第6話 愛しのテディベア
「八雲、今年のクリスマスは何がいい?」
「聞くな」
「俺は10段ケーキとテディベアとあとは何がいいかな」
「いらん」
「そうだな、去年はフォンダンショコラとブラウスとテディだったからな」
「…」
「あのブラウス八雲のためにオーダーメイドで俺作ったからぴったりだったろ?」
「着てない」
「テディ、今までの仲間たちも待ってるだろ」
「待ってない」
「楽しみだなー」
「黙れ」
12月に入ると、毎年ツミキはクリスマスプレゼントの話をする。決まって手作りのものを八雲に贈る。ツミキはテンション高く、八雲は別のことを考えていた。
(先輩に何かプレゼント、用意した方がいいのかな)
自分で言い出した条件で付き合っていることの後ろめたさが、日に日に募っていっていた。横にいるスーパー幼馴染に気遣うことなく、堂々と付き合いたい。だが、嫁にしてくれと言い続けるツミキを、邪険にすることもできないでいる自分。
去年は、学校が休みの日にクリスマスだったため、ツミキが八雲の家に来て出来立てのフォンダンショコラを振る舞った。その後に思いっきりリボンの大きい包みを渡されて、しぶしぶ中身をあけると、うすいピンク色を基調としたフリフリブラウスが入っていた。
恥ずかしくて着れるわけがないとツミキに怒ったが、怒った顔もかわいいとツミキは嬉しそうにしていた。ツミキが帰った後、ブラウスを着てみた。鏡の中の自分が可愛かった。今は部屋のクローゼットに、制服と並べて入れている。
テディベアは、毎年クオリティーが上がっている。最初にもらったのは小学5年生の時だった。それからクリスマスには、必ずテディベアがお決まりになった。今年で6体目だ。最初にくれた時に大喜びしてしまった自分を、取り消せるものならそうしたい。
今までにもらった5体は、全部ベッドの枕の両脇にいる。おはようとおやすみを言い、その日の気分によって並べなおすのがルーティーンになっている。その中でも最初にもらったテディベアは一番不細工だったが、それでも一番思い入れがあった。
ツミキに先輩のことを言うべきか、八雲は悩む。今のこの状態は、ツミキの感情に対しての裏切りだと思った。ツミキを傷つけたくないからと、自分に言い聞かせていた。だが、ここにきてそうでないことに気付く。
(自分が傷つきたくないんだ)
普段はツミキに好かれるがままになっていて、何を言ってもツミキは自分から離れようとしない。冷たい言葉で接するも意味をなさない。そんな状態に甘えている。冷たくあしらったところで、ツミキが自分に興味がなくなるわけがない。ツミキの気持ちが果てしなく強いことを知っている。
一方で、旧館のみで奏と会っている。奏もそれで承諾していて、それでも好きだと言ってくれる。今のままで良いと。旧館で会う奏はとても優しく、それでいて心臓を貫くほど意地悪だった。その両方が心地よくて、旧館に昼休みと放課後2時間、必ず通っている。
真横で何やらツミキが言っている。もうすぐ学校に着く。少しツミキから離れるように早足になる。それを察知してツミキがまた真横にくる。
「ツミキ、そう言えば生徒会に入ったんだって?」
「そうなんだよ。強制だぜ。かわいそうだろ?」
「いいや」
「生徒会長が強引でさ」
「強引さならお前も負けてない」
「褒めてる?」
「褒めてない」
「でも、八雲と帰れるように時間を」
「調整しなくていい」
「絶対これかも一緒に帰るから」
「うざい」
そう言い放って八雲は自分の下駄箱に走った。ツミキは八雲の後ろ姿を見ている。何度も見る後ろ姿。だけど最近はなんだか、遠く小さく見える。それは、生徒会長のあの言葉を聞いた日からだった。
(運命の相手って何だよ)
ツミキは下駄箱からぶっきらぼうに上靴を出す。生徒会長の言葉を掻き消そうと、八雲へのクリスマスプレゼントの計画を考える。だが、消えない。生徒会室に行くしかないと、ため息がひとつ、ふたつ、足跡のように続いた。
つづく
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