ギターケースにサングラスを
真島庸介
第1話
中学三年間ずっと勉強しかしてこなかった。毎日5教科を満遍なく三時間は少なくとも勉強していた。それでも成績は中の上クラスの下の方。いわゆるいくら努力してもしなくても普通レベルの人間、というわけだ。高校だって世間からの評価が良くも悪くもない普通レベルの高校に入学した。今後の人生、どうせなんの得も損もない一本調子な人生なのだろうと冷たい諦めのようなものを胸に隠した。
今日から俺はこのいわゆる普通レベルの高校、『塔鷹高校』に入学する。高校生生活のスタートというわけだ。俺の中学からはこの高校に入学した奴は自分以外誰もいない。周りはどいつもこいつも知らない顔ばかりだ。オリエンテーションでの自己紹介タイム、そんな俺には苦行の時間でしかない。とりあえず普通に無難にこなすしかないだろう、そう保身に走り出したが、いわゆるクラスの中心となりえる奴らはもう既に笑いを取っている。その次の俺のことを少しは考えたらどうだ、俺のつまらなさに拍車が掛かるじゃないか、などと一人頭の中で毒づいているとすぐ番が来てしまった。
「山八木中学から来ました高島周介です。部活は陸上部で長距離走をやってました。よくあんなただ走るだけの競技やってられましたよねー、ハハ」
前のやつに合わせて俺も少し砕けてみたつもりだが慣れてない人間がふざけたところで空気は微妙になるばかりだ。終わったな、俺の高校生活。なんだこのパラパラと微妙な拍手は、いっそのことやめろよそれ。前の席の奴が憎たらしくて仕方がない。そのまま席に戻り微妙に赤面していたが前の席の奴が話しかけて来た。
「ごめんなー、俺以外とウケちゃったから調子に乗っちゃったよ。やりにくかったよね、ごねんね。あ、俺は宗馬章介ってんだ。よろしくね、高島くん。」
お前のせいで高校生活終わりかけたんだぞ、その声がけは俺に対する慈悲か何かか?どうせお前とは校内カーストが天地の差ほどある人間だよ俺は。なんて言えるわけもなく愛想笑いを浮かべた。
「ああ、全然だよ。やっぱり宗馬くんには敵わないなぁ。」
「そんなことないって。俺なんて同じ中学の奴がクラスにいないからアガっちゃってさ、いきなり飛ばしちゃっただけなんだ。ところでさ、高島くんって部活なに入るか考えてる?」
お前同じ中学の人間がいないのにあの飛ばしようは普通じゃないぞ。羨ましいよ、ある意味。
「特に考えてないな、宗馬くんは?」
「俺は軽音部の入部を考えてるよ、中学時代は文化祭でバンドやってボーカルをやってたからね。」
なるほど、文化祭とはいえバンドをやってたから人前でもあんな感じでいられるのか。まあ俺とは人種が違うって感じだな。
「へぇ、そうなんだ、俺は帰宅部になるかな。」
「そっか、まあもし興味ができたら一緒に入ろうよ。」
入るわけないだろ、そんなの恥ずかしいわ。と会話の端々に脳内で毒づきながら宗馬くんと会話をしてそそくさと一人で帰路に着いた。
「おかえり、はじめての高校どうだった?」
ああ、すでにどうしようもない臭いがプンプンしてるさ、あとは消化試合だろうね。
「ああ、まあ、うん、普通だよ。」
レベルの低い見栄を張ってしまった。何故こう母親には下らない見栄を張りたがるのだろう。
「そう、帰って来て早々で悪いんだけど今日生ゴミの日だから捨てて来てもらっていい?」
別に断る理由もないのでゴミ捨場に向かった。高校生活、スタート失敗だな。などとマイナスな事ばかり考えているとまた更にマイナスな事を考えだしてしまう。今後に対する諦観の境地に達し始めたところでゴミ捨て場に着いた。しかしそこには生ゴミの日には似つかわしくない物があった。
「今日は生ゴミの日だってのにギターなんて捨ててやがる。これを捨てたやつはギターをナマ物だとでも思ってんのかね。」
そう皮肉めいたことをつぶやいてゴミを捨てそこを去ろうとした、のだがどうにもあのギターが気になる。
「まあ捨ててあるんだし貰ってもいいだろう。」
どうもこのギターの境遇、俺と似ている。捨て子を拾うような感覚でそいつを背負って家に戻った。
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