PAGE.334「予言されたヒーロー」


 王都ファルザローブ。

 数年前、水の闘志ウェザーにより一部壊滅的な被害を受けた。


 数年の時。数多くの協力により、壊滅的被害を受けていた区分はかつての賑わいを取り戻している。


「はい、迷子の猫ちゃんは発見しましたよっと」

「あぁ~、良かった~……本当、何処言ってたのよ、この子はぁ~!!」

 ウェザーの襲撃、アルカドアの科学者による暴走。

数多くの騒乱から数年後。それといった事件も起きず、魔物の襲撃に見舞われることもなくなった王都は今日も何気ない日常を迎えている。


「ありがとうございましたぁ~……」

 ここ、何でも屋スカルも一年という長い時を積み重ね、“頼れるお隣さん”と呼ばれるくらいには業績を伸ばしていた。王都の小さなヒーローには昇格したのである。


 今日も迷子になったペットの子猫ちゃん探し。二日と時間はかかり過ぎたが何でも屋の主人であるスカルの根気の勝利。

 捕獲された子猫ちゃんは不貞腐れた表情を浮かべながら、香水きつめの貴族のおばさんの手によって連れて帰られた。



「よしっ、今日も快調快調!」

 スカルは文句なしの大成功に鼻を伸ばしている。

「今月で15件は終わらせてる。順調だねぇ~」

 何でも屋スカルという職場にすっかり馴染んだオボロも絶好調の業績には頬がホックリと緩んでいる。


「ああ、ブチまけた話、ビッグになるのも遠くないぜ、これは!」

 札束のプールで泳げるくらいの大富豪はまだまだ遠いが、何でも屋スカルの評判は王都の街でも広まり始め、一獲千金の夢も明確に見えてきたことにスカルは喜びのあまりウかれ始めていた。


 それぐらい絶好調の日々が続いている。

 スカルとオボロは互いにハイタッチ。腕を組んでメリーゴーランド。とにかく踊りたくなるほどに狂喜乱舞を繰り返していた。


「あ、あの~……今、いいっすか?」

 二人だけの世界。完全に盛り上がっているところに横槍が。


「おわわわ!? お客さんだよ、スカル!?」

「おっと、すまねぇ……って、精霊騎士さん?」

 何でも屋スカルにやってきたのはこれまた珍しい客人。


「はい、その精霊騎士っす」

 精霊騎士団唯一の弓手。プラタナス。

 その後ろには相棒であるディジーもいた。入り口が狭すぎるため、彼は外でじっと待機しているようだ。狭い入り口からディジーの足が見え隠れしている。


「えっと、今日は何用で?」

「……少しの間、店を空けることは出来るっすか?」

「「?」」

 一体何用だというのか。

 スカルとオボロは二人して、首を横にかしげていた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 数分後、プラタナスに連れられたスカルとオボロは王城にまで連れていかれる。


 仕事、だそうだ。

 しかもその仕事は何でも屋スカル……いや、彼等には絶対に耳に通しておかなければいけないことなのだという。


 王城の客間。

 そこで待っていたのは騎士団長の従者であるエーデルワイス。


 何でも屋スカルはエーデルワイスより、耳に通しておかなければいけないという仕事の件について軽く話を進めていく。



「何だって!?」

「グレンの島国が魔族に襲撃されてる!?」


 数時間前、王都ファルザローブの城へ直達の手紙が届いた。

 しかもその手紙はグレンの島国にて最速と言われている緊急用の伝書鳩。手紙の差出人もフリジオによる直筆のものであり、手紙も“至急”というメッセージがつづられていた。


 向こうで何かあったのか。手紙を受け取ったエーデルワイスはすぐさま手紙を開く。


 ……魔族・アグルの襲撃。

 現在は猶予を貰っているが実質占拠下に置かれているも同然の状態。想像を遥かに上回す戦力が予想されるため至急援軍を求めたい。


 その場にいる戦士だけでは対処が出来ないというのだ。

 王都も認める最強の戦士ロザン、そして仮にも精霊騎士の一人であるフリジオの手をもってしても対処のしようのない一族。


 王都は至急援軍部隊をグレンへと送ることを決定した。

 その戦力の一部として……何でも屋スカルを指名したのである。


「おい、コーテナ達は大丈夫なのか!?」

「大丈夫とのことだそうです。まだ、本格的な攻撃は始まっていないとのことで」

 一度、落ち着くようにエーデルワイスはスカルをたしなめる。


「……このご依頼、引き受けてはくれますか」

「当然だ! むしろ行かせてくれ!」

 スカルは当然断ることはしない。


「仲間のピンチに黙っていられるかってんだ!」

「私も行くよ。あの子達にはお世話になったしねぇ!」

 スカルとオボロは当然参加。援軍部隊の助っ人として協力することに。


「……当然、アイツも連れて行っていいよな?」

 スカルはこの街を出る前に提案をする。

 何でも屋スカルのメンバーであるもう一人。同じく、コーテナの味方であり……彼女にとって、“かけがえのない存在”である、あの少年の事を。


「勿論です。既に彼にも話は通してあります……」

 エーデルワイスは援軍部隊のメンバーや、その助っ人として収集されているメンバーなどの詳細を伝えながら、今回の一件の解説を始めた。


「今の彼なら、大丈夫ですからね」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 王都ファルザローブの裏山の丘。 

 座り心地の良い大岩の上で一人、少年が空を見上げている。


 ……白兵戦用に用意された軽量の胸当て付きの服。上着に真っ黒いフード付きのローブ。


 ショートカットだった白い髪は、以前よりやや長く伸ばしている。


 左目は、顔面と一体化した謎の仮面によって覆いつくされている。

 右目はドライに空を見上げながらも、かつてと違う“輝き”が見える。



「……やっと、会えるんだよナ」

 少年は一人静かに笑みを浮かべる。


「コーテナ」


 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




 グレンの島国、襲撃開始まで……あと、二日と半日___!!

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