ネコのひげ
カゲトモ
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暗闇の中で手元の四角い明りだけが眩しく光った。
こんなに遅い時間に帰るつもりはなかったのに。今日はいつもより早くベッドに入れると思っていたけど、結局はいつもと同じらしい。朝から三本も映画を観たのにレイトショーまでしっかり居座ってしまったから。
今日は一日がびっくりするくらい短くて濃くて。でもやっぱりちょっと疲れたかな。上映中は一度も眠らなかったけれど。
「今日はシャワーでいいか」
軽くはない足取りで無機質なエレベーターのボタンを押した。絶妙なGを感じながら部屋へ向かう。
「・・・」
いつもそうだけど、深夜帯のエレベーターのこの静けさって何となく落ち着かない。何処かへ連れて行かれてしまいそうで。しかも今外灯の調子が悪くてなんだか薄暗いし。
あぁやだ、本当に夏は特に。ホラー特集の番組だって多いし。大体なんだよ、肝を冷やして冷感を得るなんて。霊感を得ちゃったらどうするんだって――
「んぐっ!」
息が詰まってビクンッと肩が揺れた。
エレベーターの扉が背中で閉まった音が聞こえた。扉が連なる薄暗い廊下の先に黒い塊が見える。気がする。
じっとりと全身に汗が滲んだのが分かった。
あり得ないだろ・・・
「ひっ」
見つめた黒い影がこちらに向かってぐるりと動いた。スニーカーの裏で砂を踏んだ音がした。逃げるにはどうしたらいい? 振り返って階段を駆け下りるしか。いやもしかしたら幽霊とかそう言うのじゃなくてガチの変質者って可能性もあるし、逃げ、逃げな「ちょっと」
「!?!?!?」
「はなちゃんっ」
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