しく竹刀での打ち合いをする。

俺が身体を沈め、足払いをするとマッシュがジャンプして避ける!


チャンス!


俺は瞬時に身体強化を使い、一時的に全ての肉体強化をして動きを速度をあげて素早く動く。

俺は片手を地面に着いて、それを支点に身体を反転させると、空中のマッシュに向かって竹刀を叩きつける。

マッシュは器用に、空中で身体をひねって避ける。

……だがしかし、空中でわずかにバランスを崩している。

俺はそのまま地面を蹴り、その反動を使い全体重をかけて、マッシュに飛び蹴りを出す。


「うっ」


見事に腹に入った蹴りで、地面に落ちたマッシュに追い打ちをかける。


バシッ


「まいった俺の負けだ」


俺がマッシュの胸を竹刀を叩きつけたところで、降参をしてくれた。

まあ肉体強化魔法・・・・・・・・を一切使ってないマッシュ相手となら、何とか勝てるようになった。


「ラークの勝ち!さすが俺の息子!」


クラークが満面の笑みをして俺を抱きついてくるが、俺は直前でよける!


「なんで避ける!勝利のキスをしてやるから!」


口を突き出してじりじりと俺に寄ってくる。


「いらない!、お父さんのオッサンのキスは結構です汚らわしい


おっさんのクラークキスは断固拒否だ!


「フフフ、お父ちゃまに勝てるとおもうな」


誰がお父ちゃまだ!

クラークが舌なめずりしながら俺に掴みかかってくるが、俺は紙一重でよけて肉体強化魔法を使い、クラークの腕を取って一本背負いをして地面に激しく叩きつける。


「あと10日で成人を迎える息子にキスを強要するな!」


「ゴホッ……いたい!これがお父ちゃんに対する仕打ちなんて……うちの息子がぐれたよ!ひどすぎる」


勢いよく背中から地面に叩きつけられたクラークは、痛がり泣いていた。


「「おーーー」」


マッシュたちが拍手をする。


「ラークはこの一年で見違えるほど強くなったな」


ラッシュは感心したように言った。






そう誘拐事件あれからから約一年が経った。

町はこの一年で驚くほど急速に発展していった。すでに人口は軽く1万人以上にはなって、もう都市と言っていいぐらいだ。

このままいけばこの街の人口は10万人は超えて、この世界では国と言えるレベルになるだろう。


なにせこの町は魔物が、全く襲ってこない。

魔物が一切町に来ないということは、人は安心して住める。それがこの街を発展させる要因にはなっている。

魔物に常におびえて暮らしていた、この世界に住む者としたらかなりすごいことだろう。

これで人が集まらないわけがない。


そしてこの町では、どんな国でも食べられない美味しい食事があり、便利な物も提供している。


街中に上水道と下水道と引いたのだ。おかげで蛇口を捻れば水が出て、汚水は下水に流れる。川や井戸までの水くみが無くなり、糞尿や汚水が町を汚すことが無くなった。


グレール王都では汚水や糞尿などが、そのまま道や地面にばら撒かれていた。

そのせいで街中が臭かったし、不潔だった。そのせいで病気が蔓延して死ぬ者も少なくなかった。

勿論、病気は治せる。だがしかし魔法と薬による治療ができるのだが、魔法が使えなく金もない貧民層では、病気にかかるとまず死んでいく。


しかし、このマルトでは下水があるので、汚水や汚物が街に撒かれる事もない。そのせいで清潔な町になり、グレールとは違って不潔による糞尿からの病気の発生が一切無い。


勿論、町に住む者にはいろいろなルールを決めて、汚水やトイレの使いかたを教えた。


最低でも7日に一度以上の入浴をする事。

汚水は下水に流し、排尿排便は必ずトイレでする事。

ゴミは勝手には捨てず、決められた日に決められた集積所に出す。

他人の物を奪わないし盗まない。

暴力、殺人行為は禁止。

街の物は公共物全てペペの物であり、破壊をしたりすると弁償をする。

等々いろいろと決めていた……。


その決めたルールを守れない者は、発見次第この町から追い出したり、逮捕をして奴隷として働いてもらっている。


魔物による命の危険が無く、ならず者に盗賊などの暴漢よる暴力がない治安のよい街で、清潔で美味しい食事あり便利な町。

それはこの世界にはありえないぐらい画期的な街なので、どんなルールを守ってでも住みたくなる街だろう。

そうしていたらこのマルトを、新しい新天地として働きに来る人が多く、あっという間に人口が増えた。


そのせいで金が大量に動いたが、俺の考えた紙幣エンを大量に刷ることによって、金が困ることもなく給料の支払い等などは事なきを得た。


でも沢山の人が集まるとできる、エネルギー燃料と食料の問題が出てきたが、それも解決できた。


それは魔法だ。


エルフたちの知識と魔法呪紋の力はすごかった。なにせ成長促進の魔法呪紋を持っていたからだ。

元々はワインを早く作るための、生物成長魔法だったらしいのだが、おかげで醤油や味噌なども早く大量に、作れるようになっていった。

植物の成長促進の呪紋があるので、それにより農作物の成長促進もできた。


そして一番欲しかった物……そう米だ。

それはゴルドが米を他の国で見つけていたのだ。

何年かぶりに食べる米は感動した。


……と言いたい所だが、俺の知っている米ではなく、タイ米みたいなパサパサの米で独特な臭みのある穀物だった。とてもではないが美味しいとは言えなかった。


しかしそれを生命魔法とエルフの呪紋を上手く組み合わせて、発見した米をジャポニカ種の米と同じように品種改良をした。

それは見事な味で、コシヒカリも負けないような美味しい米に変わっていた。

家族やマッシュたちやペペのみんなに食べさせたら、みんながハマってパンから米がうちの定番になった。

今ではマルトの主食は、麦を使った主食から、お米にシフトチェンジをしている。お米は美味しいからね。


あるじの奴隷になってこれが一番感動した」

なぜかゴルドに褒められた。

ちなみにゴルドに言って『ご主人様』呼びから『あるじ』に変えてもらった。最初は不服そうにつまんなそうは言っていたけどね。


そして米を作るのには、町から大量に出る下水の汚水糞尿や汚水を、土の魔法と水の魔法の呪紋で、肥料と水に変化させて畑や田んぼに分配し、光魔法と風魔法の呪紋で光と二酸化炭素を与えて急激な成長をさせる。

そうすると種まきから、わずか1週間ほどで収穫ができるようになる。


そしてその時に大量に出るわらを加工して紙を作る。

それはわら半紙だ。


わら半紙の作り方は藁を細かく切って苛性ソーダで煮て、植物のリグニン固めている物質を溶かして、洗って叩いて細かく砕いて水と混ぜ、その上にモロヘイヤみたいな粘りが出る草のネバネバを混ぜて固めて、それを水に溶かし、すかせてできる。

ちなみに苛性ソーダの作り方は、食塩水を水銀と電気分解雷魔法して作る。

その上の高級紙として洋紙の製造も開始した。

苛性ソーダ水酸化ナトリウムから、硫黄を使い硫化ナトリウムを作り、それらを混合させた液体で木材を高圧かけて煮詰めると、木材のリグニンが解けて、細かい繊維になる。

それに石灰石を砕いて混ぜ、伸ばして紙にすると真っ白な紙ができる。


まあそんな感じでいろいろと紙を作り、グレール王都に売ると爆発的に売れた。

羊皮紙よりもかなり安く、質が良くて使い勝手いい紙は、みんなこぞって買ってくれた。

今では紙が、どの家庭にも普及していると言われている。


そしてここで不思議に思った人もいるだろう。紙を作るためには、動力が必要だろうと。

確かに身体強化の魔法を使えば、ある程度は人力で出来るが、大量生産には向いていない。


だから俺は考えた。

現代の地球前世ではかかせない物があった。


それは電気だ。

電気を作るのには、発電機が必要だ。

発電機は銅線でコイルを巻き、周りに永久磁石をつけて回せば電気ができる。

モーターは逆に、それに電気を流せば動く。

それを動力に、機械を動かせばいい。

電気がさえあれば魔法が使えない者でも、明りを灯して夜でも快適に暮らせる。

炭化させたフィラメントの不純物を魔法でとり、鉄とニッケルのジュメット線と合わせて、真空のガラスの中に入れて電球ができるので、それで明りを作ることができる。


ただし発電は人力だけでは大変だ。

大変だから俺は動力を考えた。


次は蒸気機関だ。

水を加熱し水蒸気に変え、その蒸気による圧力を使って、フィンを回して動力に変換し、発電機を回す。

魔法のおかげでわずかな燃料木炭を使い、火力と水蒸気を調整しながら使えるので、エネルギー変換率はものすごくいい。

無駄なく使えるから、火力発電どころか原子力発電よりも効率は良いはずだ。

放射能汚染も心配なく、安全に使えるからエコだ。


ぶっちゃけこの町は、この世界では初の産業革命を起こしている。

蒸気機関で電気を作り、それで物を動かす。

実は俺は魔法による工程を、俺がアーロンに習った呪紋を元に誰でも簡単に使えるようにしていた。


街を賄うほどの発電は、かなり大きな魔法になってくる。それもかなりの魔力が必要とするので、そこはエルフたちに頼んでしてもらっている。

エルフ達は魔法を使うことは苦でもない。有り余るぐらい莫大な魔力を持っているから、いくらでも協力してくれる。

奴らは魔法の計算がめんどくさいだけで、魔法使うことは大好きだからだ。

ただし……エルフジョークに付き合う、周りの人間の我慢精神力が必要だからノーリスクではない。


そして誰でも魔法を使えるようにするために、方定式を呪紋にして紙に書いて作っている。

それを印刷して渡しているので、魔法の計算が出来ない者でも呪文キーワードさえ唱えると、その人が持つ魔力を使って発動ができるようにしていた。

俺はそれを呪符おふだと名付けて使わせている。

呪符おふだのおかげで、誰でも便利な魔法を扱えるようにしている。

ただし紙で書いているせいか、一度使うと燃えて無くなってしまうのが欠点だ。


てな感じで、俺の知識前世の記憶を使い、いろいろとリリックに開発と具現化してもらって物を作っては、グレール王都に販売する。

そして売れたらそのお金で、奴隷を買って労働力を増やしていく。

奴隷を労働力として雇っているが、頑張って働く者には賃金エンを渡している。

その金で自分を買い取り、奴隷の身分を解放することも出来るようにしている。だから奴隷のみんなは、一生懸命に働いてくれた。


ただし今では奴隷から解放されることを、強く望んでいる奴隷が少なくなったという事だ。

なぜなら衣食住は確保しており、奴隷を解放された生活よりは奴隷の方が快適に過ごせる。

だから下手に奴隷を辞めるより、貰った給料で贅沢した方が利口という事だからだ。


……とまあ、まあ俺のおかげでマルトはでかくなった。

そんなことをして街を広げていたら、今のマルトは直径30キロぐらいの広さになっていた。








「リリックいる?!調子はどう?」


クラークたちと朝の訓練も終わり、朝飯と風呂の後にリリックのところにやってきた。


「ラーク様、おはようごさいます。こちらにいますよ」


工房に働いている奴隷の少年が俺を案内してくれた。歳の頃は15歳ぐらい、そして首には奴隷の首輪が付いている


リリックのところには奴隷の中でも、優秀な者賢く器用な者たちを集めて、専用の工房で働かせている。


ただ、ここはかなりの秘密を要する部門だから、どんなに働いても金を稼いだとしても、一生奴隷解放をしない身分を買い取れないと言っているのだが、それでもいいと言う者が多かった。


なにせこの世界での最先端の技術を学べて、住まいは一人一部屋の個室にして、その上他の奴隷よりも高い給料を与えていたからだ。


前世で俺が働いていたシステムエンジニアの会社は、ひどいブラック企業だった。格安の給料で、その上まともな有給すら貰えなかった。

そんな思いをこの街で、させるつもりはない。






「ラークか!丁度いい!やっとできたぞ!」


リリックが喜んで、俺の元にやってきた。


「そうか!ついにできたか!」


街が広くなり街の移動が大変なので、移動用の蒸気機関車も開発してもらっていた。

リリックの目にくまが出来ているから、きっと徹夜で完成させたに違いない。



ちなみにリリックには精霊数によって変わる魔法の計算式を、簡単な表計算で暗算できるようにしたのを本にして渡している。差し詰め、魔法を使うための魔導書と言ったものになる。

リリックは精霊は見えるのだが、計算ができなかっただけだから、これさえ使えばだれでも魔法使いになれるのだ。


そしてその魔法が、製造工程を格段に楽にさせている。

材料の金属さえあれば、土魔法で好きな形に成形できる。

だから設計図作り、それを元に魔法で細かい部品を作り、それを組み立てれば機械が作れる。

地球前世の3Dプリンターなんか目じゃない位に、簡単に思い通りの物が作れるわけだ。




「これか!」


蒸気機関車というよりも車に近かった。

魔法があるので、精霊を呼び出すために必要なだけの水と、火のついた木炭さえあれば蒸気機関を動かせれる。


だからSLみたいなでっかい水のタンクや、石炭を焚く必要ない。


そして後輪の近くに蒸気機関エンジンを積んでいて、その上運転席が一番前にあるから、どちらかというとトラックみたいな作りになっていた。



「これから試運転だ!ラーク乗ってくれ!調子をみて呪紋の調整もして欲しい」


「もちろん、いいよ」


俺が運転席に座り、リリックが隣に座る。


リリックに注文した通りにアクセルとブレーキがついていて、クラッチもついている。


ギヤチェンジもできるから、速度も出せるだろう。


さすがにオートマを再現するのはまだ難しかったみたいだが、俺が記憶していた簡単な作りと理論を言うと、リリックが納得していたからそのうち作るに違いない。




ラーク、俺を忘れているぞ」


車を走らせようとすると、可愛い女の子がやってきた。


それは女の子の姿をしたルゴゴルドだ。




「おっそうだな、よくわかったな!」


ルゴゴルドが運転席乗り込む。この車は蒸気機関車前に3人は乗れる作りになっているのだが、なぜかリリックをどかしてその座っていた席に俺の隣に座ってくる。


まあいいけど?




「リリックにここに呼ばれていたからな、発明品の説明を受けていたら、こいつらと同じく徹夜をしてしまった」


隣で目を眠たそうにこすりながら、大あくびする。


リリックはルゴの正体がゴルドだと知っている。だからリリックが新しい物を作るたびに、ルゴゴルドが作ったこと開発したことにして発表している。


俺が狙われるのを防ぐためだ。


ルゴゴルドならなかなか死なないし、転移魔法があるし、いざとなったら変身でごまかせれる。


何か問題が面倒なことがあった時には対処してくれるからだ。






「おー!なかなか速度出るぞ!」


50キロぐらいの速度がでている。

アスファルトで舗装していない道荒れ地で、これだけ安定して速度が出せているのはタイヤとサスペンションのおかげだろう。



実はタイヤやサスとかが大変だった。


ゴム類はポポの能力でゴムの木を見つけて、いろいろと作ったが、この車にはいまいちだったらしかった。

試行錯誤の結果、なんと魔物の皮や骨で代用品している。

タイヤはオーガの皮を使い、後輪は骨を利用して板バネを使ったのだ。


前輪は俺のこだわりで、前輪はダンパーとスプリングを一体としたダブルウイッシュボーン式を採用した。それはゴムとかの油圧が必要な部分はスライムを加工することでダンパーを作れた。


それがなかなかと良い感じだ。


これが量産することになると、冒険者たちには魔物を、大量に狩ってきてもらわないといけないかもな。




「……すげ……グスッ……車だ……」


鼻をすする音が聞こえる。




「ゴルド?泣いてる?」


ルゴゴルド見ると泣いている。




「違うわ!目にゴミが入っただけだ!ラークは前見て運転していろ!」


目をゴシゴシしながら、俺を殴ってきた。



「へいへい」


ルゴゴルドには奴隷の腕輪が、効いて無い気がする。

……それとどうもこいつは、俺を舐めている気がする。

まあ今のところ裏切ることが無いからいいが……。








俺はエンジン部分動力呪紋の調整計算をしていたら昼になっていた。


「ラーク、完成祝いだ!昼飯を食べに行こう」


リリックはこの町ではトップクラスの金持ちだ。遠慮なくおごってもらおう。




このマルトはグレール王都では食の都と噂されるぐらいに、外食産業が発達していた。


このマルトでは俺の前世の食事記憶を使い、再現できるものはほとんど作っている。

ポポの能力の一つの検索能力のおかげで、必要な食材が手に入る。それはどこどこに欲しい物が存在していて、どんな姿形をしているとかがピンポイントでわかるのだ。

ポポはそのある場所地図にし、その姿を写真のように書き写すことも出来る。

だからそれを冒険者に見せて集めてもらう。

今では大量のスパイスが必要なカレーや、カカオに似た木を見つけてチョコレートさえも再現をしていた。



勿論、それは食事も全てルゴゴルドが発明したことにしていた。そのせいか最近では街の者から、神童とは言われなくなってきている。

まあ目立たなくていいけどね。


前世の食事だけではなく、この世界に合わせた食事も開発していた。

ボルシチなんかは、オークの肉とマルゴリアと言われるこの世界独特のカブビートで作る。

味はボルシチ以上に旨味があり栄養があってかなり美味しいのだが、色が赤色ではなくて真っ黒なので、まるでイカ墨スープを食べているかのような気分になる。

その上食べたらしばらくは歯が真っ黒になるから、食べたことが人にばれる。


後、バクテーという料理はオークの肉をいろいろなハーブとかスパイスを入れ、ニガルとマコイいう冒険者が薬草として体力回復と傷薬食べている、精力がかなりつくスタミナ回復野菜を入れて煮込む料理だ。

これを子供が食べると鼻血を出し、大人が食べるとあそこが1日中元気になってしまうぐらい強烈だ。


ちなみにうちの両親クラークとシールには食べることを禁止させている。






「うん満腹!」


焼肉を腹いっぱい食べさせてもらった。

やっぱり味噌と醤油を使った焼肉のタレは美味しい。

元々この世界では肉を食べる時は塩味のみとか、下手すると味付け無しとかだったのがほとんどだった。

それがこのマルトでは、塩や醤油や味噌、味醂に酢に砂糖、そしてハーブやスパイスなどのいろいろな味付けで食すようになっている。

この町の料理人達が、俺のレシピを元に新しい料理を開発して、食事の方も独自に発達していて、この町の新たな名物を日々増やしていっている。



ぶっちゃけ、この町に旅行に来た人は、かなり太って都に帰る人が続出しているらしい。

それは料理が美味すぎるから、食べ過ぎてしまうからだ。

ひどい人はまるで別人のように太ってしまい、都に戻った時に周りの人が本人だとなかなか信じてもらえなかったとかも聞いたりする。

ただ、この世界で太っていることは裕福の象徴だから、日本とは違い喜んでいる人が多い。




「ラーク?」


「あっリリス」


リリスにばったりと会ってしまった。


「あっじゃないわよ、なにしてんの?そう言えば、いつになったら私に魔導書くれるの?!」


リリックに作ってやった魔導書を、リリスは欲しがっている。

でもそう簡単にあげられない。

下手するとあれはとんでもない兵器になり得るからだ。


もちろんリリックの魔導書にはリリック以外は見られないように呪紋による魔法ロックかけてあるので細工している大丈夫だ。



「小娘のお前にはまだ早い」


ルゴゴルドが止めに入る。


「誰が小娘よ!私はリリスって名前って言っているでしょ!ラークどういうこと!!あなたの奴隷でしょこのルゴは!」


「どうって言われてもルゴは俺の奴隷ではなくなって、魔導書はルゴが書いているから俺からはなんとも」


本当は俺が書いているが、魔導書もルゴ書いたことにしている。

そしてルゴは奴隷を解放したと言っている。


「もうっ元主人だったら、ちょっとはいう事を聞かせなさいよ!」


「いやあ、もう俺の言うことを全然聞かなくて困っているんだよ」


困ったことに、本当に聞いてくれない。

普段の仕事とか必要な頼み事は、ちゃんと聞いてくれる。


だが、ちょっとした事は無理だ。例えばキッチンからジュース取ってきてとか言う頼み事などは、『甘えるなオッサン!そのくらい自分でしろ!奴隷をなめるな』と日本語で言ってきて聞いてくれない。


奴隷って普通はそのくらいはしてくれるよね?



「レベルの低いお前ごときが図々しい。もう少しレベルを上げてからこい!それが嫌なら店で金出して呪符おふだを購入しろ」


ルゴはフンと鼻で笑うように言った。てかレベルってリリスはわからないだろう……。


「なにレベルって!わけのわかんない事言わないで!大体店に売っている呪符は、水の魔法しかないじゃない!私は攻撃力のある火の魔法が欲しいの!」


呪符おふだは一般にも販売しているが、さすがに火の魔法の呪符などは、安全のために売っていない。

使い方を誤ると、死人がでるぐらいの殺傷能力がある。

だから水の魔法の治療や飲み水用とか、濡れた身体を乾かす風魔法の呪符ぐらいしか一般で販売していない。冒険者としては治療と飲み水確保ぐらいを出来たら十分だろう。


もちろん、水の魔法でも攻撃ができるような呪符は売っていない。




「だったら、諦めろ!弱いお前では分不相応だ!魔法なら計算を自分で覚えろ」


ぬぐぐっと悔しそうな顔をして、ルゴを睨みつける。でもルゴは冷めた目てリリスを見つめる。


「だったら……。そうだ!ラークはこれから剣の稽古付き合いなさいよ!どうせ暇でしょ!」


今度は俺を見てリリスが俺の手を引っ張り、どこかに連れて行こうとする。


「えっちょっと」


えっ?いきなり困る、でも逆らうと怖い。


「コラ、リリス!ラークが困っているだろう、それとラークは今は俺に付き合ってもらっている。勝手なことするな!」


「兄貴まで……。ひどいラークと兄貴はルゴの味方なんだ!」


「いや、ルゴは関係な……」


「ラークのバカー!」



バシッ


なぜ?俺が殴られる?

リリスは泣きながら去って行った。


「やれやれだぜ!主も罪作りな奴だな」


ルゴは手の平を上げて、まるでアメリカ人がするようなリアクションをする。


「はあ!?俺はなんもしていないぞ!ただ殴られただけだぞ!」


「主は気づいていない?……ぷっ!こりゃいい!」


ニヤニヤしながら俺の頭をガシガシと撫でる。


「なんだよ、何のことだよ!」


俺が突っかかると、少し考えたような顔をして。


「……面白いから教えない」


ニヤニヤしているだけで教えてくれない。


リリックの方を見ても、わかっていないみたいで首を振る。


すごく気になる。


ルゴに何度聞いても教えてくれなかった。







「ほら、トトッと歩け」


「くそっ」


クラーク達が4.5人の男たちに俺の開発した手錠をつけて、それに縄を繋げて連れて歩いている。


「父さん!」


「おおっラークとルゴか!こいつらが強盗してやがってよっ今捕まえたところだ!ちょうどいい!ルゴちょっと奴隷の首輪が足りん、出してくれ!」


クラークは街の治安を守るために、こうして悪人を捕まえてくれている。

盗みをしたら罪だし、それが単純に未遂でもその盗んだ物の3倍の金を払うか、その金額を稼ぐまで奴隷生活をしなくてはいけない。

この町では単純にキツイだけの、肉体労働が腐るほどある。

それをしてもらい、死なない程度にこき使う。


ちなみに殺人をした場合は、基本的に死刑になっている。



「あん、めんどくせーな……ちっ切れているな、作らないと無理だな。仕方ない新たに作るか!主また後でな」


ルゴはクラークたちと一緒に、治安維持隊本部に着いていった。


奴隷の首輪はルゴが作れる。


もちろん俺も呪紋と土魔法が使えるから作れるが、基本はルゴが作ることにしている。

奴には【錬金術】と言う能力もあって、一度覚えた物はいくらでも作れる。

材料とかは必要なのだが、簡単に言えば土魔法のコピー能力版と言ったところだ。



ルゴにはいろいろとチート能力があってうらやましい。

俺は魔法も独学で覚えたし、その上女の子には全然モテない・・・・・・

モテても野郎ばかりにモテる。

本当に俺にはモテる能力チート能力あるのだろうか?


やっぱり俺が元々不細工なオッサンだったから、元が可愛い子供とは差別されているのだうか……。





「あらラークじゃない?」


マリアンが若い男を隣に連れて歩いていた。


「あっどうもマリアンさん、今日は冒険に出てないのですか?」


鷹の翼は活動の本拠地を、グレールからこのマルトに変えていた。




「昨日は結構な量の魔物を狩ったからね、今日は休みで楽しんでいるのよ。今は食事をしてからもう一戦するところ!」


マリアンは隣にいる男に抱きつきキスをする。

この男はきっと売春宿の男娼だろう。実はこの街にも売春宿はある。



この町マルトでは奴隷は個人で持てない。そして全ての奴隷は街の所属の奴隷になっているので、奴隷所持の権利はペペにしかない。

だから買ってきた奴隷が性奴隷となって、売春宿で無給で働くことは禁止になっていた。


ちなみに奴隷を連れてこの町には入れない。

その上奴隷は街の外で待たすことも禁止している。わかり次第保護という名目でマルトで没収する。


だからマルトに入るためには、連れてきた奴隷を町に売るしかなくなっている。

勿論、都で買った値段よりも高値では買い取ってはいる。ただ貴族とかは奴隷を取られるのをすごく嫌がるが、それをしないと街の中には入れないから渋々奴隷を売ってくれる。


でもほとんどの人は都より高く売れるので喜んで売ってくれるし、奴隷をグレール買ってあえてマルトに持ち込んで、ここで売ることにより多くのお金を稼ぐ人もいるそうだ。こちらとしたらありがたいことだ。


……というわけで奴隷が使えないので、売春宿には働きたい人が働いている。

ちなみにこの世界は性病というものが無い。そのせいかみんな性に対して淫乱……もとい寛容なので、不特定多数のセックスや売春とかに汚いというイメージがない。

気持ち良くて儲かるので結構人気の商売だ。

犯罪で奴隷になった奴が働きたがるのもこの商売だ。

その上ゴムの木からコンドームを作っているから妊娠の心配もない。


ん?……でも相手の男性がすごく嫌がっている感じがする?

そう言えばマッシュから聞いた事がある、マリアンは底なし沼の性欲らしく、一度や二度では解放してくれないとか?

その上この男性は奴隷の首輪盗みでの罰が付いているから、どんなに疲れて嫌になってもギブアップ辞められないはできない。


……ご愁傷様です。



「そうですか……まあほどほどに」


俺がそう言うと。


「ラークもどう?」


「いえ、丁重にお断りします」


「いつでも相手するわよ、よかったらラークの友達も……」


マリアンが最後まで言う前に、リリックが俺の手を掴んで逃げだしていた。




リリックは女性が苦手だ。特に年上の女性が怖いそうだ。

実は昔、女性に襲われてから強姦されて苦手になったそうだ。

だからリリックの工房には男性しか働いていない。


「ラーク……俺は苦手だあの人」


「得意な人が少ないかも」


歳の割には若く見え、美人でスタイルは良いんだけどな、なにせ性格に難がある。




「「「ラークくん」」」


げっ

今度はセララとマリとサリアだ!


「ラーク……俺、蒸気機関車の調整があるから、後はすまん」


リリックが俺を置いて逃げる!ひどい。



「ラークもう成人だよね!私たち一緒に冒険しよ」

「ラーク君一緒に行こう」

天才くんラークは絶対にくるよね」


みんなに囲まれて一斉に言われるから困る。


俺が成人したら冒険に一緒に行こうとか言っているが、絶対にこき使われそうなので是非とも遠慮したい。


「まだ考えてないから……」


「まだっていつまで!成人迎えるまでに決めてくれるよね」

「あのルゴって子は結局何者なの?もしかして一緒にくるの!」

「わたしたちが一番大事よね」


答えられないぐらい一斉に言われる。


「ごめん」


身体強化の魔法を発動させてこの場を逃げた。


「「「あっ」」」


あんなのにまともに付き合っていたらとんでもないことになる。








リリックのところにまで追いかけて来られても困るから、とりあえず俺は町長ぺぺの家に行く。ここなら気軽に来ないはずだ。

小高い丘の上に城がある。


まあこの町で一番偉い身分だから、街が大きくするついでに、新たに俺が土魔法で建てていた。

もちろん俺の趣味バリバリのノイシュヴァンシュタイン城によく似た作りにしてる。

ペペは大喜びしていたが、執事達は『これをこれから掃除するの俺たち?』と死んだ顔になっていた。



「やあラーク」


中に入ると、ちょうどポポに出会った。

城になって部屋数が増えたから。ポポはここで一緒に暮らしている。


「ポポ……なんかやつれているね」


リリックと同じように目の下に隈を作っている。


ポポは鑑定持ちなので、食材集めや人材の選定などといろいろして、ペペ町長の仕事の手伝いとかをしてもらっている。

どちらかと言えば一緒に暮らしだしたのは、仕事が増えて家に帰れなくなったのが、正解かもしれない。


「かなり忙しくてね……父上なら執務室にいるよ、ごめんちょっとだけ寝るから……」


フラフラとしながら部屋に入っていった。

大丈夫かな?





「ラークか」


執事に案内されて執務室に入ると、大量の書類に囲まれているペペがいた。


「ついに蒸気機関車が完成しましたよ」


「前にラークが言っていた、馬のいらない馬車という奴か?」


ペペ町長は俺を見つめる。

ただ目に力がない。


「もう走行実験も終わったから、後は量産化と蒸気機関車の列車を作り、街中に走らせることかな?まあこれで街の移動が楽になりますよ」


「おおっすごいな……ついでにこの書類を綺麗に消し去る発明か魔法はないのか?」


ぺぺは死んだ目で俺を見つめながら、ペンで書類を指す。


「そりゃダメでしょう、頑張ってください」


それは町長のペペの仕事だ。


「はあ……やっぱり駄目だよな」


この町は紙が大量作れる分、街の中で起こった出来事や報告等々を紙に書いてもらっている。


元々この町に住んでいる者は、スサイド王子についてきた従者の子供たちだ。

つまりは高等な教育を受けていた元貴族の子供たちだ、だから識字率はいいので、売り上げや金の流れや報告を紙に書いてもらっていた。


その上俺は、書類が書きやすいように、ペンと鉛筆も作っていた。

よく漫画であるような羽を加工したインクを付けて書くペンでは、使い勝手が悪いからだ。


鉛筆は黒鉛を粉にして、粘土とよく混ぜて焼き固めた芯を、木の作った鉛筆の型に入れて接着剤樹脂でくっつけるとできる。

マジックペンは魔物の毛を詰めて固めた物に、揮発性の高い油に混ぜたインクをしみこませてペンの中に入れる。細くしている先でそこから書く。

ボールペンは細い金属の筒にボールを入れて取れないように加工して、樹液で粘度を高めたインクを入れるとできる。

それらは土魔法で加工するから意外と簡単にできる。


そして紙と一緒にペンも販売している。かなり儲かるとペペが言っていたな。




「まあ蒸気機関車の詳しい報告は、リリックかルゴがすると思いますよ、後は走るための道の整備や、蒸気機関車の列車が走るための専用の道線路の設置の件はお任せしますよ」


「あーもう仕事増やすなよ!ラークは神ではなく、魔物に見えてきた、怖い」


ペペ町長が頭を抱える。


「まあ町長!頑張ってください」


知らん、町長なら頑張れ!その分儲かっているし街が大きくなっているだろう!


「失礼します」


執事キノスが新たに大量の書類の束を持ってきて、ペペ町長の机に置く。


「ぺぺ様、このペースだと今日も終わりませんぞ」


「うわーん!もう町を広げなくていいよーのんびりしたいよーお金なんかもういらないからー」




俺は泣き出したペペ町長を無視して、そっと執務室を後にした。

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