慌て者の黒騎士のお話 2

 さて子供たち、よくお聞き。慌て者の黒騎士のお話を。



 ある日ある時ある場所で、慌て者の黒騎士は小鳥の歌を聞きいたとさ。

 小鳥がさえずり言うことにゃ、


「険しい険しい崖の上の、

 古い古いお屋敷に、

 お姫様が捕らわれて、

 石のベッドに石の枕、

 横たえられて眠ってる。

 ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」


 慌て者の黒騎士は、早速さっそく直様すぐさま逸早いちはやく、立派なマントを翻し、颯爽と青毛に飛び乗って、早う早うと馬煽り、勢いよろしく走らせて、野を越え山越え谷越えて、駆けに駆けたるその末に、遙かに見えた白い崖。

 逸る気持ちにせかされて、岩に飛びつき割れ目を掴み、

「上へ上へ」

 とよじ登る。  

 自分の声に急かされて、黒騎士はゆっくり早足駆け足と、勢い上げて突き進む。

 眼前迫る長上に、

「止まれ」

 の一声言い忘れ、全速力の勢いで、崖のてっぺんに飛び上がる。


 慌て者の黒騎士は、屋敷を探して右左、辺りを見回すそのために、マントなびかせ背伸びする。

 びゅうと風吹き風はらみ、マントはなびいて膨ららんで、バタバタ震えてそのうちに、煽られ飛ばされ黒騎士は、谷の底へと落ちたとさ。



 さて子供たち、よくお聞き。慌て者の黒騎士のお話を。



 ある日ある時ある場所で、慌て者の黒騎士は小鳥の歌を聞きいたとさ。

 小鳥がさえずり言うことにゃ、


「暑い暑い砂漠の果ての、

 高い高い砂山に、

 お姫様が捕らわれて、

 石のベッドに石の枕、

 横たえられて眠ってる。

 ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」


 慌て者の黒騎士は、早速さっそく直様すぐさま逸早いちはやくくろがねよろいを身につけて、颯爽と青毛に飛び乗って、早う早うと馬煽り、勢いよろしく走らせて、野を越え山越え谷越えて、駆けに駆けたるその末に、遙かに見えた砂の原。

 逸る気持ちにせかされて、砂地に飛び降り砂面を走り、

「前へ前へ」

 とひた走る。  

 自分の声に急かされて、黒騎士はゆっくり早足駆け足と、勢い上げて突き進む。

 眼前迫る砂の丘、

「止まれ」

 の一声言い忘れ、全速力の勢いで、小山のてっぺんに飛び上がる。


 慌て者の黒騎士は、砂山を探して右左、辺りを見回すそのために、鎧を軋ませ背伸びする。

 雲無き空と砂地から、太陽熱波が照りつけて、汗をだくだくそのうちに、蒸して渇いて黒騎士は、倒れて砂に飲まれたとさ。



 さて子供たち、よくお聞き。慌て者の黒騎士のお話を。



 ある日ある時ある場所で、慌て者の黒騎士は小鳥の歌を聞きいたとさ。

 小鳥がさえずり言うことにゃ、


「荒れた荒れた海果ての、

 小さな小さな島の小屋に、

 お姫様が捕らわれて、

 石のベッドに石の枕、

 横たえられて眠ってる。

 ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」


 慌て者の黒騎士は、早速さっそく直様すぐさま逸早いちはやく、立派な長槍ひっ抱え、颯爽と青毛に飛び乗って、早う早うと馬煽り、勢いよろしく走らせて、野を越え山越え谷越えて、駆けに駆けたるその末に、遙かに見えた岩の島。

 逸る気持ちにせかされて、海に舟出し嵐の中を、

「前へ前へ」

 と漕ぎ進む。  

 自分の声に急かされて、黒騎士はゆっくり早足駆け足と、勢い上げて突き進む。

 眼前迫る島の岸、

「止まれ」

 の一声言い忘れ、全速力の勢いで、岩場のてっぺんに飛び上がる。


 慌て者の黒騎士は、小屋を探して右左、辺りを見回すそのために、長槍立てて背伸びする。

 黒雲雨雲裂け目から、ぴかりと光った雷鳴が、尖った槍のその上に、めがけて落ちて黒騎士は、打たれて海に落ちたとさ。



 さて子供たち、よくお聞き。慌て者の黒騎士のお話を。



 ある日ある時ある場所で、慌て者の黒騎士は小鳥の歌を聞きいたとさ。

 小鳥がさえずり言うことにゃ、


「遠い遠い国境の、

 可愛い可愛い離宮に、

 お姫様が住んでいて、

 綿のベッドに羽根の枕、

 横たえられて眠ってる。

 ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」


 慌て者の黒騎士は、早速さっそく直様すぐさま逸早いちはやく、豪華な衣裳を身に纏い、颯爽と青毛に飛び乗って、早う早うと馬煽り、勢いよろしく走らせて、野を越え山越え谷越えて、駆けに駆けたるその末に、遙かに見えた小宮殿。

 逸る気持ちにせかされて、御門を駆け抜け扉を抜け、

「前へ前へ」

 と突っ走る。  

 自分の声に急かされて、黒騎士はゆっくり早足駆け足と、勢い上げて突き進む。

 眼前迫る大広間、

「止まれ」

 の一声言い忘れ、全速力の勢いで、ひな壇のてっぺんに飛び上がる。


 慌て者の黒騎士は、姫様探して右左、辺りを見回すそのたびに、衣裳の袖裾広がって王様王妃の頬を打つ。

 王様怒って兵を呼び、ぞろぞろ出てきた兵隊が、無礼者ぞと取り囲み、捕らえられたる黒騎士は、十三階段絞首台から落ちたとさ。



 さて子供たち、よくお聞き。辻の立木につり下がるかごの話を。



 黒い髪の毛ばさばさと、目玉の跡は黒い穴、くろがねくさりで縛られて、真っ黒タールを塗り込まれ、真っ黒かごに入れられて、あちらの山風、こちらの海風と、忙しく揺れ回る黒騎士の、髑髏どくろの中には五色鶸ごしきひわ

 小鳥がさえずり言うことにゃ、


「白い白い頭蓋ずがいの底の、

 丸い丸い巣の中に、

 可愛い五つの卵が、

 わらのベッドに葉っぱの枕、

 横たえられて眠ってる。

 ピーチクピヨピヨ、ルルルルル」




 はい、このお話は、これでお終い。

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