PAGE.371「災獣躍進」
巨大な爪痕。大きなクレーター。ところどころに発生している地割れに砂埃。
その景色は遠目で豆粒程度にしか見えないが、今、その先で起きているのが何事なのか。その騒々しさが何なのかそこからでも伝わってきてしまう。
「アレが……次の、敵がやった……」
現に今も尚、“現在進行形で大地が荒れ続けている”。
ところどころで爆弾が起動したかのように地面から砂の間欠泉。時折、地面から顔を出すのは棘にまみれた土の柱。大地の悲鳴がそのまま形となって現れたようだ。
「……なんか分からねぇガ、とんでもねぇのがいる見てぇだナ」
ラチェットはその場に落ちてある双眼鏡に手を伸ばす。双眼鏡を拾い上げると、覗き込んでから最大までズームする。
王都で開発された双眼鏡の中でもかなりの距離を監査出来る代物だそうだ。魔物退治など主に一部騎士団と組織に配布されている公式型。おかげで距離は遠すぎても景色の映像がくっきりと見える。
「王都の騎士達。魔法使い。あぁ、戦ってル」
荒廃する大地に映り込む騎士と魔法使い達。
「あっ」
そこには見慣れた戦士の姿もある。
光の魔法を駆使するエージェント。巨大な剣を小柄な体でながらも豪快に振り回すエージェント。見慣れた白いフードの二人組が最前線で騎士達の援護に回っている。
「シアル! ミシェルもいる!!」
シアルとミシェルヴァリーだ。
「皆いる!」
しかも、最前線で援護に回るのは彼等だけではない。
身長二メートル以上の巨身。ミシェルヴァリーと共に豪快にハルバードを振り回す王都のガーディアンことディジー。
離れた位置。王都の門付近からは“水の刃”を発射するアーチャーのプラテナス。王都でも有名なメンツが揃いも揃って駆り出されている。
「一体何が……」
あのメンツが揃っていながらも苦戦を強いられている状況。大地に転がる騎士と魔法使いの遺体はあまりにも多く、敵に向けて用意したであろう投石車や騎馬など用意できる限りの戦力はほとんどが滅茶苦茶に破壊されている。
これだけの大被害。及ぼせる敵がいるとなれば思い当たる節は一つ。
「来やがったのカ……ここにも!」
“地獄の門”。
精霊騎士団やグレンの戦士達、そしてギルドの有名人達含めた最高戦力の中、そこへ精霊皇と魔王の力を持った二人を加え、とことんゴリ押しにゴリ押しを重ねてようやく敗北を与えることが出来た“炎の闘士・アーケイド”に並ぶ存在。
「敵は……ッ!」
双眼鏡でその標的を視認する。
「なっ……なんだぁ、ありゃァッ!?」
「ラチェット! ボクにも見せて!」
呆気に取られていたラチェットから双眼鏡を取り上げると、コーテナもその大災害の原因が何者なのかと覗き込む。
「……何あれッ!?」
コーテナも目に映ったその標的を前に驚きの声を上げる。
___双眼鏡に映り込んだ敵。
それは龍というにはあまり美しさもなく、蛇というには鋭さのない巨大かつ絶長な身を持つ禍々しい生き物。
しかし、その生き物は龍の皮膚のように固い装甲な肉壁を身に纏い、蛇のように暴れだしたら止められる気配も見せない獰猛さを見せる。暴れ回るだけで大地一つに次々とヒビ割れとクレーターを作り上げる超絶巨大な“魔物”。
「デケェ“蟲”……?」
芋虫。数千本の牙を持った超巨大なワーム。
地面に災害を与えているのは、見ているだけでも虫唾が走りかねない不気味の塊でしかない魔物であった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数時間後。グレンの島の住民たちを乗せた船は王都の停着所へと無事到着。ラチェット達が使用している精霊皇の飛行艇・ロストガルドも漂着した。
一人一人、長旅の疲れを感じながらもグレンの住民たちは騎士の案内を受けて先へと進んでいく。そのまま避難所及び移住施設へと案内するようだ。
ここへ来るまでに何らかの問題もなく、無事グレンの住民たちを送り届けることには成功した。ひとまずのロザンとの約束は果たすことが出来たのである。
住民側の飛行船の仕事が終わったところで、ラチェット達も船から降りていく。
「皆様、お疲れ様です」
すると、そこには見慣れた顔が一つ。
「あっ! エーデルワイスさん!」
「お久しぶりです。コーテナさん」
従者の騎士エーデルワイス。一年半前と変わらない爽やかな笑顔でコーテナのことを歓迎してくれる。そこには魔王の器などという壁もなく、いつもと変わらない仲間としての温かさがあった。
「……おかえりなさい、フリジオ」
「はい、ただいま戻りました」
一年半の滞在。久々の王都を前にフリジオは懐かしい空気と懐かしい面に向かって、お辞儀をして挨拶を返す。
「僕がいない間に街も綺麗になりましたね……騒がしくもあるそうですが」
「はい、帰ってきて早々申し訳ありませんが」
「ゆっくりしている暇はなさそうですね。手紙通り」
ラチェット、そしてコーテナ。ロストガルドに乗っていたメンツ全員は双眼鏡を使ってその状況を一度目にしている。
___禍々しい超巨大生物。
人間一人など塵にも同然に見える化け物。島一つ飲み込もうとしたアーケイド程ではないが、その大きさは“魔物”にしてはあまりにも規格外の生き物である。
「騎士団長、そして国王様がお待ちしております」
予感。凍る背筋。
王都は今……手には負えない大災害に飲み込まれようとしていた。
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