第26話 マリガの過去と真実

「父さん」


俺は叫んでいた。

魔法使いの放った炎が、クラークの全身を完全に包んでいたからだ。


魔法使いが唱えた火の魔法は、単体の敵に使う魔法しては、かなりの殺傷能力を持っていて、分かりやすく現代の兵器で言うとグレネードランチャーぐらいの破壊力がある。

人に当たれば死ぬ……死ななくてもすごいダメージがあるはずだ。


「流石に奴も死んだろ?」


そこにいた灰色の髪をした、剣士らしい男がつぶやいていた。

信じがたいことに銀級だった有能な冒険者だった賊の半数をクラーク一人によって殺さている。





「なあ……あれで終わると思う?わざわざ下手糞なお前らの誘いに乗って、魔法を使える外にでたのに、すぐに魔法なんかにやられると思う?」


つぶやいた男の真後ろに立って、そいつの肩を叩いていた。

クラークが立っていたのだ。

その姿は賊達の返り血で体を汚しているが、傷は一つもついてなかった。




「「「うわぁぁぁぁっ」」」


そこにいた者が恐怖で驚いていた。まるで幽霊を見たかのように……。

これで俺は分かった。クラークは極限にまでに高めた素早さ加速魔法で、敵を倒しているのだ。さっき炎に包まれていたのはクラークの残像だったのだろう。



「まだまだ現役でいけそうだなクラーク」


マッシュが感心したかのように言っている。

俺が産まれる前に冒険者を辞めていたとはいえ、毎日のように一人だけで村周辺の魔物を倒していたクラークだ。

今思えば、キマイラにやられたあの時も、俺が恐怖で固まっていなかったら、キマイラ相手でも簡単に倒していたのかもしれない。

あれは俺をかばうために、思うように動けず自慢の素早さを使えずやられたのだろう。



「おっ?そっちは終わったみたいだな……まあな、まだ人間相手にやられるほど落ちぶれてはないよ!ラーク、お父さんのこと心配した?やられたと思っちゃった?いやー息子の心配されるのも楽しいね!」


めちゃくちゃ余裕やん……。楽し気に笑っている。



「さてと……そろそろお開きにするか?」


「くそっ」


一人はクラークに斬りかかり、何人かが逃げだしてた。


「マッシュ、そっちに行った二人を任せた」


剣をくるっと掌の中で返したと思ったら、一瞬で襲い掛かっていた奴を倒していた。


「おう」


マッシュは二本の剣を振りかざし逃げた男たちを追って斬っていく。

クラークも逃げる者を瞬時に追って、斬って殺していた。




気づけば残っているのはマリガと2人の男たちだけになっていた。


「マリガ、引き際を誤ったな、まあ王族や貴族が嫌なのがわかるが、やり方が悪かったな……」


「本当に失敗ですよ……10年も前にあなたが引退していたからと甘く見てました」


マリガは納得したよう言った。



「クラークさん……ミリィを覚えてます?私たちはあれから結婚したのですよ。自分のランクが金級に上がって、結構幸せに暮らしていたのですよ……それなのに王家筋の貴族と言うだけで、なんでも人が言うことを聞くと思っている……拒否したら、ミリィを強姦した挙句に、腹を裂いて殺しやがった。お腹の子供を丹念刻んで殺しやがった!こんな腐った国なんかは、残らずつぶすすべきだ!」


マリガが吐き出すように言った。


「それだけならよかったのにな……なんで平和に暮らしている関係のないマルトの者にまで手を出した?やり方が失敗したな。それさえなかったら俺たちはお前らに関わらなかったのにな、手下を制御しきれなかったリーダーとしてのお前が悪いな」


クラークがつまらない話を聞くがの如く言う。

すると怒りで顔を変えていたマリガの表情が、元のすました顔に戻る。


「確かに、あなたが住んでいるマルトに手を出したのは失敗です。恥ずかしい話、しばらく他の用で出かけていて、この部隊の事を部下たちに任せっきりでした。今回のことを知ったのも今日が初めてです。事情知って驚いたところにあなた達が乗り込んできたってところです。今回の事件は謝ります」


マリガが深々と俺たちの方に向かって頭を下げた。


「で?どうする?」


「私が自分だけ見逃せと言うと思います?」


クラークがまるでくだらない見世物を見るように言うと、マリガが冷ややかに笑って返した。


「思わんよ、元々の貴族だったマリガは、食い詰め者と言われる冒険者になっても、プライドが高く卑怯な行為は嫌っていたのに、そのプライドを今更捨ててまでしたのにそんなことは言わないだろう?……そろそろやっていることに矛盾感じて、死に場所が欲しかったのだろう?昔みたいに俺を本気で殺しに来い!今度は安心しろ、もう剣を止めないからな」


クラークはそう言うと逆手に持っていた剣を持ち替えて、剣道で言うなら中段の構えをしていた。俺は前世での剣道漫画の知識で、それが攻防共に最も隙が少ない構えと知っていた。つまりは本気と言う事だろう。

てかっマリガが貴族?昔みたいに殺しにこい?情報量多すぎてわけわからん?後でクラーク、説明プリーズ!



「……風の精霊よ我が想いと具現する力を受け取り雷の精霊を生み出し我が力になれ」


マリガが俺が知らない呪文を唱える。オリジナルの魔法なのか?

それを唱えるとマリガの周りに風が舞うと、同時に電気のような光るものが舞いだす。


「ピースキ、クルットシャッ、ハキキ、ウィッシィ!」


「ハキキ、ナッシスキッスォ?」


「ハキキ、ナキンッシィ!」


「ハキキ、クノネッナットシシシ」


なんだ?聞いたことのない言語だ、マリガが生き残っている仲間と謎の言語で喋り終わると、一人が何か呪文を唱えだす。

俺はなにか、いやな予感を感じだした……。



「キリクさん」


「えっなにラーク?」


俺が突然声をかけたからびっくりしている。


「ポポたちみんなと、今すぐこの場から離れてください」


「えっなんで?クラークならあれぐらい大丈夫だよ?」


「いいや、マジでっ!今すぐこの場から離れろや、マッシュはみんなの護衛お願い。できるだけここから遠くに早く逃げろ」


俺の口調が変わったからみんな驚いている。ここで正体を隠してやられても仕方がない。

シルフ姫は俺の隣に常にいたのに、突然の俺の変化にびっくりして少し離れた。


「シルフはみんなについていけ!いいな!わかった?」


目を丸くしていたけど、コクっとうなづいた。

それよりも絶対にやばいこれ、精霊がおかしい!?


「おいっラーク、お前はどうするつもりだ?」


マッシュが叫ぶ。


「これを止める!ここからできるだけ遠くに離れろっいい?マッシュ、キリク、あとお願い」


俺はクラークの元に走り出した。


「お父さん」


「おいっ危ない!来るな!ラーク!」


完全に戦闘区域に近寄る俺を怒鳴って、止めようとするがそれどころではない。


「危ないはお父さんだろっ!なんで呪文を唱えるのを許す?」


俺は逆にクラークを叱る。今の隙にやらないのは相手を舐めてすぎている。


「いや呪文ぐらいお父さんには利かないよ、当たる前に動けば……」


「この呪文はそんなん生易しい物じゃない!」


動いている精霊が、普通の精霊ではない。


「ほう……。よくわかったねこの呪文は禁呪で普通の者ならわかるわけないのだけどね……クラークさんの子供とは思えないぐらい聡明だね!じゃあ……殺そうか」


空気が動いた瞬間。


バシュッバチバチバチ


「うわっぁっうぐっ」


という音が聞こえた。


「父さん!」


俺に斬りかかった剣をクラークが剣で受けとめる……がクラークの様子がおかしい。


「すごい!流石これを食らって死なないのはクラークさんが初めてだよ」


「…やるねー」


クラークが素早く剣を斬り返すと、マリガはまた離れ二人の男の近くに戻る。

さっきクラークが動いた以上に速い。

マリガの動きが、全く見えなかった。


「父さんどうしたの?」


「奴は身体中にカミナリを纏っているな。今に剣で防いだ時にカミナリを食らった」


さっき呪文は身体に電撃をまとう呪文か?


「大丈夫?」


「ああっ防御力上げていたからなあれぐらいは大丈夫、お父ちゃんは無敵だから」


俺に向かってニッと笑うクラーク。きっと大丈夫ではないかなりのダメージだろう。

くそっ俺がまた足手まといになっている。



「お父さん」


「なんだい息子」


こんな時に……軽いわクラークさん。


「後ろで唱えている呪文………あれは大規模な魔法だ、使っている言語が違うから内容がわからないけど、精霊の動きから最低でも10マルイ約3キロは範囲がある魔法だよ、多分前々から用意していた呪紋じゅもんをここいらに仕込んでいてそれを今発動させた」


「えっ」


驚くクラークでもそれ以上に……。



「なんでそこまでわかる?」


今まで少しは微笑みを残していたマリガが真顔になり、俺をにらみつけている。


「まあこれでも魔法はたしなんでいるからね」


「その年齢でこの精霊の動きがわかるなんかすごいな」


「まあね!これでも神童と言われているし」


ふふん、精霊の動きぐらい3歳で見えて5歳で全て把握したわ。


「命の精霊をわかるとはな、只者ではないな」


えっ命魔法って俺オリジナルの魔法ではないのねーくそっチート能力ゲットと思っていたのに……。

まあ魔法がわかっている者ならわかる事かもしれない。俺のは完全独学だからなぁ……。

ふぅ……でも良かった。

他人に『これって俺様が作ったオリジナル魔法だぜ俺様ってTUEEEEEしSUGEEEEE』てまだ自慢しなくて・・・・・・・・良かった。

言っていたら今頃は、悶え死ぬところだったろう。



「まあ……シール母さんの息子です」


「ねえ?お父さんは?クラークお父さんの名前は?」


泣きそうな声で言ってくるクラーク。

隣でうぜぇな。

そう言うとマリガは考えるように頭を傾げて。


「シールさんの子供でも異常ですね……そうかお前も転生者か?」


「おいっ!転生者ってそれを知っているのか?お前もって」


えっどういうことだ!?俺以外にいるのか転生者って?

そう言うとマリガは、口元が裂けるように笑う


「やっぱりね『地球人』か?」


「…………。」


俺は答えられない。

いや即座に答えられないぐらい、俺はマリガの言葉で驚いている。


「はははははははははっこの場面で面白い。名前は?」


「……ラーク」


「こっちの名前ではない、向こうでの名前だよ……『私は北村凪子きたむらなぎこ元日本人』だよ」


なに、日本人!しかも女性!喋ったの言葉は、こっちの世界の物ではない。間違いなく日本語だ。


俺はクラークの顔を見る。俺の方は見ていない。

ここで自分の息子が、他の人の人格の記憶があると思ったらどう思うのだろう。

そして前世での親父との関係を思い出した。

クラークにあんな態度されたら間違いなく俺は居場所を失ってしまう。

だから言えない。マリガに詳しく転生者のこと聞きたいけど今は聞けない。


「な……なんのことかわかんない」


俺はクラークに嫌われたくない。


「とぼけるね……クラークさん、もし最愛の息子に別人格があったらどうします?それも異世界人の人格……それを知ってもなお親子関係続けます?」


「おい!てめぇーなにいってる」


くそっバラしやがった。こいつは許さない。


俺は即座に計算し完成させた魔法を発動させる。

風の魔法だ!これで奴らを吹き飛ばす。

魔法が突風がマリガたちを襲う。


だがっ!


奴らの手前で俺の風魔法は、奴らの手前で無理矢理に曲がってそれていく。

よく見ると足元には魔方陣らしき呪紋がある。


「ふはははははすごいっ無詠唱で魔法が使えるのか!流石だよ!転生者特有の立派なチート能力、間違くなくクラークさんあなたの息子は異世界からの転生者ですよ。他人の記憶を持っている息子はどうですか!気持ち悪いでしょ」


マリガが笑う。

くそ

恐る恐るクラークを見る。さっきと同じく俺の方を見ていない。


俺はクラークに見捨てられるのか?前世の親父と同じように無視されたり、嫌がられたり、気持ち悪がられたりするのか?



嫌だ、そんなの嫌だ。

俺は泣きそうになる。



















「はあ?なにいってんの?俺のラークはすげーじゃん、やっぱり俺の自慢の息子だわっカッコイイ」


クラークが俺の頭を優しく撫でる。


「……父さん」


俺は少し涙声になる。


「でもラークを泣かせた罪は重いな。マリガは許さない……殺すよ」


俺はビクッてなるぐらい、クラークのお顔怖い。

きっと鬼の顔ってこんな感じだろうと思うぐらい。いつも微笑みを絶やさないクラークの顔とは思えなかった。


すると、マリガの背後にいた男たちがマリガの背中に触れている。


「いいですよ、私たちと戦い殺し合いますか?勝ったら息子さんを貰いますよ。利用価値が高そうなんで…………」


「命の精霊よ、精神を狂わせろっ」


後ろの男が呪文を唱えると周りの空気が震えた。

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