いつかサラブレッドに

カゲトモ

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「マスター」

 そう呼んだ斉藤君の顔はどこかニヤついていて。いつもそんな風に笑う子じゃないから一瞬分からなかった。

「いらっしゃいましたよ」

「え・・・なっ」

 カウンターの一番奥に座った二つの影を見て一瞬固まってしまう。

 なんでっ!

 視線で伝えると分かっているのかいないのか、フン、と鼻で笑われた。

「ご、ごめんね斉藤君」

「とんでもないです」

 斉藤君にグラスの片づけを頼んでカウンターの奥へ向かう。こっちもどこかニヤついた顔をした人物と、いつも通りぼうっとした顔の人物がいた。母親と父親だった。

「なんでいんの」

 実家からここまではちょっとそこまで、と言うような距離ではない。俺だって盆暮れ正月くらいにしか帰らないような田舎だぞ? いやそれは親不孝者なだけかもしれないけれど。

「なんでって、親が子供の顔を見に来ちゃいけないわけ?」

 うっ。だからそういう事じゃなくて。第一今までそうやって店に来たことないだろ。二人がここに来たのだって、開店した時以来じゃないか。

「別にあんたの顔を見に来るためにわざわざここまで来たりしないわよ」

「んっ」

 そ、そこまでハッキリと言わんでも。

「ついでよついで。こっちで友達が還暦パーティを開くからって呼んでくれたのよ。だからついでにあんたの店に行こうかって話になって。ね、父さん」

「ん」

 父さんは頷いて答えるだけだ。きっと母さんが良い機会だからとか言って連れて来たのだろう。父さんはロックや水割りが好きな人だし、母さんだってバーとかあんまり行かないだろうし。

「そんなことないぞ。父さんだってたまには想太の作った酒が飲みたい」

「・・・泡盛飲んだ?」

 父さんがなんか素直だ。

「飲ませるわけないでしょ。でもまぁ、結構飲まされていたわね。私はほとんど飲んでいないし。想太、何か作って頂戴」

「何か作ってって」

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