第16話 いまじなりーかーす

 彼女の言う『僕の好きな姿』とは、この中二病の権化のような姿の事なのだと今更合点がいった。

 幼女なのはなんでか、ほんとにちょっとわからないが。…いや、ほんとうに…。


 眼帯を元に戻したノワールが、おずおずと左手を差し出してくる。

 僕はドキドキしながら彼女の手をそっと握った。

 なるほど、全然ゾワゾワしなくなった。


「うん、大丈夫みたいだ。ありがとうノワール」

「えへへ! 良かった!」


 うん、うん。いい笑顔だ。守りたい、この笑顔。

 さあしゅっぱ―…いやいや待てよ。

 そういえば僕の心臓に絡み付いてる呪い解けてないわ。


「あとノワール、僕に掛けた呪いみたいなの解いてくれない?」

「のろい???」


 きょとん、とノワールは僕を見上げる。


「いや、なんか急に心臓が痛くなったりする呪いかけてるでしょ?」

「そんなのかけてないよ!」

「えっ」

「確かに、アキから呪いの気配なんか一つもしないしね」

「えっ」


 妖精いわく、呪われている人間はその部位もしくは体全体からどす黒いオーラみたいなものが絶対に出るから、僕に呪いなどかかっていないのは確かだそうだ。


 しかたない…、ならばその呪いを発動させる…。

 この呪いの発動条件は分かっているのだ。


 発動すれば信じざるを得まい。

 その目にしかと焼き付けるがいい!! 僕の散り様を!!!


「俺の名は『漆黒の緋色を纏いし者』タカアキ・ヒイロ!!」


 僕は折角なのでポーズもビシッと決めて、二つ名付で名乗りを上げる。

 誰に対してでもないその名乗りは、虚しく空へと溶けていく。

 ぐあおおおおああああ! 痛い!! 恥ずかしい!!

 もう二度とやらない! 二度とやらないぞぉ!!

 複数の黒い腕が心臓に絡みついてくる!


 あっ! やめてっノワール!! あっ! あっ!! らっ、らめぇッー!!


「ノ、ノワール…ぼっ…僕の心臓に…君の腕が…」

「……? ノワール何もしてないよ???」

「ブホーッ!!」


 リーンは噴き出して、地面をバンバン叩きながら爆笑する。

 女の子って、なんで爆笑する時どこかを叩くのかな? 

 ほとばしる感情を抑えきれないのかな?


「えっ、いやあの…心臓から黒いオーラとか…」

「グッ…でッ…ごほっ、出てない…っ…えほっ、ぶふッ…」

「ええ……?」


 ちょっと待ってくれよ。呪いじゃないなら、この胸の痛みはなんなの?


「はーっ、はーっ…。こほっ。…恥ずかしさとか、思春期の痛みとか…自分に呪いがかかってるって、思い込んでるだけじゃないの?」

「で、でも実際に痛くて…」

「そりゃ痛いでしょうよ。思春期に創造したものを思い出すっていうのは、そういう胸の痛みを伴うものだろうし」

「嘘…だろ…?」


 これが、呪いじゃないなんて…。

 じゃあ僕は、解呪することもできないこの痛みを…一生背負っていくってことなの

か…?


「あっ、閃いた!」


 リーンがにやにやと笑う。うん、この顔は嫌な予感しかしない。


「な、なにを?」

「新しい二つ名、『空想の呪い《イマジナリーカース》を背負いしもの』タカアキ・ヒイロでどう? それとも『幻視の呪い《ファントムカース》を背負いし者』の方がいいかな~」

「!?」


 どっちも響きがかっこいい!!


「いやいやいや、僕は二つ名なんか使いたくないんだってば!!」

「ノワールももう一つ二つ名作る!!」

「作らなくていいよ!」

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