2ページ
「花菱さん!」
「え、なんですか?」
「じ、実は協力して頂きたいことがありまして」
「はい?」
突然大きな声を出した熊谷さんがそんな事を言う。だから本当にどうし・・・あれ、なんかこれ覚えがあるぞ?
「あ、あの、これなんですけど」
そう言って大きな体を恐縮そうに縮めて熊谷さんがスマホの画面を見せて来た。そこにあったものは、
「き、響子さんっ!?」
熊谷さんの初恋の相手――で振られた相手だった。なんでそんなに笑顔で寄り添い合っているの? この間突然告白して振られたって言っていたじゃない。
「実はあの後、本当に情けない話なんですけれど」
熊谷さんは大きな体をもじもじとさせて続ける。
「僕、ずっと彼女の前に姿を現さなくて。響子さ、彼女も気まずかったみたいでしばらくお店に来てくれなかったんですけれど、少ししてからまた来てくれるようになって。でも僕は彼女の前に顔を出すことが出来なくて。こんなに大きな体をしているのに本当に小心者だから」
何となくその光景が想像できた。熊谷さんはとても繊細な人なんだ。
「でもある時、彼女が訊いたんです。店長はいないんですかって。僕は絶対に会いたくないって思っていたんですけれど、その時は、なんだか・・・会わなくちゃって思って。彼女の所へ顔を出したんです。そしたら彼女が頭を下げてくれて、それから・・・」
熊谷さんは俯いて答えた。けれどその耳は真っ赤に染まっていて。
「付き合うことになりました・・・」
「そうでしたか、良かった」
きっときっと彼のことだから凄く勇気がいったに違いない。とても純粋で、優しすぎる彼だから。
「あの時、本当に勇気を出して良かったです」
「頑張りましたね」
初めから彼女を想う気持ちはとても強かったから。それが一歩を踏み出す勇気になったんだろう。ほっとして、こっちまで顔がゆるんでしまう。
「違いますよ」
「え?」
「花菱さんに声を掛けた時のことです。あの時、きっと声を掛けていなかったら今はなかったから」
「・・・そんなこと、ないですよ」
「そんなことないことないです。花菱さん、本当にありがとう」
そんなキラキラした笑顔で言わないでったら。なんかちょっと泣きそうになるじゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます