短編集

teru

完璧な恋人

 とある病院の一室、恋人に看取られながら一人の女性が最後の時を迎えようとしていた。


「泣かないで雄一」

「君を失ったら、僕はお終いだ……」

「そんなことはないわ。あなたならきっと……」

「死ぬな! 死ぬな美里!」


 男の叫びも虚しく、握りしめた彼女の手からゆっくりと力が抜け、その目は永遠に閉じられてしまった。


「美里! 美里! ああなんということだ……」


 恋人の死を受け入れきれない雄一は彼女の髪を少し切り、それを持って姿を消したのだった。


「彼女が居ないと僕はもう……そうだ、彼女さえいれば! 彼女の笑顔を僕がもう一度作るんだ!」


 狂気に取り憑かれた男は自らの研究室に閉じこもり研究を始めた。

 彼女を蘇らせる為、採取した彼女の毛髪から精巧な彼女のクローンを作り上げた。

 しかし男はそれで満足しなかった。


「駄目だ。こんな脆い体ではまた死んでしまうかもしれない!」


 もっと高い免疫力を、もっと強い肉体を、そう求めるうちに男の研究は次第にエスカレートし、もはやそれは改造の域にまで達していた。


「ついに……ついに完成した! 僕の完璧な美里っ!」


 培養槽の中で美里は生前の美しい姿のまま眠りについていた。

 雄一は最終調整を済ませると培養液の排出ボタンに手を伸ばした。


「さあ美里、目覚めの時間だ」


 美里の人格と記憶データは既にインプットしてある。

 彼女が目覚めれば雄一を恋人と認識し、在りし日のあの笑顔をまた見せてくれるだろう。


「美里……」

「ユウ……イチ……」

「そうだ僕だ! やったぞ成功だ!」


 感極まった雄一は美里をぎゅっと抱きしめた。


「ユ……ウイチ……オナカ、スイタ」

「ああ、ああ! なんでも食べさせてやるぞ!」


 次の瞬間雄一は腹部に激痛を感じた。

 見ると美里の腕が雄一の腹部に突き刺さっている。


「……え?」

「ユウイチ、オイシ……ソウ」


 それが雄一の聞いた最後の言葉だった。

 あらゆる生物の遺伝子を組み込み、非人道的な改造の数々を施したそれは最早人とは呼べない何かになっていた。


「アァ、オイシカッタ」

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