さいわいなことり

新吉

第1話 しょうわるなかとり

 性悪な蚊取り



「おじいちゃん、それ前にも聞いたよ」


「そうか、じゃ覚えてるか?」


「もう絵も描けるよ」



 手首の小さな機械から、緑色を選んで指で空をなぞればぐるぐるができる。



「なんだそれ?」


「絵だからね、大丈夫だからね?」



 赤でチョン。最後に灰色の煙を描いて完成。



「空に浮かんでる!」


「触れないよ」


「使えるのか」


「使えるわけないじゃん」


「性悪な蚊取りだな」



 むすっとして見つめるおじいちゃん。



「でもいつも臭いって思ってたんでしょう」


「そうそう線香臭い」


「火を使うから危ないって思ってたんでしょう」


「そうそう、子どもが触ろうとするんだよ」


「夏が終わると保管場所に困るんでしょう」


「そうそう、缶に入ってるんだけどね」


「でもまた夏になると見つけられないんでしょう」


「おじいちゃんがね」


「ここだよって教えてたんでしょう」


「だっていつも忘れちゃうから」


「でも夏になると必要なんでしょう」


「蚊も出てくるしね」


「他の蚊取りもあるんでしょう」


「おじいちゃんがこれが一番って」


「ぶら下げるのもすぷれーするのも、こんせんとに差すのもあるんでしょう」


「そうそう、いっぱいある」


「でも探すんでしょう」


「これじゃないとダメだって言われるから」


「嫌だったんでしょう」


「そうかもしれない」


「だからもうなくなったからね」


「そう?」


「もう夏になっても探さなくていいよ」


「そうか?」



 そこで絵は消えた。



「そうだ、俺が若い頃、こおりっていうものがあって」

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