第38話 前言撤回

「ふー……やっとついた」


マリアンが少し疲れた顔をして言った。

奴隷たちの護衛を鷹の翼に頼んでいたのだが、やっとマルトに着いたのだ。


「お疲れ様」


俺たちは部隊の早馬が先に着て連絡を受けていたので、マルトの入り口でみんなを出迎えていた。


「幼い子供たちが沢山いたからね、なかなか進まなかったわ」


グレールからマルトまでの長旅に備えて馬車を5台も購入したが、人数が多すぎて人が乗れる状態では無く徒歩による移動になってしまった。

なにせ鷹の翼を含めると、総数が500人を超えた大群になった上、奴隷には俺よりも年下の子供が沢山いたし、徒歩でこっちに向かったので、移動するのに20日近くかかってしまったそうだ。

マッシュとクラークと俺は、ゴルドの転移魔法で先にマルトに帰っていた。


「マリアン、奴隷たちに手を出していないだろうな」


マッシュがマリアンをジト目で見ながらそう言った。


「バカ、依頼者の商品に手を出すほど落ちぶれていないよ」


「うっ」


マリアンの鋭いパンチが、マッシュの腹に入っていた。



「また町が大きくなっているわね」


そりゃそうだ、前に『鷹の翼』がいた時よりも人口が、20倍以上にはなっているはずだ。


「まだまだこれからも大きくなるよ」


これからもっと、大きくするつもりだ。


「料理も前より増えた?」


マリアンが、よだれをたらしながら俺に聞いてきた。


「まあね」


あれから醤油と味噌を使った料理を、かなり広めたから街中から醤油の香りが立ち込めている。


「たのしみー私も引退してこの村に住んじゃおうかな?」


「「「よかったーどうぞどうぞ」」」


なぜか周りの鷹の翼のみんなが喜んでいる。

どれだけ人気が無いの嫌われている?マリアンは……。






親分おやびん、仲間をーつれてーきたよー」


アーロンがまのぬけた声を上げて手を振ってきた。


「もう、おやびんはやめてよ」


アーロンは何度言っても、俺を親分呼びすることを辞めようとしない。




「君がアーロンが言っていたラーク?よろしくね、私はノーマというわ」


「ラークです。よろしくお願いします」


俺の目の前にはエルフの女の子がいた。そうグレールに住んでいるエルフたちをマルトに呼び寄せた。

人間の年の頃なら15歳ぐらいだろうか?金髪に尖った耳とそして……。


「君しっかりしているね、私より年上でしょー」


やっぱりアーロンと同じ感じだ。

エルフはなんかふざけている、そしてエルフ独特の宇宙人グレイ顔……。

女の子ぐらいは人間似の美少女だろうと思っていたけど、これで俺の淡い夢は完全に消えていった。


「ノーマさんも100歳は超えていますよね、俺はまだ成人前ですよ」


すると大げさに驚いたふりをして。


「こりゃ成人前すみません


そう言って変な顔をして、親父ギャグをぶち込んでくる。

こっちの世界の言語は『成人前』と『すみません』の言語がよく似ている。


「はははは……」


俺は乾いた笑いをすると、ノーマの後ろからこんな声が……。


「やっとエルフ達と別れられたわ」

「この20日間辛かったよ」

「もうこれで愛想笑いをしなくてもいいんだ」


そう周りの鷹の翼の連中が、口々に言っている。

なんとなくエルフが迫害をされている理由が、わかったような気がした。






バシッ


「ラーク!なんで自分だけ先に帰っちゃうの!」


リリスに平手打ちを食らう。なんで俺はぶたれるの?

助けを求めて周りを見ると……。


「私たちを見捨てていくから当然です。」

「一緒に冒険しようと言ったのになんでラークだけ早馬で帰るかな?」

「さいてー鬼畜くんラークは性奴隷と、エッチなことするために早く帰ったんだ」


セララとマリとサリアからは、ひどい言われようだ。


「そうなの!あの可愛い奴隷とエッチをするために、早く自分たちだけ先に帰ったの!」


パシッ


だからなんで俺はぶたれるの?俺は悪いことしてないよ。

俺が理不尽な痛みに耐えていると……。


「姉ちゃん!」


クールが駆け寄ってセララに近寄る。


「クール!」


セララとクールが泣きながら抱き合っていた。



「ラーク改めて礼をいうぜ!姉ちゃんを助けてくれてあれがとう」


「いいよ、大したことはしてない」


そう言われると照れるやん。こう素直だとクールも、姉想いのいい奴だな!


「ねえ、クール……ラーク君は早く帰って奴隷と何していた?」


「えっ?………たしか二人っきり・・・・・で、誰もいない村外れ行ったりしていたなあ、いつも二人っきり・・・・・で行動して誰もいない場所を探していたな」


なんで二人っきりでを強調する!そんなには二人っきりではなかったし、ポポもいたぞ!それと誰もいない場所は探してないわ!新しく施設を作るために、建てる場所を探していただけだ!


するとクールが俺の方を見て、ニヤニヤしていた。あーこいつ!俺を陥れようとしているだろう!


「「「「ラーク!」」」」


俺は女の子たちに囲まれる!

前言撤回!やっぱりクールは嫌な奴だ!







「ここがみんなが新しく住むところだから」


ポポが奴隷たちに、奴隷が住む所を案内をしている。


「「「「「すごい」」」」」


奴隷たちは歓喜の声を上げていた。

それは俺が土魔法で、奴隷たちの家を建てていたからだ。グレールの街の作りを見て、土魔法で簡単に家が作れると思って、試しに作ってみた。


イメージとしたら3階建ての団地と思ってくれていい。壁には上水道を通しているから、蛇口をひねると屋上にある貯水槽から水が降りてきて、どの部屋でも使えるようになっている。勿論トイレなどの下水道も作っている。

さすがに人数が人数なので、奴隷全員に一人一部屋は無理だから、何人かで一部屋を使って暮らしては貰うようになるが、今までの暮らしよりは格段に暮らしやすくなるだろう。


そしてエルフたちにも同じような団地を見せたら、水道とかを見てかなり喜んでいたくせに……。


「もっと広い家がいい!」

「庭が欲しい」

「いい景色のところがいい」


とかもいろいろと言ってきた。


「それなら自分たちで作れよ!」


俺は怒って、そう言ってしまった。         


「「「それはめんどくさいからこれでいいや」」」


と言われた。


「エルフの奴らは、基本ノリで言っているだけだから、まともに聞くとバカを見るぞ」


俺が怒っていると、クラークがそう教えてくれた。

うーんエルフって、かなりめんどくさい。








「ではアーロンさん頼みます!」


俺は街外れの空き地に、土魔法で作って地面に呪紋を刻んだ。


「わかったよ!親分おやびん!………生命の精霊よ、この地にいる我を害するものたちの精神を狂わせて、この地から離れさせろ」


アーロンが描いた呪紋魔方陣が光り輝くと、マルトの町全体の空気が震え、何かのものすごい力が駆け抜けていった。




ギァーー……グエェーーー……ウォォオン

グワーッ……ギェーーギェーー

ワワンオン……ウォォォォォ


すると周り中から、魔物の鳴き声や遠吠えが聞こえてきだした。


「ふぅー成功したよーこれでここから18マルイ約6キロは魔物はー寄ってこないよー」


「うっし」


俺はガッツポーズする。これが俺の計画だ。


この呪紋によって魔物を町から退けることができる。これを町のあちこちに設置することで、町は全ての魔物からの脅威がなくなるはずだ。


「ただしー3日に一度はー魔法をかけ直さないとーいけないけーどねー」


これは術者の莫大な魔力を消費して、発動させる呪紋だ。


「エルフの人たちの説得は、お願いしますよ」


「もちろん了承はもらっているよー魔法を使うだけでー安全なー住いとー食べ物がー用意されるーのならーエルフにとってもーいいー話だからねー」


俺がわざわざグレールから、マルトにエルフ達を呼んだのはこのためだ。

広範囲になる呪紋の魔法は、莫大な魔力を持つエルフにしてもらわないと、維持が難しい。

俺ならなんとか発動はできるだろうが、何個もはさすがに無理になる。


アーロンによるとエルフは基本はぐうたらと言う事。その上、物欲もさほどないから率先して働くのが嫌いという。

知識と能力はあるのに働かないとか、本当にどっか世界前世のニートに似ている。

まだアーロンは働くから、エルフの中でもまともな部類とクラークが言っていた。










「リリックできた?」


「ラークの言った通りにしたけどこれでいい?」


「おー完璧!なら乾かすね」


俺は風魔法で乾燥させる。


「できたぞ!これが紙だ」


そう、俺はまだこの世界には存在してない和紙を作っていた。

この世界では木を使った紙は無く、羊皮紙魔物の革で作る紙とか木の大きい葉っぱとかが、紙の代わりをしていた。


ポポの鑑定能力には探索能力もあって、欲しいもの場所がすぐにわかる。

そして俺は和紙に必要な、こうぞ三つ又みつまた雁皮がんぴに似た植物を見つけてた。

見つけた材料の皮を剥ぎ、乾燥させ洗い、煮て叩いてほぐして、水に入れすきさせてできる。

かなりめんどくさいけど、リリックが見事にやってくれた。


「できた!これでいけるぞ」


俺は風魔法で乾燥させた和紙を持って、にんまりとする。


「よくラークはこんなことを思いつくね」


「実現できるのはリリックの技術があってこそ、悪いけどこれから部下奴隷を沢山つけるさせるから、この技術を教えてやってくれる?」


リリックは俺以外の人と喋るのが苦手だ。でもいくらリリックでも一人だけでの製造では、俺の目標とする数を、到底作りきることは出来ない。


「仕方ない、頑張ってみるよ!いつまでもラークにだけ頼ってはいけないからね」


「ありがとう!これでつぎの段階にはいるよ」


次の段階……印刷だ。

色の付いた鉱石を土魔法で集める。それらを砕き、草木の汁とすす魔物の脂ニカワと混ぜてインクを作って、土魔法で金属の型を作り、それで印刷をする。


俺はリリックに作ってもらっていた試作品をペペに見せていた。


「これがギルお金の代わりするのか?神童ラークの考えることはすごいな」


和紙と印刷でわかるだろう。これで俺は紙幣をつくろうとしている。


この世界では冒険者は常に全財産を持ち歩いている。

しかしこの世界では、金貨や銀貨などの硬貨しか流通していない。だから長旅をしたり、冒険者の仕事をしていると硬貨は重さもあり不便すぎる。


シールがおとぎ話昔話として、話してくれたことがある。金持ちの冒険者が魔物にを狩りに行った時に、ギルの重みで身動き取れなくて死んだという話があって、このことは冒険者のたちのなかでは、かなり有名な話らしい。


そうかといっても、この世界には銀行とかもなく、人に金を預けることもできない。家を持っていて住んでいる人は良いが、宿暮らしがほとんどで、住む家をほとんど持たない冒険者たちとっては大問題だ。だからいつも最低限の金を持ち、魔物を狩って儲けたほとんどの金を、街の中で使うと言うのが常だ。


だからそれを解決するために、俺は紙幣を作ろうとしている。紙幣なら軽くて扱いやすい。そして安全に旅にもいけるし狩りもできる。


ただしこれはここで作ったものだから、このマルトだけで使える独自の紙幣通貨だ。

勿論、紙幣から普通のお金ギルに換金するつもりはあるし、その逆もするつもりだ。


普通の金や銀で出来た硬貨は、王都グレールにいる専属の魔法使いが土魔法で作っているのだが、土魔法は魔力と計算能力にもよるが、近くに金や銀などのが存在しないと作れない。だから鉱山で採掘をしてから、土魔法で加工をしてできるだけ複製を出来ないように魔法で構造を弄る計算式で変える

だからお金金や銀有限レアメタルで誰もが作れない……いやお金を大量生産する事が出来ないと言っていい。


だがしかし、俺の作る紙幣は硬貨ギルと違って、大量に量産が可能だ。

つまりは財政的に無限に増えると言うことだ……勿論インフレを起こすほど刷るつもりはないが、これでどんどん街を大きくしても、資金が足りないと言う事にはならない。

そしてそれによって大量のお金ギルを集められることができるはずだ。

つまりはそれで奴隷を買い集める。そうこれが俺の計画だ。

簡単には上手くいかないと思うが、資金集めとしたらなかなかいい計画だと思う。


「すごいでしょう、ただしこの計画はすべてこいつ……ルゴが考えたことにしてください。俺が表立って考えてないことにしてください」


「よろしく」


俺の隣にいた、可愛い顔をした淡い赤髪の女の子が、ペペに軽く会釈をする。胸はGカップぐらいあり白い透き通るような肌をしていた。

そう、このルゴはゴルドが化けた姿だ。


「わかった、ここまで派手にすると、今までみたいにラークがしたことを隠し切れないと思っていたからな、助かる」


俺が狙われるのは困るが、ゴルドならどんな状況でも転移の魔法で逃げれるし、死なない。その上いろいろな姿に化けるから、俺の代わりに表舞台に立ってくれたら助かる。


そしてこの計画にはもう一つ目的がある。

紙幣を流通させると冒険者たちは、段々と王都グレールよりも、紙幣が使いやすく便利な、このマルト中心での生活をしていくようなるはずだ。

そうすると人口が増えて、どんどん町が大きくなっていくだろう。

するとそれによって街の経済が回っていく。目標としてマルトをグレール並みの都市にしたい。


「本当にお前は神童と言うよりも、死んだ親父が送ってくれた神様かも」


ペペが俺に祈りだした。


「やめてください」


俺はなんか恥ずかしくなる。


「その上、うちのポポと結婚してくれるそうでありがたい」


うんうんとうなずくペペとポポ。


「なに?それ!だれがそんなこと言った!」


おい誰が決めたそんなこと!


「ラークよろしく!」


近くにいたポポが抱きついてきた。


「まてポポ!誰が結婚すると言った!」


「結婚を決めてくれてあれがとう!幸せな家庭を作ろうね!」


ゴルドがこっそりと部屋から出て行こうとする!


「ルゴ!やっぱりてめーか!」


あの時ラドゥン王の元で言ったことが結婚のことを知っているのは、ゴルドとクラークしか知らない。とぼけているがどう考えてみても、ゴルドがポポに話をして、裏で手を組んで企んでいたに違いない。


「えー何のこと?」


手を上げてまるでアメリカ人がとぼける仕草をしやがった。

これで納得できた。


「痛い」


ポポを蹴り飛ばし、ルゴにも蹴りを食わせようと飛びかかる!


するとゴルドは、笑いながら部屋から逃げだした!


「いいか!俺は結婚なんかしないからな!」


俺はぺぺたちにそう言い残すと、ゴルドを追いかける!

追いかけて部屋の外に出ると、キノス執事とばったりと会うと。


「ラーク様、ポポ様坊ちゃんと結婚してくれるそうで……」


そう言われる。


「だから結婚はしないから!」


あいつゴルドは絶対に許さん!俺をバカにしやがって!








なんとか村のはずれぐらいで追いついて、思いっきり頭を殴ってやった。


「ご主人様、痛い!奴隷虐待だ!約束が違う」


胸のでかい美少女が頭をさすりつつ、上目づかいで俺を見てくる。ちょっとドギドキするけど……許さないぞ。


「当然だ!俺を陥れやがって!奴隷の腕輪をつけているのに、お前は俺をご主人として慕ってないだろ!」


俺が怒る。

全然こいつの奴隷の腕輪は機能をしていないぞ!


「いやいやこれはご主人様を守るためにしたことですから」


ドヤ顔で言ってくるゴルド。


「俺を守る?」


俺が怪訝そうな顔で聞く。


「俺の機転が無かったら、ご主人様はあのままラドゥン王に狙われていたぞ!そして計画を立てたのは、ご主人様だとなんとなく見抜いていたみたいだし、あの男は孫と結婚させることで、ご主人様を自分の妾代わりにするつもりだったはずだ」


「えっ?妾?俺は男だよ?」


うわーなんか嫌な予感。


「ラドゥン王は男女共に好きだからな、特に少女や少年と言った若い子が好きで有名だ」


「マジ?」


嘘だろ……。


「大マジ、さすがに自分の娘や息子には近親相姦手を出さないが、子供の嫁とか婿に手を出すとかは聞いたことある。だから孫と言っても、ほとんどが自分の子供と言う噂だよ。これは王家の勤めていた女から仕入れた確かな情報だから間違いない。それでポポ他国の王子と結婚すると言うことにしたら、手を出さないと思ってさ!形だけでもポポと婚姻をしとかないと、また狙われても困るしな、ポポやぺぺにこのことを話したのは、結婚は危険回避のための形式的なものだ、安心しろ」


こえーー、俺はラドゥン王に身体を狙われていたのか!


「そうなんだ。ゴルドを疑ってごめんな」


ルゴは俺を守ってくれていたんだ。

この奴隷の腕輪だけにある、特殊な機能がある。


奴隷は主人に危害を加えてはならないのだが、危険を看過すると主人の命令を無視してでも、主人に危害を及ぼさないようにするとの事だ。


そっか主人を守るためなら、奴隷の腕輪の力絶対服従が発動しないよな。

ありがとうゴルド、俺が浅はかな考えをしていたよ。まさか俺の事を思っていたとは考えてなかったよ。








「まあ、ご主人様の焦った顔を見るのが結構楽しかったのもあるけどな」


ルゴはニッと口角を吊り上げて、意地悪そうに笑う。

前言撤回、やっぱりこいつゴルドは俺を舐めていやがる!

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