第97話 ホワイトデー編

本日、3月14日はホワイトデー。というわけで特別編です。

2月14日に投稿した88話の続きとなります。


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~ホワイトデー、菱谷編~


「菱谷、これバ……」

「バレンタインのお返しですか!?」

「うん、まぁ、そうだけど……良く分かったな」

「勿論です。今日はホワイトデー!先輩がチョコのお返しをくださるのかどうか、気になって一週間前から寝られませんでした!」

「そこは頼むから寝てくれ。じゃあ、これ……バレンタインのお返し」

「ありがとうございます。わあ!包装も素敵ですね。箱も、箱に巻かれているリボンも一生大事にします!」

「いや、それは捨ててくれ」

「クンクン。箱の中身はクッキーですね」

「中身を見ずに匂いだけで判別するとか、お前は警察犬か!」

「クンクン。もしかしてこれ、先輩の手作りですか!?」

「匂いだけで、何でそこまで分かるんだよ!ああ、手作りだよ。前に菱谷から貰ったチョコ。あれ手作りだっただろ?なら、俺も手作りで返すべきかなって……」

「嬉しいです!先輩!」

「ちょっ!やめろ!くっつくな!」

「クンクン……ですが、残念。先輩の髪の毛とか爪は入ってないみたいですね」

「前にも言ったけど、そんなものは絶対あげない!」

「もしかしたら、サプライズで入っている可能性もあると思いましたので……」

「そんな可能性は、金星に生命が居る確率よりも無い!」

「クッキーの隠し味に先輩の■とか、■とか、■■とかも入ってないのですね」

「そんなの、入れられるか!」

「私はチョコの隠し味に入れましたよ?」

「うっ!思い出したら、また吐き気が……おええええええ!」

「先輩?どうかしましたか?せんぱーい?」


~ホワイトデー、三島編~


「はい、由香里。これ、バレンタインのお返し」

「ありがとう優斗。中身は手作りのクッキーだね」

「えっ、何で分かったの?」

「優斗の事なら私は何でも知っている。過去の優斗の行動を参照すれば、優斗がこれからどういう行動を取るのかも分かるのさ」

「そ、そう……」

「開けても良いかな?」

「もちろん」

「ありがとう―――うん。素晴らしい出来栄えだね」

「初めて作ったんで、上手く出来たかどうかは分からないけどね」

「大事なのは気持ちだよ。優斗が私のために作ってくれた。その事が私はとても嬉しいんだ」

「由香里……(ジーン)」

「……優斗の初めてを私が食べるんだね……優斗の初めてを私が……」

「由香里さん?それ、クッキーの事だよね?」

「そうだよ。なんだと思ったんだい?」

「い、いや別に。(なんだろう?何故だか、とてもいやらしい意味に聞こえる)」

「では早速、優斗の初めてを食べるとしよう。いただきます(パクッ)」

「ど、どう?」

「凄く美味しいよ。ありがとう優斗」

「本当?」

「良かった!ほっとしたよ」

「優斗の初めては、確かに私が美味しく食べさせてもらったよ」

「う、うん。ところで……バレンタインの時に貰った由香里の等身大のチョコなんだけど……まだ頭の三分の二ぐらいしか、食べれてないんだ」

「大丈夫だよ優斗。慌てず、ゆっくりと、じっくりと、ねっとりと、いやらしく私の体(チョコ)を食べてくれれば良いさ」

「ゆ、由香里さん……やっぱり目が怖いです」


~ホワイトデー、ホーリー編~


「ホーリーさん、良かったら、これを」

「ユウト様。これは……もしや」

「はい。2月14日、バレンタインのお返しです」

「……」

「バレンタインの時は、ご迷惑をお掛けしました。なんだか、倒れてしまったようで……」

「……」

「実は、ホーリーさんの手作りチョコを食べた前後の記憶が無いんです。気付いたら、ベッドで寝ていましたから」

「……」

「ホーリーさん?どうかしましたか?」

「あっ、申し訳ありませんユウト様。ホワイトデーというものがユウト様の世界にあるとは知っていましたが、まさかお返しを頂けるとは思わず、嬉しくてつい、気を失っていました」

「そ、そうですか……」

「中身はユウト様の手作りクッキーですね。是非、此処で食べてみたいのですが……よろしいですか?」

「はい、どうぞ(何で中身がクッキーって分かったんだろう?)」

「ありがとうございます。では、包装を解きますね。ふむ、この箱とリボンは……」

「ああ、それは捨ててもらって大丈―――」

「『聖なる物』として、協会本部に飾ります」

「ええ!?」

「では、ユウト様が作られたクッキーをいただきます(パクッ)」

「どうですか?……って、ホーリーさん?泣いているんですか?」

「ユウト様。私は今、奇跡を体験しました」

「き、奇跡?」

「天にも昇る無限の愛。私はそれをユウト様から頂きました」

「え、え~と」

「ユウト様、私は決めました」

「な、何をですか?」

「本日、3月14日を『奇跡の日』とします。そして、この食べかけのクッキーを『奇跡の食べ物』として世界中に広め……」

「やめてください!!」


~ホワイトデー、アイビー編~


「アイビーさん。これ、良かったら……」

「これって……」

「クッキーだよ」

「もしかして、アンドウ君の世界で3月14日に行われる自分にチョコを渡した人にお返しをするって言うイベント?」

「う、うん。良く知ってるね……」

「ありがとう……とても、嬉しいよ!……あれ、もしかして手作り?」

「初めて作ったから、上手く出来てるか分からないけど……」

「大丈夫だよ!前に私がチョコを渡した時にアンドウ君、言ってくれたじゃない!『どんな味かなんて関係ない。アイビーさんが俺のために一生懸命作ってくれたことが嬉しいんだ』って!私もアンドウ君が私のために一生懸命作ってくれたのが嬉しいんだよ!」

「よく覚えてるね」

「当たり前だよ!アンドウ君の言葉は、一字一句忘れないよ!」

「そ、そう……」

「此処で食べても良いかな?」

「うん、どうぞ」

「ありがとう。それじゃあ、いただきます!(パクッ)」

「どう?」

「美味しい。凄く美味しい」

「それは良かっ……」

「アンドウ君が作ったクッキーが私の中に……アンドウ君が作ったクッキーが私の中に………」

「ア、アイビーさん?大丈夫?顔が真っ赤……」

「アンドウ君が作ったクッキーが私の中に、アンドウ君が作ったクッキーが私の中に、アンドウ君が作ったクッキーが私の中にアンドウ君が作ったクッキーが私の中に、アンドウ君が作ったクッキーが私の中に、私の、私の、私の、私の、私の、私の、私の、私の、私の、私の、私の、私の、私の、私の、私の、私の、私の、私の、私の、私のおおおおおおおおおお!」

「アイビーさん!?」

「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

「アイビーさん!?……ダメだ。また凄い速さでどこかに行ってしまった」


~ホワイトデー、ハナビシ編~


「ハナビシさん。良かったらこれ……前に頂いたチョコのお礼です」

「ああ、ありがとうアンドウ……嬉しいよ」

「大丈夫ですか?体調でも?」

「いやな。前に私がお前にやったチョコ……くそマズかっただろ?」

「―――ッ!そ、それは……え~と」

「やっぱり、そうか……」

「あっ、いや……すみません」

「アンドウが謝る事は何もない。悪いのは味見をしなかった私だ……」

「ハナビシさん……」

「実は、まだアンドウに渡し忘れていたチョコがあってな……もう一度渡すのもアレだったんで、それは自分で食べたんだ。そしたら、あまりのマズさに吐いたよ」

「あっ……」

「あんなクソまずいチョコを私は沢山お前に食わせちまった。お前の優しさに気付かないで私は……私は……うっううう」

「あ、あの……」

「私は、お前の手作りクッキーを受け取る資格なんてないんだ……私なんて……私なんて……うっううう!」

「ハナビシさん!大丈夫です!」

「……アンドウ」

「自分を責めないでください。俺は気にしてませんから!」

「でも……でも……」

「味なんて、どうでも良いんです!ハナビシさんが俺なんかのために手作りチョコをくれた。それが、とても嬉しかったんですから」

「ア、アンドウ……!」

「だから、泣かないでくだ……ぐえ!」

「お前は……お前はなんて優しい奴なんだ!(ギュウウウウウウ)」

「ハ、ハナビシ…さん…く、苦し……」

「何回私を惚れ直させれば気が済むんだ!馬鹿野郎おおおお!」

「(し、死ぬ!……胸に押し潰されて息が出来ない!それに背骨があああ!)」

「愛してるぞ!アンドウウウウウウ!」

「ぐべっ!」


~ホワイトデー、クロバラ編~


「キキョウ。異世界にはホワイトデーというイベントがあるそうだよ」

「どんなイベントなのですか?」

「バレンタインにチョコをくれた人にお返しをするイベントなんだってさ」

「それは……」

「クックック。言いたいことは分かるよ。チョコを渡してないんだから、彼からお返しを貰えるはずないよね」

「クロバラ様。何故、チョコをあの人間に渡さなかったのですか?」

「……」

「貴方様は人間の血を飲めば、その人間になる事が出来ます。血を吸った人間の中に菓子職人が居るのですよね。その人間になれば、極上のチョコが作れたのでは?」

「実はね。チョコ自体は作っていたんだ。その菓子職人になってね」

「そうなのですか?」

「うん。キキョウの言う通り、特上のチョコが作れたよ」

「では、何故チョコを渡さなかったのですか?」

「少し、考えてしまったんだよね。このチョコは果たして『私の手作り』と言えるのだろうか?とね」

「どういう事ですか?」

「つまり、チョコを作ったのは『私』ではなく、『私が血を飲んだ菓子職人』じゃないかと思ってしまったのさ」

「……!」

「僕は他の生き物の血を飲むことで成長してきた。人間や他の魔物の血を飲む事で力や知識を得てきた。だから僕は、他の生き物の血を吸って得た力や記憶は、全部自分のものだと考え、悩まなかった」

「……」

「だけど、チョコを作り終えた時、初めて思ってしまったのさ。『このチョコは自分が作ったと言えるのか?』ってね」

「クロバラ様……」

「キキョウはどう思う?『血を吸った人間の知識を使い、血を吸った人間の肉体に変身して作ったチョコは果たして、私が作ったチョコと言えるのか?』」

「……申し訳ありません。私には分かりません」

「クックック。別に良いよ。答えられなくても。というか、これは明確な答えのない問題なんだ」

「明確な答えのない問題?」

「こういう問題を『パラドックス』と言うらしいよ。面白いでしょ?」

「……」

「ま、渡せなかったものは仕方ない。来年の2月14日、彼にチョコを渡せるように頑張ってみるよ」

「……クロバラ様!」

「ん?何だい?」

「例え、貴方様が何者であろうとも、私は永遠に貴方の配下です。それは、未来永劫変わる事はございません」

「ふっ、当然だよ。何せ、君は僕が最も信頼する部下なんだからね」

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