PAGE.409「消えた聖剣の行方(後編)」


「私と友の前に現れたその少年はワタリヨと名乗った」

 千年前の。彼との出会いを王は語る。


「この世界の常軌に捕らわれぬ存在。世界の観測者であると口にした少年は、我々に精霊皇の剣と新しい世界を授けてくださったのだ……以後、私は友の手を借りて国を創り上げ、戦争が終わっても尚、この世界を守護し続けてきたのだ……争いを好まぬ、心を持つ者達のために」

 それは気まぐれだったのか。それとも使命だったのか。

 ワタリヨの目的は分からない。だが、彼がこの国を作ったも同然であった。


「ワタリヨと別れたのはこの国が出来上がってからの事だ。彼はこの国にフォドラという名を与え、姿を消した」

 フォドラと呼ばれる国が生まれたルーツ。不可能が可能となった奇跡のお話。

 彼は世界の歴史が大きく変動するような干渉だけは行わない。

こうして争いへの苦しみから解放されたいと願う者達を別の世界へと閉じ込めることには何の歴史的変動も起きないと思ったのだろう。

 今も、このフォドラと呼ばれる国のことは外の世界には知られていない。世界に大きな波紋を生み出した記録も残っていないのだ。


「……一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか」

 フリジオは片膝を地につけ、頭を下げ突然の問いを詫びる。

「私は、精霊騎士団のフリジオと申します」

「ほう……精霊騎士は今の時代も存在するのか」

「左様でございます」

 外の世界に干渉こそしなかったが、国が出来てすぐは外の事情を探っていた。魔族界戦争終期、そして終末後の数年の出来事はロードも把握している。

精霊皇が戦いの決着をつけるべく用意した“人間を器とした最強の戦士”。精霊騎士の登場により、魔族界側は壊滅寸前にまで追いやられた。

秩序を守る者。精霊騎士。

若き戦士は無礼を承知で問いを投げかける。

「貴方の友と呼ばれる者……微かではありますが、私は耳に通したことがあります……教えていただけないでしょうか。その騎士の名前を」

 一度、王は顔を渋らせた。だがやがて、王はその名を口にする。

「“カルナ”。それが我が友の名前だ」

「カルナ……ああ、やはり」


 その名を聞いたフリジオは納得したようにうなずいた。


「知ってるのカ?」

「魔族界戦争の真っ只中、魔法を駆使し延命し、数多くの戦士を輩出した一族が存在したと記録が残されていてね……その中でも有名な戦士の名前がカルナだ。だが、彼は戦争の最中、行方不明になって戦死したとされていたのさ」

 偉人。という括りで名前が残されるほどの英傑だったようだ。

 英雄カルナ。男は突如戦場から姿を消し、その名を歴史に刻み消え去ったと。

「ワタリヨって人が剣を持っていたって話をしたけど、もしかして」

「ああ、それが精霊皇の剣だ」

 コーテナの質問に首を縦に振る。

「彼はその剣を使い、魔法世界に大きな亀裂を作り上げた。その亀裂こそがこのフォドラだ……剣はこの世界の鍵であり、心臓のようなもの」

「それは今どこに?」

「カルナの手の元だ」

 カルナが持っている。王はそう口にする。

「ん、ちょっと待て。そのカルナって奴は魔法で延命こそしているが人間なんだよな? こう、数百年近く長生き出来るものなのか?」

 スカルの言う通りであった。

 魔法による延命の技術がこの世に存在することは聞いたことがある。ごく一部の一族だけがその力を駆使し、長い歴史の間、この世にその身を居座らせていた。

 しかし、それはあくまで一時的な延命。魔力のコストやその体力の限界も含め、百年以上は軽く生きられても千年近くまで生き残ることは不可能である。人間という身である以上、やはり限界はある。

「無理、だよね……?」

 話を聞く限りではカルナは千年前の人間。既にこの世には存在しないはずである。

「……カルナは私たちの国を守るために戦い続けていた。最初の頃は結界も完全ではなく、ここに迷い込む人間と魔族は沢山いた。彼は来訪者から我々を守るために剣を振るい、外敵と戦い続けていた」

 桁違いの魔力を持つ者。結界の影響を受けぬ者。

 確立こそ低いが、この大地へと迷い込むイレギュラーはここ数百年で何度も現れることはあった。どれもスケール違いの強敵だらけで、英傑と呼ばれたカルナの手を借りなければ、対処は難しいものがあった。

「しかしある日……カルナは姿を消した。それ以降戻ってくることはなかった」

 数百年という時を得た。

 その最中、カルナは突如として姿を消したのだという。

「原因は分からない。だが裏切ったとも思えない……君達が探している剣はカルナの手に残ったまま……行方が辿れぬ以上、その剣の場所は分からぬ」

「そんな……」

 一難去ってまた一難。再び壁と衝突する。

 精霊皇の剣の行方は知れたものの、そこから先は暗中模索でしかない。何処に行ったかもわからない男を探し出さなければならないという新たな課題が生まれたのだ。


「……私がこの国を守りたいと同じで、君にも守りたいものがある。少しだけ時間をくれ」

 ロードは胸の手を当て、約束を交わす。

「今一度、カルナの行方を探るとしよう」

 行方不明となった友を探す。

 この国の為。そして来客であるラチェット達の為。王としての責務を果たす、と。

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