PAGE.393「3本の【滅魔之剣】(後編)」
“剣は王族以外の人間に触れる事は出来ない”
他の人物がやっても同じであることを宣言しておく。
この剣は所持者として認められた者にしか扱えない。例えそれが、精霊皇の器であろうとも変わらない。この剣は盟約として“ファルザローブ”の血を通わせる者にしか使えないのだ。
「……さっき、王族の血を通うものにしか扱えないって言ってたよナ? なんでお前は持てるんダ」
「簡単です。私も……多少ではありますが、王族の血は通っているのです」
エーデルワイス・レッドクレーン。
彼の家系はファルザローブの一族とは親戚に属するとのことらしい。ほんとに些細ではあるが、この剣を扱うに適した人間である条件はクリアしているということだ。
「……今の騎士団長はアイツだろ。なんでお前が持てル?」
「それは」
エーデルワイスの口が歪む。
「しっかりと事実は伝えるものですよ。エーデルワイス」
クレマーティは動じるエーデルワイスの事など案ずることなく口にする。
「現騎士団長であるルードヴェキラ・ファルザローブ……今の彼女は、その剣を使用するに値しない存在であるという事を」
剣を使用できる人物ではない。当然ラチェットはその言葉に対し、新たな疑問を浮かばせる。
「おい待て。王族の人間なら誰にでも使えるんじゃないのカ?」
「王族により与えられた剣。その剣は史実ではこう残されている……“精霊皇に並ぶ存在へと導くための聖剣”である。とね」
精霊皇に並ぶ存在になる。またも常識を覆す。
「故にその剣を扱える者には、それ相応の“力”を持つ者を必要とする。確かにその剣そのものには魔力は籠っていない。しかし使用するのに“魔力”を必要としないとは言ってないのです」
その剣は使い方次第では世界の万物の概念を覆す。この世界の全てを変革させかねない存在となる。それだけの“鍵”を手にするとなるならば、それに適した力を持つ者かどうかを見極めるという第二の試練が待っている。
「その剣を扱えるのは力ある者のみ。もしその力を手にしていないのならば……」
握りこぶしを作り、クレマーティはその場で優しく開く。
「最悪の場合、手にした者は“塵”となって消える」
剣の試練を受け止め切れなかった者は、その奔流に体が耐えきれず消滅するという。この剣には強靭な力と肉体を求められるのだ。
ラチェットはゾッとした。
すぐに手放したから。エーデルワイスが直ぐに剣を引っ込めたから大事には至らなかった。もし本腰入れてその剣を握っていたならば、普通の人間は粉々に消し飛んでいたのだという。
……この剣を振るったエーデルワイスの事を思い出す。
地下遺跡。サーストンの斬り合いで確かな歯ごたえこそ感じはした。しかしその途中でエーデルワイスが突然苦しみだし、一瞬にして蹂躙されてしまった。
あの苦しみは、それを意味していたのだ。
「ここしばらくで剣を扱えたのは、前騎士団長であったグラジオラス様。そして、今そこにおられるファルザローブ王……“グロリオス”様でございました」
今、玉座で腰掛けている王。その名はグロリオス。
ルードヴェキラ、そしてグラジオラスの歳の頃には彼もまた精霊騎士団の団長として団員とエージェント。数多くの組織と共に世界の平和を守ってきたのである。
「ですが、グロリオス様は見ての通りご老体。グラジオラス様は行方不明と……」
クレマーティの目つきが鋭く、ルードヴェキラを睨みつける。
「結果、その剣はルードヴェキラ様の元へ行きついたのです。しかし……彼女はまだ若すぎた。それだけではなく歳の半ばで体も女性。何もかもが至っていない彼女が扱える代物ではなかった。王族の一人、七光りの分際では」
「クレマーティ! 口を慎んでください!」
その言葉。王を前にしようと絶えない“無礼”。それを前に従者であるエーデルワイスが黙っているはずもない。
「ルードヴェキラ、貴方の覚悟はお遊、」
「いい加減にしろよ、テメェ」
クレマーティの言葉よりも先に。
肉の潰れる音が。骨にヒビが入ったような音が先に響く。
握り拳。一筋の拳がクレマーティの頬に減り込んでいた。
「……ッ!」
クレマーティは朦朧としながらも堪える。突然飛んできた怒りの拳を。
「それ以上言ってみろよ無礼者」
“サイネリア”からの奇襲を。
「そこから先を言えば、私はお前を“晒し首覚悟でぶっ殺す”」
気だるげな。生意気な。だけど、たまに筋の通っている瞳が。その日、見せた事もない殺意に満ち溢れた姿を見せていた。
……静まり返る玉座の間。
どうすればよいモノかと焦りだすコーテナ達。クレマーティの失言やサイネリアの我慢の限界。精霊騎士団達も頭を抱えている。
王もいつにもない瞳を浮かべている。この神聖なる玉座の間でこのような事が起きれば、一族の誇りを一番大事とする立場である彼が動かないはずもない。
何より一番辛そうにしていたのは……自身の代わりに怒る従者と友、そして失望され切っている部下の存在。
自分の至らなさに、自身を殺したくなるほどの悔念をルードヴェキラは浮かべていた。
「あ! そういえばさ! 剣はあと一本あるってことじゃないの!?」
この空気を打破しようと動き出したのはスカル。
「それを探しちまえばいいんじゃないか!? なぁ!?」
気持ちは分かる。この冷え切った空気をどうにかしたいのは分かる。
しかし、あまりにも暴挙ではなかったのかとラチェットは頭を抱える。
気持ちは分からなくはない為に余計に何にも言えなくなる。どうしたものかとラチェットは溜息を吐いた。
「……無理だと思いますよ」
その空気の中、クレマーティは口を開く。
「何せ、その最後の一本の所持者とは」
精霊皇の同胞。史実に残されたその名を口にした。
「“ワタリヨ”のことですから」
次元の観測者・ワタリヨ。
存在していたかどうかも定かではない“空想上の存在”と言われている人物の名前であった。
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