4話出会い
「君、席につきなさい」
「はい・・・・」
指された席は、窓際5番目の席。
後ろから2番目の席であった。僕にはお似合いの席だ。
まさに僕こそ窓際、瀬戸際だ。
われながらうまい。
この最悪の状況の中とんちをきかせている場合ではないのだが。
僕はゆっくり指された席にすわる。はーは。やっと一息つける。
そう思っていたのに。
クスクスクス・・・・。
今度は真後ろの女子が笑っている。
今度はいったい何だっていうんだ。
もうさっきもさんざん笑っただろう。
そんなこと思いながらもシカトする。
仕方ない。
とりあげれば、さらにネタにして笑いものにされるのは、確実。
めんどくさいことに関わらないことが一番なのだ。
もがけばもがくほど沈む底なし沼なのだ。
トントン。
例の女子に背中をたたかれる。
僕なりのセオリーに従ってシカトする。
トントン。
しつこい。
シカト続ける。
「ねえねえ」こんどは耳元で声かけ。
さすがに耳障りなので振り返る。
にらむ。
その女子が背中を指す。
は?なにがいいんだ。
こいつは。
シカトして再び前をみる。
「ちょっとちょっと」しつこい。
しかたないので再び振り返りにらみつける。
「背中背中」
「は?何?」
「もう」
背中になにかあるのか。
背中に手を回してみる。
「もっと上」
と襟の上の方に手をやる。固いものがふれる。これは・・・。
新調の制服。それだから付いているわな。値札。
今日ちゃんと切ればよかった。
もっともそんな余裕もなかったのだけれども。
「ちょっと動かないで・・・」
「え」
「いいから」
「ちょっとうごかないで・・・」
「え」
「いいから」
言われたとおりここは命令に従うことのしよう。
で、僕の彼女はというとなにやらごそごそと鞄を探りはじめた。
本当に。
何をおっぱじめるつもりなんだ。
と「動かないで」念を押された。いよいよ恐怖にすら感じる。
とその刹那。
別の固いものがふれる。そして・・・チョキン!
はさみの摩擦音が聞こえた。
「はい」
値札を手渡される。
「あ・・・ありがとう!」
「ふふふ・・・ははは」
いよいよこらえきれなくなって、声をあげてその女の子は笑った。
「おい!君たち。何をしているんだ。しばらく廊下に出ていなさい」
先生の怒号が飛んだ。
こんな春うららかな日にこんなに寒い廊下に立たされるなんて。
「あーあ。立たされちゃったなあ。誰かさんのせいで」
例の彼女がそんな嫌みを耳元でささやいた。
仕方ないだろうといいたくもなったが、どうしようもない。
確かに僕のせいではあるのだから。
何もいいわけはできない。
「シカト?」
「わるいと思っている」
「もう本当よ。まったく」
「いつもそんな感じなの?ムスっとして」
「もともとだよ。人と接するのは得意じゃないんだよ」
得意じゃないというか大いに苦手だ。根が暗いのだ。
「そんなんじゃいつまでたっても友達おろか彼女もできないよ」
「うるさい。おおきなお世話だ」
本当におおきなお世話だ。まったくもって。
たしかに友達は今までひとりもいなかったけれども。
クスクスクス・・・。再び彼女が笑いだした。
「なにがそんなにおかしいんだ」
「だってあなた変わってるんだもん」
「なにが」
「すべてが」
「へ?」
なんじゃこのやりとりはと我ながら思うのだけれども。
まあ確かに僕は人とは違う何かをもっていると思うし、たいしてほめられるような人間でもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます