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 何を作ろうかと思ったけど、結局はこれに落ち着いた。

「これ、覚えてるわ」

「あ、覚えてた?」

 どうかなって思ったけど、母さんは覚えているみたい。反応を見るに、父さんは・・・覚えてないかな?

「なんか、どっかの外国の街みたいな名前よね」

「マンハッタンね」

「そうそれ」

 二人の前に並んだ二つのショートグラス。一方には透明の、もう一方には赤い液体が満たされている。マティーニとマンハッタンは、カクテル界の王と王女だ。

「どうぞ、お召し上がりください」

 わざとに恭しく言った。このカクテルは修行時代、初めて二人に作ったカクテルだったから。

 ちょっとキザかもしれないけど、丁度練習していた時期でもあったし、カクテル界のサラブレッドに俺はなる、的な気持ちもあったような気もする。あの事は子供だったんだ大目に見てよ。

「想太」

「ん?」

 グラスから口を離した父さんが呼んだ。さっきまでフワフワとしていたはずなのに、しっかりとこっちを見て。

「上手くなったな」

「えぇ~父さんに分かるの?」

「分かるさ」

「あらそうなの? 私には良く分からないわ」

「母さんはあんまり酒を飲まないだろ。ほら、ちゃんと水も飲んで」

「確かに良く分からないけど、でも言われてみると昔に飲んだのより美味しい気がするような」

 しないような? 母さんのソレは当てにならないな。

「本当だってば。ね、父さん」

「うん」

 そう言ってまた父さんは頷く。でも今度は口角がうっすらと上がっているようで。

「そっか、良かった」

 なんとなく、誇らしかった。

「こっちへ来る機会はそうそうないから、今度家に帰って来たらまた作ってよ」

 帰り際、扉まで見送ると母さんがそう言った。

 酒を飲みにわざわざ来るってことはないのね。ま、頻繁に来られてもそれはそれで困るけどさ。

「しかたねぇな。息子が腕のいいバーテンダーで良かったね」

 母さんは鼻で笑ったけど、父さんはまた頷いた。俺も父さんほど素直だったら変わっていたかな。

「楽しみにしてるぞ」

「うん」

 次の帰省は・・・いつにしようか。

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