戦争四日目まで

 戦争四日にして、脱落者二名。

 今までの七つの戦いと比べれば、展開としては遅い方か。

 天界としては早期決着が望ましく、例の魔導人形の回収を早急に行いたいところ。

 だが、焦ってはいけない。

 彼女あれは一応にでも戦争ゲームの参加者。例え招くためだけの口実だったとしても、表向きだけの意味合いだったとしても、彼女は参加者として脱落しなければならない。

 彼女には一日の猶予が与えられた後、熾天使してんしが向かうと言っていた。

 途中、気が変わって先延ばしになるかもしれないが、最終的にやってくれさえしてくれれば問題は発生しない。

 何やら屈強な護衛がいるようだが、彼女に限って敗北もないだろう。希望的観測ではなく、覆し難い事実として。

 熾天使という怪物に負けはない。

 あれは破壊と蹂躙、支配という三つの首を宿した怪物だ。三つの言葉と概念を体現し、具現化し、天使の形に無理矢理凝縮した存在ちからこそが熾天使だ。

 例え不死身の怪物だろうと、あらゆる命を呑み込む闇だろうとあれは破壊するだろう。

 それが彼女であるという事実を知って、忘れてさえいなければ、通りすがりに殺される事も巻き込まれて死ぬ事もない。

 そういう意味合いでは、最初に脱落した強運者かれは名の通り強運だった。世の中、知らぬ方が良い事もあるという意味で、彼は彼女という死の災害を知らぬまま死ねたのだから、余程の運の持ち主だったと言える。

 逆に言えば、熾天使という脅威を骨身に染みて知ってしまった他の参加者は不運でならない。最強だけならばまだしも、最恐でもある破壊の権化に挑まなければならないのだから。

 故にが、せめてもの慰めになれば幸いだ。

 熾天使は一日の猶予の後、人形と守護者を狩ると言った。その後連戦するとは考えにくいから、他の参加者四名には、最低でも二日間の猶予が与えられた事になる。

 束の間の平穏を過ごしたければそれで良し。

 熾天使かのじょとの戦闘に備えるのも良いし、現実逃避するのも良い。

 ただし、少しは奮戦して貰わねばならない。

 この戦いが世界の浄化装置であると同時、天界に座る五つの脳を決めるための物である事もまた、紛れもない事実なのだから。

 熾天使の存在は、あくまで浄化のため。天界が脳として欲するは、地上の勝者。熾天使が勝ってしまっては、この戦争の意味がない。

 表裏双方の物事を進めなければいけないのだから、裁定者さいていしゃの役は大変だ。

 が、何も大変な事ばかりではないのだと、今回改めて思わされた。

「初めまして、囚われの姫君。僕が此度の戦いの裁定者。星の巡りを見る者。運命ほしの光を降臨おろし、使役する者。召喚士しょうかんし。君に話があるのだが、構わないかな?」

「……あなたが、この戦いの……はい。しかしそれなら、私もあなた様にお話があります。お時間を余計に戴く事となりますが、よろしいでしょうか」

「えぇ、もちろんです。姫」

 前以て自分の運命占っていて尚、知り得なかった巡り会いがあるのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る