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「まったく、いつからそこにいたんだよ」

 まだ煩く跳ねる心臓を気づかれないように声を押さえて言う。ある意味恐怖だろ。こんな深夜にマッチョが部屋の前にいてただなんて。

「さてはビビってたわね」

「なにもビビってねーよ」

 なんてことない感じで答えるも、声が一瞬揺れた気がする。えぇい、そんなことよりもどうして家の前で待っていたりなんかしたんだ。

「何か用でもあったのか、メッセージじゃだめな何かとか」

 冷蔵庫からビールを二本取り出して一本をミケに渡した。パシュッと音を立てて開けると、落ち着かせるように勢いよく流し込んだ。

「別に、まぁ用ってほどでもなかったんだけど。はなちゃんがいたらな、と思って」

「ふぅん?」

 なんとなく元気がないミケの向かいに腰かけてその顔を覗き込んでみる。今はどうやらオネェでも男でもなく乙女モードらしい。缶ビールを両手で持ってなにか考えているような仕草だし。

 こういう時はいつも、片思い相手や恋人のことを考えている時だ。なにかあったのか?

「さすがはなちゃんね・・・」

「ミケと何年付き合ってると思ってんだよ」

 もう一二年以上経ったんだぞ? もうちょいしたら俺の人生の半分にはお前が存在することになるんだぜ? それくらい分かるってモンだろ。

「まったく、はなちゃん格は好いいわね」

「今更知ったのか?」

「昔はもっと子供っぽくて粗野だったもの」

 粗野って・・・そりゃ高校卒業したての子供だからな。言っとくけどお前もだから。

「あたしは昔から可愛かったわよ」

 どの口が。確かにあの頃はムキムキでもなかったし少年らしさの可愛げはあっただろうけど。

「あの頃から一番変わったのはミケだと思うけどな」

「え、そう?」

 そうだろ。ある意味根っこは俺たち何も変わってないかもしれないけど、ミケはゲイとして生きてきて、でも女の子を好きになって、悩んで考えて、答えを出して。今は幸せな日々を過ごしているじゃないの。

「変わったって言うか、進化? 進歩?」

「そうかしら?」

 ミケは小首を傾げて答える。でもその顔は少し赤くなっていて。

 進歩したのは、ゲイがノーマルになったとかそういう事じゃない。ましてや正常になったとかそういうことでもない。好きな人のことを想って傍にいられる、そういう関係を作れたってことだ。今までミケはそういう方面では苦労していたから。

 俺だって今のミケを見られて嬉しいのだ。

「で、上手くいってるの?」

 イツキちゃんは見た目ちょっとボーイッシュだけど気立ての良い可愛い子だし。ラブラブしていると思ってるんだけど。

「あぁ、うん」

 でもミケはそうでもないらしい。それが今日家を訊ねた理由?

「実はね、その・・・なんか上手く、いかなくて」

「上手くいってない?」

「いや、そういう事じゃなくて。えっと、その、女の子は・・・初めて、だから」

「・・・あー」

 いいともいいとも。話を聞こうじゃないか。俺たち、仲間だろう?

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