どうせ僕らは自殺する
ラーさん
第1話 人が一人死んだって止まるのは電車くらいで、世界が止まるなんてことは起こりやしない
人が一人死んだって止まるのは電車くらいで、世界が止まるなんてことは起こりやしない。
「飛び込みだ」
だから駅のホームに立っていたボクは、誰かが言ったそのセリフをあくびをしながら聞いていて、これで学校には遅刻してしまうなとぼんやり思うだけだった。
ゆっくりと停車した電車の前の方で、モップと雑巾とゴミバサミにビニール袋を持った駅員が十分くらいガサゴソと作業したあと、電車はまたゆっくりと動き出した。迅速な対応。手慣れたものだ。
「乗客の皆さん、無理な駆け込み乗車や飛び込み自殺などの行為は、電車の遅れとなりますのでお止めください」
満員電車にゆられながらそんな車内アナウンスを聞いていたボクは、そういえば「元カノも電車を止めたことがあったなぁ」となんとなく思い出す。彼女はボクの目の前でバラバラに弾け飛んだんだ。その日は彼女とのデートだった。ボクの横にいた彼女は不意にふらっと電車に飛び込んでバッと派手に吹き飛んだんだ。花火よりは汚いけれど、それなりにキレイだったように今のボクには思える。でもそのときは「どうせすぐに新しいカノジョが配給されてくるんだし」と、そのままデートの予定にしたがって映画を観て、帰りにファーストフード店の肉厚三段バーガーをコーラのセットで食べたんだった。つい三ヶ月前の話。新しく配給されてきた彼女はちょっとリストカットが多いけど、ためらい傷が多いから、ふらっと電車に飛び込んだりはしないだろうとか考えていたら、電車がまたゆっくり止まった。車内アナウンス。
「ただいま人身事故が発生しました。処理作業を行いますので、しばらくお待ち下さい」
窓の外に踏切が見えた。きちんとそろえられた靴が踏切のすみに並んでいる。また飛び込みだ。これで遅刻は確定。まったく、線路はすべて高架にしてほしいものだ。そんなことを思いながら、ボクは電車が動き出すまでの何分かをぼんやりとすごすのだった。
*****
「また遅刻?」
二時限前の休み時間に加賀見さんがボクの机にやってきた。ボクの今の彼女の加賀見さんは、手首がいつも包帯巻きでグルグルのリストカットな女の子だ。彼女はボクの机にそんなリストカットな手をついて、イスに座るボクを見下ろしている。
「うん。人身事故」
答えるボク。垂れた長い髪が邪魔だったのか、彼女はリストカットな手で髪をかき上げる。すると彼女の髪のいい匂いが鼻にかよったのでボクはうれしくなった。ボクは彼女の髪の匂いが好きなのだ。
「気持ちはわかるけど、こう毎日だと迷惑よね。自転車通学に変えたら?」
「それだとボクがふらりと車にひかれちゃうよ」
「それもそうね。今朝も二人、車につっこんだってホームルームで言ってたわ」
今日は二人か。比較的少ない方だ。
「また彼氏が変わるのも面倒だから、高橋くんはふらりと電車に飛び込んだりしないでね」
チャイムが鳴ったので彼女はそう言い残すと、ひらひらと包帯巻きのリストカットな手を振ってボクの席から離れた。
「そっちもね」
その手をよく見ると、包帯に赤茶の染みが浮いていた。
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