異世界転移したら、魔法以外のステータスが無限にあるんだが

形利 秋

プロローグ 最強のプレイヤーがログインしました


『リミットブレイク・サーガ』


今、世の中を席巻するMMORPGの名称だ。

広大なフィールド、高度な人工知能を搭載したキャラクター、手の込んだ演出やグラフィック。勿論、そういった要素もこのゲームがヒットした理由の一端だと思う。


だが、それらはあくまで理由の一端に過ぎない。このゲームの人気に最も寄与している要素、それがステータスの自由度だ。

他のRPGゲームにはステータスに限界値が必ずと言っていいほど存在する。つまり、強さに限界がある。その限界値がこのゲームには存在しない。極端な話、無限に強くなることができる。


ある者はMPを、ある者は魔法攻撃力を、それぞれ無限に高めていく。そうして、多種多様なプレイスタイルや攻略法がプレイヤーの手で生み出される。

この革新的とも言えるシステムこそが、このゲームの一番の魅力だ。


だが、魔法がメインのゲームだからなのか殆どのプレイヤーがMPや魔法攻撃力、魔法防御力と魔法に関連したステータスばかりを上げた。敵キャラもある程度まで行くと魔法しか使ってこないから確かに理にかなってはいるけれど。

限界値が設定されてないということは、各々が唯一無二の特徴的なステータスを持つことが出来るということなのに、結果として上級者は皆同じようなステータスに落ち着いていた。


みんなこのゲームの楽しみ方をまるで理解していない。HPや物理攻撃力、スピードだって無限に上がればちゃんと強いのに。


俺、秋風星斗、プレイヤー名フォールは、他の人とは違うプレイを楽しみたいと思い、魔法に関するステータスを一切上げずにそれ以外のステータスを上げに上げた。

魔法に関するステータスを上げている人に比べ、俺は遅れを取っていった。

魔法がメインのゲームだからそれは仕方のないことかもしれない。同じパーティを組んでいたゲーム友達にも何度も魔法に関するステータスを上げるよう頼まれた。

けれど、俺はそれを聞き入れなかった。俺が上級プレイヤーよりも強くなれば、きっと魔法に関係ないステータスの魅力にみんなも気づいてくれるはずだと、そう思っていた。


あれから一年、未だに俺は魔法に関係ないステータスを上げ続けている。

もうとっくにパーティメンバーからも見限られ、パーティは解散。ソロプレイヤーとなっていた。

だが、もう一つ、変わっていたことがある。

ただひたすらステータスを上げ続けた結果、俺はリミットブレイク・サーガというゲームの最強プレイヤーになっていた。




「秋風くん、明日飲み会なんだけど、場所わかる?」


突然話しかけられて俺はビクッとした。後ろを振り返ると、俺の教育係の女上司が立っている。学生時代ぼっちで過ごしたからか不意に話しかけられることにまだ慣れていない。

まあ、入社したばっかりだし仕方ないよな、うん。


「あの、すみません。ちょっと予定が入ってしまって。」


「そうなの?飲み会よりも大事な予定?」


新入社員に対してそんなに高圧的になるなよ、タダでさえ俺メンタル弱いんだから。そもそも、飲み会なんて新入社員から言わせれば大事な予定でも何でもない、煩わしいだけだ。

なんてそんなこと直接言えるわけもない。


「すみません、どうしても外さなくて……。」


「はあ。しょうがないわね、じゃあ私が代わりに課長に来れないって伝えとくから。」


そういうと、先輩はため息をついて俯きながら去って行った。

ほら、飲み会なんてやっても誰も幸福になんてならないじゃん、悪習だよ悪習。




俺は無言で自宅へと入った。ただいま、なんて言っても返事なんて帰ってこないからだ。

荷物を置き、すぐさま向かったのはパソコンデスク。電源を入れ、すぐにリミットブレイク・サーガへとログインする。


「ただいま。」


無意識に俺は呟いていた。なんだか家に帰ってきた瞬間よりも、リミットブレイク・サーガへとログインした瞬間の方が帰ってきたと強く感じる。それくらい、このゲームは俺の安らぎの空間になっていた。


このゲームにログインして、俺がやることはいつも同じ。

ただただステータスを上げる。それだけ。

魔法に関するステータスを一切あげていないのだから、最強のプレイヤーの地位はちょっとステータス上げをサボっただけで簡単に揺らぐ。俺が最強でいることができる空間を、そう簡単に失うわけにはいかない。


俺はこの一年間、毎日六時間以上はステータス上げに費やしていた。他のプレイヤーがコラボクエストで限定アイテムを入手している間も、公式のリアルイベントに参加している間も、エンカウントするモンスターで最も経験値が多くもらえるダークドラゴンをただひたすら倒していた。

そういえば、一年前なんて回復ポーションいっぱい持って行って何度も回復して攻撃してやっと倒してたっていうのに、今ではパンチ一発でオーバーキルだからなぁ、ダークドラゴンが割と強キャラなの忘れてたわ。


ふと、現実とのギャップに心が痛む。ゲームの中ではこんなに強い俺が、現実では飲み会の誘いにビクビクしている。

リミットブレイク・サーガは今や俺の全てだった。このゲームで最強であることに誇りを持っていた。

けれど、そんな俺を見て人は言うだろう。たかがゲーム内で強いだけだろ、と。


「はあ、いっそゲームの中に入れたらなー。」


俺が叶いそうにない願いを呟いた刹那。


パソコンのモニターから眩い光が溢れ出し、部屋を包み込んだ。

俺は何が起こったのか理解できなかった。パソコンのモニターが爆発したのか、あるいはこのところの寝不足で遂に目がおかしくなったのか。


俺が混乱の渦に巻き込まれていると、その眩い光が消えて視界が晴れた。俺の目の前に広がるのは、広大な草原。

こんなところには来たことがない。けれど、俺はここが一体どこなのか一瞬でわかった。


「リミットブレイク・サーガの最初のマップだ……。」


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