わたしの七里ヶ浜

井守千尋

拝啓 梓川咲太さま

お久しぶりです。牧之原翔子です。お便りを出すのをとてもとても迷いましたが、こうして筆を取りました。

先日は、結婚式にお招き頂いて、本当にありがとうございました。咲太さんが幸せそうで、とっても嬉しかったです。久しぶりにお会いすることのできた人も大勢いて、あの頃の七里ヶ浜で出会った縁がまだ続いているんだなぁ、と思いました。そんな幸せ真っ盛りな咲太さんにこのような話を手紙で送りつけるのは失礼極まりないとは思うのですが、どうしても伝えておこうと思い、また口頭ではうまく説明できないので便箋にしたためます。

昨年沖縄から戻って、念願の峰ヶ原高校生になることができました。部活はしていません。まだ身体が弱いこともありますが、しっかりと勉強して、大学生になってやりたいことがあるからです。高校では、クラスにお友達もできました。寄り道に、買い食いに、今までやったことのない普通の高校生らしいことを満喫しています(笑)。近況報告はこのあたりで。私、再び大きくなったり小さくなったりしているみたいなんです。

 再び、というのは少し違うのかもしれないですね。大人の翔子と中学生の翔子は行ったり来たりしていた、と咲太さんから教えてもらいましたが、私には自覚がないのですから。中学生の頃のちんちくりんな私と、もっと大人になった私がいて、それぞれが好き勝手しているみたいです。これって、思春期症候群ですよね。私にも思春期が来たんです。どうしてそれがわかるのかといえば、スマホのメモアプリに自分では覚えのないメモが入るようになったから。

咲太さんから聞いた話では、かえでさんのことや、麻衣さんのこと、咲太さん自身の思春期症候群が大変だったことばかりでしたが、それでも私には嬉しいんです。発症する高校生になれたことが喜びです。

それで、どうやら大きい方の私が、地元の男の子に好かれてしまったみたいなんです。スマホのメモアプリに、○月✕日、デートの約束、と記されていて。私はとても心配になっているのです。今の私にデートなんてできないのに、大人の翔子にきちんとできるのかと言うことです。できるのかな。

 私は、咲太さんから大人の翔子について、そこまできちんと聞いたことがありませんでした。なので、教えてくれませんか? 大人の翔子のことを。そうすれば、大人の翔子のデートもうまく行く気がするんです。

 私は放課後毎日、七里ヶ浜の砂浜に居ます。気が向いたらで良いので会いに来てくれませんか?

かしこ


牧之原翔子


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る