第34話 呪紋と計画

「よーうラーク君……どうーしたのー?」


「何でもないです」


男の子の事情ってあります。ちょっと真っ直ぐな姿勢が無理なだけです。

だってしょうがないじゃないですか!あんなの見たら!



まあそれは置いといて、俺は洞窟で呪紋のことを解析していたアーロンの元に来ていた。

呪紋じゅもんと言うのは簡単に言えば魔方陣に当たる。

そこに書いているのは、文字と数式を組み込んだ図柄の組み合わせにより、術者がこの呪紋に魔力込めることによって魔法を発動させる。

これによって術者が離れていても、魔法を発動し続けることが出来る、しかも大掛かりな魔法なら、この呪紋に長い計算の式の一部を書きこむことによってようやく発動させることができるものもある。


あとクラークみたいに魔力のコントロールは出来て、身体強化の魔法ができる者なら、戦闘中に常に魔力のコントロールをするよりも、呪紋を身体に刻んで入れ墨を入れるいた方が、安定して力を使えるのでする場合が多い。

勿論、それにはいろいろと制約はある。

本来ならその時に合った身体の状況に合わせた魔力を込めればいいのに、状況が分からないから最大値の魔力を込める設定にするしかない。


つまり車で例えると、ただ移動するだけのにラ〇ボルギーニリッター3.4に乗って移動するようなものだ。普通の移動ならプリ〇スの方がリッター30もっと燃費がいい。


話がそれたが、要は簡単に言うと、呪紋をあらかじめ書いておけば魔法を簡単に発動させることができる。

それはマリガ達が魔物を操るということや、魔法を遮断するといった大掛かりな魔法を、短時間呪文を唱えるだけで出来たからだ。


つまりは呪紋を使えば・・・・・・俺の考えていることが実現できる。

アーロンに頼ったのは、俺には呪紋の知識はない。魔法はシールから貰った魔術の本をベースに、ほぼ独学で覚えたから、呪紋関係は全然わからない。

だから呪紋を書いて魔法を使っていた、アーロンに助けを求めた。



「これはすごーいよ!こんな呪紋をー見たとがないよー!作った人は天才だねー!」


外にあった呪紋も、葉っぱに書き写して調べていた。

この世界では紙に書くよりも葉っぱに書く方が一般的だ。


「アーロンさんこれの規模を変えて内容を変えて再現できますか?」


「できるよー!どうー書き換えたいー?」


「これを………」


俺がアーロンに言おうとしていると、



「ラーク助けて!」


ポポが入ってきて俺に抱きつく。


「どうした?」


ポポはその大きな体を、俺の陰に隠すようにする


「いいでしょ、ちょっといいことしよ」


マリアンが入って来た。


「マリアンさん、勘弁してください。ポポが嫌がっているし、その上まだ体調が戻ってないからもう止めてください」


ガタガタと震えるポポ。


「あら?ならラークがする?」


「……いい加減しないと……怒るぞおばさん!」


「おばっ!いくらラークだって言っていいことわるいことある!」


マリアンが怒っているが、こっちもポポを襲うのは止めさせないと、これ以上はポポのトラウマになる。


「やっていいこと悪いことがある!これ以上は痛い目見るぜ!おばさん」


「また言った……痛い目ってどうする私に勝てると思う?」


「……思うよ、お父さん!助けて!」


バキッ ドゴーン


「呼んだかラーク」


俺が叫び終わると同時にクラークがマリアンを壁まで吹き飛ばす。そして壁にぶつかって気絶している。


「うん、マリアンさんが邪魔だから、ちょっと追い出してくれる?」


「ん?わかった!」


そのままマリアンを担ぎあげて部屋から出て行った。


「ありがとうラーク」


「いいよ、ちょうどポポにも用事あったし、呼ぶ手間がなくなって良かった!」


ポンポン背中を軽くたたく。



「ラークくーん!すごいねー、度胸があるーね、あのマリアンに言い返せるってすごいよー!僕は怖くて言えないよー」


「まあ父さんが近くにいましたから」


「クラークの使い方……シール並みに上手いねー」


アーロンが感心している。

だが俺はシールほどは使いこなせてない。

クラークにあんなことや、こんなことさせていたシール……俺はクラークがかわいそうぐらいだったから、あのレベルはとてもとても……。

まあ当の本人は喜んでいるみたいだったけどな。

それよりも……。


「アーロンさん語尾が伸びているのが少し気にはなるけど?」


さっきから言葉使いが変わっている。


「いーやー慣れた相手にーはこんなーしゃべりかーたにーなるんだーよ、慣れてないー人ならーすぐにー殴られたりーするしー」


あー何とか殴りたくなる気持ちもわかる。












「……………と言うことを考えているのだけど、協力してくれる?それでアーロンさんにはマルトに移り住んで欲しいけどいいですか?」


「すごい……この短時間にそこまで考えたの?」


ポポが驚く。


「全部ではないよ、実は前からちょっと考えていた。まあ実現はするのはどうかと思ったけど思い切ってね」


こうしたらいいな!とは思っていた。でも実現は難しいと思っていたけど今回はいろいろと、いい条件そろったしいけると思った。


「ラークくーんすごーいーよ、もしかしてー僕よーりも年上?」


笑いながら言う。


「いやいやそれはないです」


エルフのアーロンはやっぱり歳が100歳は超えていた。100歳を超えた辺りから歳を数えるのを止めたそうで、正式な年齢はわからないらしいけど、俺より年下なことになるわけがない。まあ冗談なのはわかるが多分これがエルフジョークなんだろう。


「ラークーくーんそれと敬語とかもうーいーいよ。こっちも言われーるのめんどくーさいしー、それにラークくんが僕たちの親分になーるのだからね親分らしーくしないとねー」


「親分って盗賊みたいだ」


親分って俺はヤクザか?


「まあー似たようなことーするからいーいんじゃなーい?」


「俺は悪いことはしないよ」


ニヤニヤと口元が上がっている。エルフの黒目だけの瞳からは表情がわかりにくいが間違いなく笑っているのはわかる。

全くもって人聞きの悪いことを、口が悪いからこそクラークと気が合っているのがよくわかる。


「でも俺が一番重要だね」


ポポがそう言う。


「たしかに一番にポポ大変だ!俺も精いっぱい手伝うから頑張ってくれる」


「うん」


この計画には、ポポの活躍次第だ。

しかしポポは怖っている

でもこのままだと不安だ。なにかいい手がないか?









「ラーク!来てくれ!」


クラークが俺を呼ぶ声が聞こえる。

なんだ!?




クラークの元に行くと、女の子がクラークによって押さえつけられていた。


「どうしたの父さん?この子は?」


15.6歳ぐらいの、可愛い顔をした淡い赤色の髪の小柄な女の子の、首と腕を掴んで地面に押さえつけていた。

真っ赤な奴隷の首輪が付いているから、きっと鷹の翼が呼んだ性奴隷かと思っていた。


「こいつはおかしい、それと中を調べていた」


「えっ?……」


俺にはわからない……だがあのクラークがこれほどまでに必死なのは、きっと俺に害するものと判断したに違いない。


「助けて、私はただ中の相手を探しに来ただけで、なにもしてないです、信じてください……」


恐怖で可愛い顔をゆがませて、涙を流している。


「しゃべるな!」


クラークがガッチリとホールドしている。あれなら大人の男でも外すことは不可能だろう。

無理矢理押し倒したのだろうか、手と足とかからは血が出ていた。

……しかし俺には判断がつかない。


クラークがこうしているのには絶対に問題があるからだろうし……。

そうだ!


「ポポお願い」


ポポはその子を見つめる。


「名前がゴルドとなっているよ」


「なに!鑑定能力持ちか」


必死に暴れる女の子だがクラークが押さえつけているから抵抗できない。


「ゴルドってあの?でも見かけが全然違う!」


「ラークどうする?今すぐ殺すか?」


「いや絶対に殺さないで!アーロンさん、さっきの魔力遮断の呪紋を狭い範囲限定で出来ますか?」


俺はアーロンに頼む。


「できるよどのくらい?」


「一人分ぐらいの範囲で」


アーロンが地面に呪紋を書き出す。女の子の姿のゴルドは狂ったように暴れるが、圧倒的に強いクラークの力で動かない。

俺は計算して土魔法を使い作りだす。


「お父さん、これを手足につけて」


「くそっ離せ!」


俺とクラークはゴルドに手錠と足枷をつける。これでどんな暴れても無理だ。

ここの場所で作れる、最高硬度の物質で作った手錠と足枷だ。硬いので土魔法でも使わないとなかなか外れないし、俺が構造をいじって形成組織を変えているいるから、そう簡単には土魔法でも外れない。



「いーよーでーきーたークラーク、この上に載せて」


アーロンの間の抜けた声が響く。エルフってなにかふざけている感じがする。


「こい」


クラークが引きずって呪紋の上に載せていく。


「やめろっ俺を離せ!」


可愛い女の子の姿で、俺って言われてもなあ……でも逃がす気はない。


「………精霊よ、この生命に流れる大いなる力を遮断して精霊との力断ち切れ」


魔方陣が光る。


「これで魔法を封じた。手足が動かせないから逃げれないと思うけど……さて、なんでここに戻ってきた?それとその姿は?」


俺は聞く。

あの時りゴルドは、特技を使う時には腕を動かしていた。きっと腕動かしていないと発動しないはずだ。そして魔法でも使わない限り逃げることは不可能だ。

しかし、なにもゴルドが戻ってくるとは思ってなかった。


「………」


「しゃべる気ないの」


「殺すぞ」


クラークがゴルドを殴る。


「………」


ゴルドはしゃべらない。

無言のゴルドを殴り続ける。手足を縛って抵抗が出来ないから、クラークが無抵抗の女の子を殴っているだけに見える。


「お父さん、絶対に殺したら駄目だ、殺すとここから逃げるだけだ」


「ならどうする?」


クラークが冷たい目でゴルド女の子を見つめている。もうクラークの中では俺を傷つけた敵と認識している。クラークが怖い、俺を傷つけた連中だから容赦がない。


「もう一度だけ聞く。しゃべる気は?」


「………」


ゴルドはしゃべらない。


「わかった、仕方ないね」


俺は奥の部屋に行く。




戻ってくるとクラークに言う


「お父さんその首についている、首輪は外せる」


「多分……外れた」


クラークが力込めるとゴルドが首につけている首輪が簡単に外れた。

こんなに簡単に取れると言うなら、きっと偽物だろう。


「偽物なんかよりこれつけようか?」


俺は後ろから本物の・・・奴隷の首輪を取り出す。


「それは!」


「仕方ないよね、しゃべらないのだから……それならね」


俺はニコっと笑う。

これはゴルドが落としていった奴隷の首輪だ。

売春宿の性奴隷が付けていた首輪よりも、綺麗で立派だ。よく見ると高度な呪紋が首輪の内側と外側に刻まれているので、つけると絶対に外れることがないタイプだろう。


「やめてくれ!俺はもう何もしない、お前に危害を加えない!お願いだやめてくれ」


ゴルドは表情を変え、必死に抵抗する。

俺は黙ってゴルドに近寄る。


「アーロンさんこれの使い方わかる?」


「わかるよー、それーを首にはめーて契約の呪文と唱えたらーいいーよ。親分に教えるーよ『この者の体を我が意思で縛り契約を結び付け魂を分けて従わせろ』だよー、念のたーめにその呪紋の中からーは出した方がいーいかもねー」


アーロンが淡々と教えてくれる。



「くそっ本当だ!もうお前と敵対行為は絶対にしない信じてくれ!それだけはやめてくれお願いだ!奴隷は絶対に嫌だ!」


ゴルドは半狂乱になって、涙を流しながら言ってくる。

可愛い女の子がそう言ってくるから、なんか本当に親分悪役になった気分だ。

でもどんなに言っても俺はやめる気はない。


「お父さん、ちょっと呪紋から出してくれる」


クラークが呪紋の中から引きずり出す。せっかく作ってもらってたけど仕方がないな、まあ呪紋が使えるのがわかった。


「やめてくれ!許して!俺は絶対にお前をもう襲わない!奴隷はやめてくれ!許して」


ゴルドの悲痛の叫びを上げるが、暴れるゴルドをクラークが押さえつけ、俺は首輪をはめる。


「俺はあんたには、まだなにもされてはいない……あの時はね、でもこのまま見逃すほど愚かでもない………この者の体を我が意思で縛り、契約を結び付け魂を分けて従わせろ」


首輪の中に施された呪紋が光り、俺の中に何かの力が入る感じがした。








「ああぁ」


するとゴルドが暴れるのを止め、力が抜けたように動かなくなった。

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