【第13部 ~ エピローグ~ 】
魔族界。魔王城。
次第に復活の時に近づき始めている“滅ぼされた世界”。かつて、王が封印された宮殿は時を得て、魔族界全てを牛耳る要塞へと姿を変えた。
人間界と違い、天候に環境、その全てが生き物全てに悪影響の世界。黒の砂嵐が飛び交い、空には太陽の日差し一つ浮かばない。荒廃を繰り返し、黒の魔力が立ち込めるこの世界には、屍のようにフラつき生きる“魔物”がウロチョロと這い回る。
まさしく、人間が生き残ることなど出来ない世界。魔族という存在にとっては楽園とも呼ばれる世界の完成が近づいていた。
これは賞賛の時。これこそ賛辞の時。
蘇りつつある世界の完成に。全ての魔族が喜びを分かつときなのだ。
……しかし、魔王城の玉座の間。
そこに集うのは数名の“闘士”。地獄の門と呼ばれる魔族にて最強の魔王直属にわたる幹部の数名がそこへ集う。
「アーケイドがやられました」
マックス。最も魔王の元へ近かったとされている魔族の一人。
体全身を包み込む黒い装束に黒の覆面。見た目だけは影そのものともいえる魔族が足に地をつけ、玉座に腰掛ける人影に向かって頭を下げている。
その場にいるはマックスだけではない。
蝋燭のみで照らされた薄暗い玉座の間には、他にも数名の闘士が佇んでいる。
「……アーケイドがねぇ」
玉座の間には、青年らしき声をした何者かが座っている。
「アイツは俺に対して忠誠こそ誓っていたが、その胸の内にはこの世界の全て、そして何れは次元を超えたその先の世界全ても征服し、究極の王になろうとする野望があった。その思惑、実に面白く壮大だった」
アーケイドは魔族界でも有名な王であった。秩序も何もない魔族界という世界で一国を作り上げ、そこから制服を繰り返し独自の大群を作り上げた。
そのカリスマ、そして強さ……魔王直属の幹部としてはあまりにも上出来な逸材であったと“魔王”らしき人物は語る。
「はっ!」
ところが、その矢先。
「自分勝手やっておいて満足に散りやがったってことか! この”俺の何の役に立たずに無駄死に”しやがって……口だけの虫けらがッ!!」
その場で足を組み、アーケイドの死を罵倒する。
無駄死に。その死は自身の何の役にも立たなかったと言い放ったのだ。
「……マックス、そしてお前達」
罵倒の目つきは、他の闘士へと向けられる。
「お前達は俺の役に立って死んで行けよ? アーケイドなんて虫ケラみたいに無駄死にするような連中だっていうんなら……目障りだから、今ここで死ね。今すぐに。俺に無様な姿を晒させる前に地獄に落ちろ」
「……どうかご安心を」
マックスはどれだけの罵倒を受けながらも頭を上げず、態度も変えない。
「我々は彼と違い、必ず貴方のお役に立ってみせましょう」
その忠誠心を。魔族界戦争が始まって千年。そして終わってからの千年近い年月も変わらないその忠誠心を、彼へと表してみせた。
「じゃあ、こんなところで油売ってないでとっとと行けよ。俺が数え終わるうちにとっとと行け。いいな?」
「御意」
数字を数えるよりも先に、地獄の門はその場から立ち去っていく。
慌てる様子も見せずスマートに。魔王の気持ちを逆なでしない最高のスタンスを見せつけたのである。
「……役立たずが」
”魔王と思わしき人物”は、そんな彼らの姿に舌打ちをした。
【第13部 完】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます