第16話 全く別の感覚器官

 家の中へと案内されたわたしたちは、ご両親から一通りの事情を聞いた。


 テレビやネットのニュースで取り上げられていたのとほぼ同一の内容だった。


 行方不明の二歳の女の子の名前はひとみちゃん。


 おじいさんとおばあちゃん、お兄ちゃんと一緒に海岸まで行こうとしたところ、途中で家に帰りたいとぐずり、一人で帰らせてしまった。


 おじいさんが坂の途中まで後ろ姿を確認したが、一時間ほどしても家に戻らず、不安に思った両親が付近を探す。


 おじいさん夫婦、両親で一時間ほど探しても見つからず、警察へ捜索願を出す。


 そして現在まで、約四十時間が経過といった状況だった。きっと今ごろ、お腹をすかせているんだろうな。早く見つけてあげたい。


 彩先輩がたずねる。


 「あの、ひとみちゃんの最近の写真と、あと何か匂いが分かるものとかってありますか??肌着とか、お気に入りのぬいぐるみとか、いつも肌に触っているようなものがあれば貸していただきたいのですが」



  両親は少し疑問に思ったようで、


 「なぜそのようなものを??」


 すると、


 「あの、この子、すごく鼻がいいんです。ほら、えーと、この子のお母さん、香水メーカーの調香師さんなんです!この子も同じくらい才能があるんです!!」


 パフィンちゃんの肩を抱き寄せながら、彩先輩がすかさずフォローを入れる。


 半分は本当の事を言っている。香水メーカーやウイスキー工場の一流の調香師、三ツ星レストランシェフともなると、カラのエレベーターに乗って直前までどの従業員が乗っていたか匂いだけで当てることができるとテレビで見たことがある。

 

 そういう超人的な嗅覚を持っている人間は実在する。ただ、わたしたちの場合はティティアンノートで犬などの動物にに変身した場合だけれども。


 もう半分、パフィンちゃんのお母さんが調香師というのは多分ウソになる。実際は、パフィンちゃんのお母さんの職業は誰も知らなかった。



 「そういった事なら、これを持って行って下さい。ひとみのお気に入りのぬいぐるみで、よく持っていたんです」


 そう言われて渡されたのは、うすピンク色をした、大きさ20cmのほどのイルカのぬいぐるみだった。


 使い込まれた感じから、お気に入りだったのだなという事が想像できる。



 「ありがとうございます、使わせていただきます!」


 わたしはご両親にお礼を言う。ひとみちゃん待っててね。ティティアンノートの力で必ず見つけ出してあげるからね。


 その後、すでに警察などが調べ終わった場所などを地図と照らし合わせて説明してもらい、わたしたちも捜索に協力する許可を正式にもらった。


 「それじゃ、始めますか!」


 チャチャちゃんの号令と共に、斜面の林の中に入る。周囲に人がいない事を確認してからティティアンノートを開き、



 「「ティティアンエボリューション・パピヨン!!」」



 まずはわたしとパフィンちゃんがパピヨン犬の動物少女に変身をした。変身するのが二人だけなら、人に見られても動物のコスプレをした子供くらいにしか思われないという考えだ。



 「よし、まずはこのぬいぐるみの匂いを感じるところからだね」


 「イエス、サー!」


 わたしとパフィンちゃんがぬいぐるみに鼻をつける。


 くんくん、くんくん、くんくん。


 わかる。人間の時とは明らかに鼻のするどさが違う。イルカのぬいぐるみの中から、ぬいぐるみ自体の綿やポリエステルのにおい、ひとみちゃんのものと思われる体臭、皮脂のにおい、汗の匂い、よだれの匂い、洗濯に使った洗剤のにおい、おそらくこぼしてしまったのであろうジュースやクッキー、パンの食べカスの匂いまで、細かく嗅ぎ分ける事ができる。



 「犬って、こんな世界に生きているんだね……」


 もう、同じ嗅覚というくくりを超えて、全く別の感覚器官を取得したような気持ちになっていた。



 そして、体臭や汗、皮脂、よだれの匂いを脳内でピックアップして覚えたわたしたちは、道に出て匂いを辿る作戦に出た。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


主人公周りの設定ですー。


飛鳥川 鈴(あすかわ りん) 本作の主人公。フォッサ女学院中等部生物部に所属する中学1年生。不思議な本「ティティアンノート」を発見したことから、動物少女に変身できるようになる。

絵が下手なので、ティティアンノートにスケッチを描くのは一苦労。ペットはフクロウのスピックスコノハズク「スピピ」


下連雀 彩(しもれんじゃく あや) 中学2年生、生物部。しっかり者の優しい先輩キャラ。ペットは三毛猫の「マーブル」


燕昇司 楓(えんしょうじ かえで) 中学1年生、生物部。家はネットカフェチェーンを経営している。

昔のマンガなどに詳しい。ペットはウサギのネザーランドドワーフ「キャラメル」


馮 佳佳(フォン チャチャ) 中学1年生、生物部。中国系の女の子。 家は横浜中華街の料理店、「壱弐参菜館」。

料理が得意。お金が好き。ペットはヨツユビハリネズミの「小太郎」


パフィン・アルエット 中学1年生、生物部。外国から来た生徒。飛び級で進学しているため現在10歳。

日本在住5年。好奇心旺盛でツッコミ大好き。ペットはパピヨン犬の「パピ」


飛鳥川 優衣(あすかわ ゆい) 鈴の姉。フォッサ女学院高等部の高校2年生。ちょっと天然の入った性格。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る