といろ

むとら

第1話

「………ああ、私は二週目だから」


うちの質問に彼女はそう答える。


「ニシュウメ…?」


てっきり、「頑張ったから」とか「毎日練習してるから」とかいう返事が返ってくると思っていた。


ダム、ダム、ダム…。

彼女はまるで当然かのようにドリブルをしながら話す。


「なーんてね、私が上手いのはさっちゃんが下手だからだよ」


「んなっ!!」


こんな言葉に反応してしまうのは、うちがまだ幼いからだろう。


「あはは、ごめんごめん」

「…もう」


彼女は大人びた口調で謝る。


「でも、さっちゃんもすごいよ。私と同い年でレッグスルーができるなんて」

「れ、れっぐするーっていったって一回股の下を通せるだけじゃん」

「何言ってんの、まともにドリブルもつけなかった子が」


ほ、ほめてくれているのだろうか。

そんな事をいいつつ彼女は公園の端から端まで、れっぐするー、とやらをしながら歩く。もちろん一度も失敗せずだ。

か、かっこいい…。けど。


「う〜…」

「あは、悔しいと思うなら練習するんだね」

「う〜…」


うちがそうやって唸りながらボールと格闘していると彼女がポツリと言った。


「ねぇ、さっちゃん。さっちゃんがもし将来、このスポーツの全国大会で優勝したかったら……」

「え、何?」

「……いや、何でもない」


彼女は何もない空へボールを放り投げた。


「ふふふ、親に買ってもらったゴール、今度持ってきてあげるよ、小さいやつだけどね」

「わぁ、ほんと!?」

「その代わり、友達を連れてきなさい。二人でやるより楽しいからね」

「うん、分かった!」


こうして、とある小学校に、うちと彼女を含め、やたらとボールの扱いに慣れた子供達が入学する事になった。



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