といろ
むとら
第1話
「………ああ、私は二週目だから」
うちの質問に彼女はそう答える。
「ニシュウメ…?」
てっきり、「頑張ったから」とか「毎日練習してるから」とかいう返事が返ってくると思っていた。
ダム、ダム、ダム…。
彼女はまるで当然かのようにドリブルをしながら話す。
「なーんてね、私が上手いのはさっちゃんが下手だからだよ」
「んなっ!!」
こんな言葉に反応してしまうのは、うちがまだ幼いからだろう。
「あはは、ごめんごめん」
「…もう」
彼女は大人びた口調で謝る。
「でも、さっちゃんもすごいよ。私と同い年でレッグスルーができるなんて」
「れ、れっぐするーっていったって一回股の下を通せるだけじゃん」
「何言ってんの、まともにドリブルもつけなかった子が」
ほ、ほめてくれているのだろうか。
そんな事をいいつつ彼女は公園の端から端まで、れっぐするー、とやらをしながら歩く。もちろん一度も失敗せずだ。
か、かっこいい…。けど。
「う〜…」
「あは、悔しいと思うなら練習するんだね」
「う〜…」
うちがそうやって唸りながらボールと格闘していると彼女がポツリと言った。
「ねぇ、さっちゃん。さっちゃんがもし将来、このスポーツの全国大会で優勝したかったら……」
「え、何?」
「……いや、何でもない」
彼女は何もない空へボールを放り投げた。
「ふふふ、親に買ってもらったゴール、今度持ってきてあげるよ、小さいやつだけどね」
「わぁ、ほんと!?」
「その代わり、友達を連れてきなさい。二人でやるより楽しいからね」
「うん、分かった!」
こうして、とある小学校に、うちと彼女を含め、やたらとボールの扱いに慣れた子供達が入学する事になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます